コンサートの縦ノリ振動を大幅低減
~トランポリンと同じ!?縦ノリ防振架構とは~

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大規模多目的施設やライブハウスにおける縦ノリによって、周辺の建物が大きく揺れる場合があります。このような振動が発生した場合には、施設運営会社は、縦ノリの発生が予想されるアーティストのイベントを禁止する、あるいは曲調を限定するなどの対応が必要となり、コンサート事業にとって大きな課題となっています。そこで日建設計は、縦ノリによって発生する振動を低減する「縦ノリ防振架構(特許第7088664号)」を考案しました。
人々が幅広いエンターテインメントを楽しめる施設づくり、まちづくりへの貢献を目指します。

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「縦ノリ防振架構」の効果

「縦ノリ防振架構」は、コンサートを開催する会場の観客席などの床下に設ける梁を工夫することで、発生する振動を80~90%低減することが可能です。これは、例えば5,000人のライブであれば、地盤に伝わる振動を500~1,000人のライブと同等まで抑えることができるということになります。これにより、コンサート以外の用途を主目的とした多目的施設であっても音楽ライブが実施しやすくなり、事業者の収益向上にも繋がります。

人の動作でなぜ周辺の建物が揺れるのか?
~原因は共振現象~

縦ノリ振動は地盤を介して数100m先の特定の建物を大きく揺らすことがあります。特定の建物が大きく揺れる理由は「共振現象」にあります。「共振」とは、地震などによって発生する地盤の揺れの周期と、各建物に固有の揺れやすい周期(固有周期)が一致した場合に 、建物内で振動が数十倍に増幅される現象です。縦ノリ振動によって発生する振動の周期と同じ固有周期をもつ建物では共振現象が起こり、人々の生活に支障を与えるほどの大きな揺れを生んでしまうのです。

縦ノリ振動によって共振する建物と共振しない建物

ある地盤における縦ノリ振動時の地盤の振動伝搬シミュレーション結果
(地盤断面の水平変位図)

「縦ノリ防振架構」の仕組み
~「柔らかく、重たい」梁で縦ノリ振動を低減~

通常、床を支える梁は「硬く、軽く」設計し、性能を確保しますが、本架構ではあえて「柔らかく、重たい」梁とすることで、縦ノリ振動を大きく低減します。イメージとしては、柔らかいトランポリンの上で小刻みに飛び跳ねても床に振動が伝わりにくいことと同じ原理です。ただ、単に柔らかくするだけでは、縦ノリしている本人がふわふわと気分が悪くなってしまうため、梁におもりと制振ダンパーを付加します。これによって床の揺れの大きさと揺れる時間の長さを抑え、ホールとしての性能を確保します。
上記の性能を実現するため、梁には強度が通常使用される鉄骨の2倍程度ある超高強度鋼材H-SA700を、おもりには通常の砂や骨材に比べて比重が重く、コンクリートより安価な電気炉酸化スラグ骨材を用います。

一般的なホールと縦ノリ防振架構の違い

縦ノリ防振架構の振動低減効果

実証実験

上記の理論を実証するため、2022年11月30日~12月23日にかけて構造実験を実施し、「柔らかく、重たい」梁が、縦ノリによって発生する振動を低減することを確認しました。

試験体

実験風景

振動低減効果

開発の経緯と今後の展望

縦ノリ振動による問題が社会で認知されるようになったのは1990年代です。同時に、当時の技術では周辺建物へ伝搬する振動には有効な対策がないということも判明し、以降、縦ノリ振動は対策が難しいという風潮が続きました。 2015年、あるクライアントから「どのようなライブでも開催できるホールを設置したい。縦ノリ振動への対策を何としても考えてほしい。」という強いご要望をいただきました。我々は縦ノリ振動によって発生する問題・原理を改めて詳細にときほぐし、様々な対策の可能性を探りました。その中で、振動問題を解決するためには、いかに振動源に近いところでその振動を抑えるかが最も重要であると考え、ホールの床直下でできる振動低減技術の開発を進めました。その後、大学とも連携して本技術に関する理論を構築し、実証実験に至っています。
本技術は、梁という一般的な建築要素を用いた単純な構造をしており、確実性の高い防振システムであることが特徴です。今後は、実験で得られた知見を活かし、より低減効果の高い縦ノリ防振架構を目指して開発を進めると同時に、国内外問わず様々な用途の建物で提案していきます。

※ 本技術に関する研究
1. 集客施設で生じるたてのり振動の制御及び人体の動的応答を考慮した不快感の評価に関する研究(日本建築学会大会学術講演梗概集2020年9月 小澤、朝日、福和、駒澤)
2. 人間の動作による加振力を低減するための大質量・低剛性防振架構の振動特性(日本建築学会大会学術講演梗概集2021年9月 小澤、朝日、福和)

  • 朝日 智生

    朝日 智生

    名古屋工業大学、東京工業大学大学院を経て、2008年日建設計に入社。構造設計者として「トヨタ記念病院」「高知市新庁舎」「住友不動産麹町ガーデンタワー」「ニッセー新本社ビル」「神戸学院大学付属高等学校」「蘇州現代メディアプラザ」「京都産業大学万有館」「愛知県医療療育総合センター」などを担当。設計業務のほか、名古屋大学減災連携研究センター受託研究員や、環境振動に関する日本建築学会の委員を務めるなど、都市の防災・減災、環境振動にかかわる社会貢献活動に取り組む。2017年、縦ノリ振動を防振する技術を考案し特許出願。構造設計一級建築士。日本建築学会、日本建築構造技術者協会会員。

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