9-2. 宇宙は何からできているのだろう?
   —スーパーカミオカンデとJ-PARC-

 子供時代、誰でも夜空の星を見上げながら「この宇宙の向こうは、どうなっているのかな?」という素朴な疑問を持ったことがあるでしょう。現在の私達は、その不思議さをすっかり忘れてしまいましたが、この素直な疑問を持ち続け、素粒子物理学で「宇宙の謎」に挑み続けている人達がいます。400年前、ガリレオ・ガリレイが手製の天体望遠鏡で天体を観測したように、現代の研究者は、素粒子を観測するスーパーカミオカンデや、素粒子を発射するJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)のような大規模観測装置を使って、宇宙と物質の謎に迫っています。

ニュートリノに質量があることの発見は、現在の素粒子理論を発展させ、
「宇宙の謎」に更に迫る

 ニュートリノは、宇宙の中で無数に飛び交っている素粒子の一つで、宇宙と物質の謎を解く重要な鍵となっています。また、物質の中をスルリと通り抜けるので、観測するのが至難な素粒子でもあります。1996年、5万tの超純水の貯水量と11,146本の光電子増倍管を備えたスーパーカミオカンデが完成しました。スーパーカミオカンデとは、ニュートリノがスーパーカミオカンデに飛び込んで来ると水槽内の水の電子などの荷電粒子を叩き出し、その荷電粒子が発生する青白い光の輪を光電子増倍管で検出してニュートリノを観測する装置です。観測に邪魔になる宇宙線を避けるため、岐阜県神岡の地下1,000mに設置されました。またニュートリノがこのような反応を起こすのは極めて稀であるため、大量の水を貯えて、ニュートリノを待ち構えています。
 1998年、このスーパーカミオカンデを使った観測により、それまで質量がゼロとされていたニュートリノに、質量があることが明らかになりました。この発見は、現在の素粒子理論を大きく発展させ「宇宙の謎」に更に迫るものであり、世界でも大きく報道されました。

9-10 スーパーカミオカンデ 平成8年(1996)  内部の床・壁・天井には、11,146本の光電子増倍管が取り付けられている。

9-11 岐阜県神岡鉱山の内部、地下1,000mにつくられた世界最大の
    ニュートリノ観測装置。正式には、大型水チェレンコフ
    宇宙素粒子観測装置と呼ばれる。

 1987年、スーパーカミオカンデの前身であるカミオカンデを使い、大マゼラン星雲で発生した超新星爆発に伴うニュートリノが世界で初めて観測されました。このことは、小柴昌俊博士のノーベル賞受賞とともに良く知られています。この時に捉えられたニュートリノ事象は11個で、爆発の詳細までは分かりませんでした。しかし、その後につくられたスーパーカミオカンデでは、超新星爆発が我々の銀河中心付近で起こった場合、約10,000事象ものニュートリノを捉えることができ「宇宙の謎」に迫る超新星爆発のメカニズムを詳しく調べることができるため、大きな期待が寄せられています。

 スーパーカミオカンデの大水槽のステンレスライニング(被覆)や光電子増倍管を支持する構築物については、日建設計が設計を行いました。
 地中を開削して造られたスーパーカミオカンデは、直径39m・深さ42mの大きな空洞(水槽)の中にステンレスのライニングが施されたもので、光電子増倍管が40mの高さまでびっしりと取り付けられた内水槽と、その周囲の外水槽から成っています。

ニュートリノを、東海村から神岡まで地中295kmを飛ばす

 茨城県の東海村に、大強度陽子加速器施設J-PARCがつくられました。ここは世界最強度の陽子ビーム加速器を持つ実験施設群で、素粒子物理学をはじめ、基礎科学から産業応用まで幅広い分野における最先端の研究が進められています。陽子は330mの線形加速器と周長350mの3GeVシンクロトロン、及び周長1,600mの50GeV(ギガ電子ボルト)シンクロトロンで加速され、光速度の99.98%に達します。この加速された陽子を金属やグラファイトに衝突させ、その時に発生する2次粒子ビームを種々の実験に利用しています。

9-12 J-PARC施設

 この2次粒子ビームの一つにニュートリノがあります。地球も通り抜けてしまう不思議な粒子ニュートリノを、295km離れた岐阜県神岡のスーパーカミオカンデへ向けて飛ばし、その状態変化を観測することで、宇宙創成や質量の謎についての研究が進められるそうです。地球は丸いので、発射装置をやや下に向けて、地中にニュートリノビームを撃ち込んでおり、通り抜けたニュートリノビーム(無害)は、韓国あたりで地上に突き抜けているとのことです。

9-13 スーパーカミオカンデとニュートリノ

 J-PARCは、大電流の陽子を高エネルギーに加速する施設であり、発生する放射線が強いことなどから、施設計画・設計・施工の各段階で、多くの課題がありました。加速器トンネルは、放射線を遮蔽するために壁の厚さが2~5mに及ぶ鉄筋コンクリートで造られています。また、加速器運転時と保守時の室温変化により生じるトンネル躯体の熱膨張応力や変形への対応、精密機器を据え付けるための微振動や床沈下量の制御、床剛性の確保、地下施設の防水・漏水対策など様々の困難な課題に取り組みました。

 あまり知られていませんが、日建設計では、スーパーカミオカンデやJ-PARC以外にも、多くの世界最先端レベルの科学関連施設の設計監理を手掛けてきました。例えば、世界最高水準の「京コンピュータ」を格納する、理化学研究所・計算科学研究機構の施設や、地殻変動のメカニズムや気象・海象現象の解析などに大きな威力を発揮する、海洋科学技術センターの地球シミュレーター施設などの設計監理も行っています。

(参考文献)

神岡宇宙素粒子研究施設 ホームページ
日本原子力研究開発機構 プレス発表資料
村山 斉 (2013) 『宇宙は何でできているのか —素粒子物理学で解く宇宙の謎—』幻冬舎
日建設計 (2009) 『NIKKEN SEKKEI Quarterly vol.24』「世界をリードする科学技術施設と日建設計」 日建設計

出典
9-10~11 提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
9-12 提供:日本原子力研究開発機構
9-13 提供:T2K実験国際共同研究グループ

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