東京スカイツリー
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東京スカイツリーの顔

トップ対談

日建設計代表取締役会長 中村 光男
日建設計代表取締役会長
中村 光男
彫刻家・元東京芸術大学学長 東京芸術大学名誉教授・顧問 澄川 喜一氏
彫刻家・元東京芸術大学学長
東京芸術大学名誉教授・顧問

澄川 喜一

【日刊建設工業新聞2010年12月1日記事より全文掲載】
2011年12月の完成に向けて、建設が進む東京スカイツリー®。全国民の注目を集めている近年まれなビッグプロジェクトだ。すでに高さ497mの本体頂上に到達し、予定では来年春にゲイン塔もリフトアップされ、完成時の高さ634mの雄姿を見せる。この世紀のプロジェクトに、デザイン監修として携わる彫刻家の澄川喜一氏(元東京芸術大学学長、東京芸術大学名誉教授・顧問)と、設計を手がけている日建設計の中村光男代表取締役会長に、東京スカイツリーに込められたデザイン思想や技術的な特長、波及効果などをテーマに対談いたしました。

中村 2003年に在京の放送事業者を中心に、600m級の新しい電波塔の建設に向けたプロジェクトが始動しました。当社は、初期の段階から検討に参画し、デザイン的、技術的な面から600m級のタワーのスタディを行ってきました。 2006年3月、建設地が東京都墨田区の東武鉄道の貨物駅跡地に決まって当社が設計を担当することになりました。初めに考えたのは、異なる二つの形状が上部で相関するデザインです。600mもの高さのタワーが、下から上まで同じ形状では景観的に単調となり、周辺地域に圧迫感を与えかねません。この基本的なデザインコンセプトは、そのまま受け継がれています。ただ、東京タワー(東京都港区、333m、1958年竣工)より幅の狭い敷地に、倍近い高さの塔を建てるのですから、エンジニアリング面を含め、何度も何度も詳細な検討を重ねて設計を進めました。その結果生まれたのが、タワーの平面形が低層部の三角形から高層部の円形へと連続的に変化する独特な形状のデザインです。東京スカイツリーは、景観的に非常に重要な建造物となるため、環境造形の権威である彫刻家の澄川先生にデザイン監修をお願いしました。澄川先生には、東京湾アクアラインの「風の塔」(川崎市川崎区、1996年竣工)のデザイン検討や、進行中の東京駅八重洲口開発計画などでもご協力をいただいています。

澄川 私こそ、東京スカイツリーという歴史に残る大プロジェクトに、計画段階から参加させていただいて感謝しています。いま建設途中にもかかわらず、多くの方が東京スカイツリーの写真を撮っていますが、撮影する場所によって違う表情を見せていることにお気づきになるでしょう。実は、1周してみないと全貌がわからない不思議さが、東京スカイツリーのデザイン的な特長なのです。不思議さは魅力を生む重要な要素です。ピサの斜塔も、まっすぐに立っていたら普通の塔で、名所にはならなかったと思います。傾いても建っている不思議さに人は魅せられるのです。人間も不思議な人ほど魅力があるものです。東京スカイツリーに求めたものこそ、この不思議な美でした。

中村 特にこのようなタワーは、通常の超高層ビル以上に技術的な要求事項が多いので、当社だけで設計していたら、もっと技術的側面が強調されていたかもしれません。澄川先生が監修して下さることで、常に美を意識しながら設計できたと思います。

澄川 東京スカイツリーの基本思想は「シンプル・イズ・ビューティフル」。私にとって、その美の源にあるのが五重塔で、構造的な解決にも五重塔の心柱のような技法が反映されています。法隆寺(奈良県斑鳩町)の五重塔は、日本で最も美しい建物の一つと言われていますが、計算機もない、クレーンもない、もちろん建築工学という学問もない7世紀に建立され、地震でも壊れることなく、1300年後の現在も建っているのは、とても不思議です。五重塔は、心柱が中心を貫き、周りの四天柱と側柱は、心柱にふれることなく、最上層の大屋根の垂木と組み合うまで組み上げられていて、柔軟な構造になっています。東京スカイツリーのデザインを考えるにあたって、狭い敷地でも高くて美しく地震にも強い塔とするには五重塔しかないと、瞬間的に思いました。

構造原理は五重塔の心柱構造
伝統文化の「そり」「むくり」を表現

中村 東京スカイツリーには、「和の美」の基本形となる「そり」とか「むくり」といった伝統木造建築の様式が表現されています。日本固有の美意識を取り込み、最新の技術の粋を集めることで、日本らしいタワーになったと思います。中央部の心柱と外周部の鉄骨造の塔体を構造的に分離し、中央部の心柱上部を「錘」として機能させる制振システムを採用しており、大地震時でも揺れを大幅に低減することができます。  当社は、古くは名古屋テレビ塔(名古屋市中区、180m、1954年竣工)を皮切りにさっぽろテレビ塔(札幌市中央区、147.2m、1955年竣工)、東京タワー、近年は秋田ポートタワー・セリオン(秋田市、143.6m、1994年竣工)、瀬戸デジタルタワー(愛知県瀬戸市、244.7m、2003年竣工)など数多くのタワーを手がけてきました。時代ごとに、新しいタワーを考案してきた経験も生かされています。

澄川 東京スカイツリーは、五重塔の美しさに新しい技術を添えることで、より魅力のある構造物となりました。五重塔は、全高の3分の2に屋根がかかって、上部の3分の1は天に向かって突き出している相輪で、そのプロポーションが美しいのです。東京スカイツリーも、ほぼ3分の2の高さに第2展望台があって、その上にアンテナ部分のゲイン塔が相輪のように突き出します。また、高さも24mほど伸ばして634mにしたことで、一層バランスが良くなりました。

中村 そり、むくりの曲線美をさらに引き立てているのは、構造部材の鋼管です。この鋼管の接合に、職人の技が生かされています。さまざまな角度でつながる鋼管の接合面は三次元となりすべて異なります。この切断面はコンピューターにデータを入力し、機械で加工するのですが、その最終の仕上げは職人の手作業です。厚さ10pもの鋼板を寸法通りに曲げ加工したり溶接したりする職人がいてはじめて、東京スカイツリーの工事が可能となるのです。欧米では、組石造を伝統様式としてそこからコンクリート造建築へ進んだように、木の柱と梁による軸組工法に親しんできた日本だからこそ、線材として鉄骨をつなぎ合わせてつくる技が生かされているのでしょう。

澄川 東京スカイツリーの工事には、職人も日本全国から集まっていて、まさにオール・ジャパンのプロジェクトです。構造部材となる鋼管パイプの加工、接合技術は神業的です。そこには、他の国ではまねのできない匠の技があるのです。地上450mの第2展望台もとてもユニークですね。ガラス張りチューブ構造の空中回廊は、まるで空中を散歩しているかのような気分が味わえそうです。気象条件によっては、雲の中に入る場合もあるでしょう。私は、清く正しく生きている人には、天女が見えると言っているんですよ(笑)。

中村 工事中からこれほど話題になるプロジェクトも、最近では非常に珍しいですね。建設の様子を見ようと、大勢の方が押し寄せ、下町の振興にも役立っています。低層部には、約300店舗が入る商業施設も建設され、開業後は、さらににぎわいにあふれた地域となるでしょう。加えて、地元だけでなく都心の様々な地域に波及効果を及ぼしています。東京タワーも改めてクローズアップされていて、東京タワーからスカイツリーを見る人などで、入場者数が増加していると聞きます。スカイツリーが見えるホテルの客室やマンションは、賃料や稼働率があがり、特に、東京タワーと東京スカイツリーの両方が見える場所は、希少価値から大きな人気を呼んでいるようです。

澄川 タワーではなく、ツリーという名称も「時空を超えたランドスケープ」にふさわしい天に向かって伸びる木を表現していて、名称検討委員会の審査員の一人として、よかったと実感しています。なじみやすい名称で、すでに全国的に知れ渡っています。景気停滞が続いていて、日本人の多くが下を向いている時代ですが、あそこにいくとツリーを見上げるものだから、みんな上を向いていますよ。経済効果とともに、人々に夢や勇気を与えているんじゃないかな。

江戸情緒を生かした街に観光立国の実現にも貢献

中村 通常、大きなプロジェクトでは、何らかの反対運動があったりもしますがが、今回は皆無でした。地元の方々は大歓迎で、みんなに祝福されながら進められている幸せなプロジェクトです。東京スカイツリーで脚光を浴びることとなった地域の商店街や地元行政からも、積極的なご協力をいただいております。墨田区では、東京スカイツリーの下を流れる北十間川沿いの護岸修景等に取り組み、親水テラスや水質浄化設備の整備も計画されています。また船着き場をつくり、水上バスを運行させる計画も検討されているようです。現段階では、洪水防止用の樋門によって隅田川と遮断されているため、大きな閘門を造る必要があるなど、隅田川から直接船が入るのは難しい状況ですが、浅草、お台場、東京ディズニーランドを結ぶような水上交通ができれば、立地による鉄道アクセスのよさ、空港からのアクセスのよさともあいまって、観光立国を目指している日本にとって、海外からの観光客を呼び込むセールスポイントになるはずです。

澄川 墨田区は葛飾北斎ゆかりの地で、江戸切り子や市松人形などの伝統工芸も盛んな江戸情緒に満ちた地域です。現代建築の象徴となる東京スカイツリーと江戸の下町の風情が融合した、日本を代表する観光地になるでしょう。国も世界に向けて日本の良さを発信するべきだと思います。フランスには国の人口より多い約8000万人もの観光客が毎年訪れています。国が歴史や主要産業の農業を生かした観光戦略に取り組み、世界各国向けのポスターを制作して宣伝しています。日本の政府は、昨年700万人弱だった訪日外国人観光客を2016年までに2000万人、2019年までに2500万人、将来的には3000万人にする計画を閣議決定していますが、具体的な策がないと目標達成は実現できません。日本にだって、地方にもたくさん魅力のある場所があるのに、海外には全然知られていません。観光は「光を観る」と書くのですから、もっと光を出すような政策が必要だと思います。

中村 たとえば、世界中で和食がブームになっていて、日本に来て本物の和食を食べる、あるいは、東京スカイツリーを観光してから東武鉄道を使って日光の温泉に入るというニーズが必ずあるはずです。

澄川 隅田川に屋形船を浮かべ、東京スカイツリーを見ながら天ぷらを食べるというのも、外国人旅行者にPRする最高の材料となりますね。

中村 東京スカイツリーは、下町の再生のみならず、必ずや世界中の目を東京に集め、都市としての競争力を高める起爆剤になるものと確信しています。