レポート

モード学園スパイラルタワーズ
 新しい名古屋の顔となる超高層ビル
  [建物を見て]

モード学園スパイラルタワーズ

とにかく目立っていた。昨年、オープンしたばかりの「ミッドランド スクエア」を訪れたときも、実はこちらの現場の方に見とれていたくらいだ。「モード学園スパイラルタワーズ」である。これは建築の専門知識が一切なくても、街を歩く一般の人々に訴える圧倒的な力をもっていた。
 
名古屋駅前の風景を見渡すと、「JRセントラルタワーズ」を契機として、「名古屋ルーセントタワー」や「ミッドランド スクエア」などが登場し、モード学園よりもはるかに高いビルは存在する。だが、ねじれた超高層というユニークさゆえに、完成前から大きなインパクトを与えていた。一番高ければ、街のシンボルになるわけではない。それにしても、同じ日建設計なのに、なぜスパイラルタワーズだけが、ミッドランド スクエアやルーセントとはまったく違うタイプのデザインになっているのかが、ずっと不思議だった。しかし、今回、いろいろと説明を聞いて、その謎は解明した。


脱「ビジネス・スーツ・ビル」

モード学園は、個性のあるビルを建てたいという学長の強い意志を反映したものなのである。コンペのときも日建設計からいくつかの案を出しているが、もっとも冒険的なプロジェクトが選ばれたという。なるほど、東京の新宿西口において、やはり完成前から目立っている「コクーンタワー」も、モード学園の新しい顔となるビルだ。こちらは丹下健三の事務所が担当しているが、言うまでもなく、東京の新都庁舎など、ランドマークとなる建築を手がけるのが得意なところである。
 
現在、日本ではグローバリズムや規制緩和の影響もあり、東京をはじめとして各地で高層ビルのプロジェクトが相次ぐ。だが、中国や中近東のにぎやかな状況に比べると、東大教授の鈴木博之氏が指摘したように、没個性的な「ビジネス・スーツ・ビル」ばかりだ。それは創業者の社長が減り、リスクを恐れるサラリーマン社長ばかりになったことや、ドライな経済原理が優先されていることの反映かもしれない。

記憶に残るオンリーワンの建築

いわばドバイ型のアイコン建築は、日本では珍しい。正直言って、森ビルの「六本木ヒルズ」でさえ、でかい割にはおとなし過ぎると思う。隠せないのだから、ちゃんとした顔をつくるべきだ。こうした印象は、名古屋駅前の「ミッドランド スクエア」にも抱く。とても優秀な建築ではある。ミニマルでクール。だが、生徒会長に立候補すべきだったのに、目立ちすぎて叩かれるのを嫌ったのか、それをやり過ごす冷めた優等生という感じだ。「ルーセントタワー」は、TOSHIO SHIMIZU ART OFFICEの協力を得て、あちこちにアートワークを散りばめたところは素晴らしいが、なめらかな曲線のシルエットも、どうしても「COREDO日本橋」を思いだす。それゆえ、オンリーワンの存在感を示したスパイラルタワーズは、エネルギッシュで爽快だ。もちろん、これは社長建築だという揶揄があるかもしれない。でも、これだけ記憶に残るビルを街に提供したのだから、もっと褒められるべきだ。

発想の転換が特殊な造形を生んだ

内部を見学しても、改めて思いきった建築だと感じた。たとえば、エレベーターのシステム。上層にいくほど床面積が減るデザインであり、エレベーターを増やし過ぎると、さらに床面積が圧迫される。そこで4層ごとにしか止まらないことで、数を抑えたのだが、途中階にアクセスするためには、階段を使って、1階分上るか、1、2階分降りればいい。発想の転換である。ユニバーサルな利用が求められる通常のオフィスなら難しいが、モード学園ではこうした考えを採用しているらしい。確かに、使用者は若い学生が中心である。また、これは誰が使うことになるか分からない貸しビルではなく、地下の商業施設を除けば、すべてのフロアにモード学園の関連する3つの専門学校が入る予定だから、使い方もあらかじめ想定できる。すなわち、施主の側がしっかりとした考えをもっているからこそ、スパイラルという特殊な造形が可能になっているのだ。

造形に応える個性的な教室

各フロアは、3階の図書室や4階のマルチホール以外は基本的に大空間はなく、複数の教室によって分節されている。最上階から少しずつ降りながら、それぞれの教室をまわった。いわゆる建築計画学的に内部のプランから設計したら、絶対に出てこない変形した空間が続く。スパイラルタワーズでは、インナートラスチューブの周りを3つの曲面ガラス壁(=ウイング)が回転しながら、しぼるという造形に各階ごとに異なる対応をしながら、さまざまなタイプの教室を生み出していた。特に上階は、コアと周りの教室の距離が狭くなっているだけに、設計に苦労したことがうかがえる。もっとも、ここは3種類の専門学校が入っているために、プログラム的には通常の教室の反復ばかりを求めるのではない。美容サロン、店舗販売、介護、救急救命の実習室、コンピュータやスポーツトレーニングのルーム、制作室など、最新の設備を導入した個性的な部屋が多い。

新たなランドマークとして

彫刻的な外観がもたらした難しい施工にも、合理的な解決法を導きだし、スパイラルタワーズは実現された。しかし、ネガティブに受けとるのではなく、チャレンジングな仕事だからこそ、現場や技術者も燃えあがるというパワーを感じるビルである。
 
東海大地震も想定し、屋上制震や制振カラムなども導入していた。これはコンピュータ解析による構造設計、精度の高い職人の仕事、そして日建設計のフレキシブルなデザイン力が融合して、はじめて完成した新しい名古屋のランドマークといえよう。施主の思いから、都市に対する顔をどうするかを一番に優先した建築である。おそらく広告費換算で宣伝効果を計算しても、かなりの額を稼ぎだすビルになるだろう。

▲足元周り。四周を一回りすることが出来る。

▲1階一般受付の応接ブース越しに街を見る。

五十嵐太郎(いがらし たろう) 建築史・建築批評家
1967年フランス・パリ生まれ。1990年東京大学工学部建築学科卒業。1992年同大学院修士課程修了。
現在、東北大学准教授、博士(工学)、建築史・建築批評家。
主な著書に『終わりの建築/始まりの建築』(INAX出版)、『戦争と建築』(晶文社)、『現代建築に関する16章』(講談社現代新書)ほか多数。
本年開催される第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展では日本館コミッショナーを務める。


*出典は日建設計— Quarterly Vol.21 2008 Summer-NIKKEN SEKKEI こちら(PDF749KB)

(O-A-0002)

¶:写真撮影 鈴木研一

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