11-3
ベトナムの歴史や文化への敬意から
ベトナムは龍と仙女が婚姻して生まれた百人の子供から発展した、という神話があります。ベトナムの人々の静かな情熱と調和に富んだ知性に育まれた歴史や文化には、非常に奥深いものがありますが、次に紹介する2つのプロジェクトは、そのような歴史や文化に敬意を払って進められているものです。
ベトナム国立歴史博物館
11-16 ベトナム国立歴史博物館
立ち昇る黄金の龍の伝説を彷彿とさせる透視図
湖面上に静かに伏せている歴史博物館の全体像からは、湖面に映る像と一体となって、龍がゆったりと横たわっているような姿を連想させます。風水の考え方も取り入れられ、歴史博物館が浮かんでいるような人造湖の水は、気温の高いベトナムにおける建物のありかたである「湖水と一体となった景観づくり」に欠かせないものと考えました。もちろん水の自然エネルギー利用も考慮された設計となっています。
11-17 龍に水は欠かせないもの。湖水の低い水温は、全館の冷房に自然エネルギーとして利用されている。
11-18 井籠状に組み上げられたコンクリート成型部材は、PC鋼材で緊結される。
11-19 スマトラ島のバタク・シマルングン族の住居。住居下部は南方系の井籠組構造
ホーチミン市都市計画
しかし近年の急激な人口増で、ホーチミン市は、都心部における人口の過密化・交通渋滞・住環境の悪化・地価の高騰・スプロール現象など多くの都市問題を抱えています。さらに20年後には、都市人口が1,000万人に達する巨大都市になると予測されており、都市問題の深刻な悪化が懸念されています。
11-20 既存のホーチミン市の都市構造を尊重しつつ提言された都市計画の鳥瞰図
ホーチミン市は都市域の50%以上が海抜2m以下の低い地盤面であり、良好な都市開発のための土地が限定されているという不利な地勢条件があります。これらの都市計画では、その地勢条件を踏まえ、交通インフラで連結された多核分散型の都市構造を作ることを提案しています。また都市成長の勢いを良好な方向に制御するため、土地利用政策や土地利用のためのガイドラインを戦略的にきめ細かく作成しました。
さらに、綿密な調査・研究を踏まえ、環境負荷のすくない都市交通システムの実現を提言しました。この都市交通システムによる効果は、エネルギーの有効利用や大気汚染の低減に留まらず、良好な都市景観の形成や賑わいの創出にも及びます。
また、ベトナムでは初めて、歴史的景観を保存し再生するためのデザインガイドラインの策定も行われています。
かつて「東洋の真珠」と呼ばれたホーチミン市を、環境・景観・経済の調和のとれた都市として発展させるための計画です。
-
11-21 新交通システムなどによる都市発展軸の複数設定や、分散する新都市センターづくり、成長もしくは抑制ゾーン設定など、戦略的な都市開発政策の提言を行った。
-
11-22 緑陰のつながりで快適な歩行者空間を形成する。軽軌道の新交通システム(LRT)も走り、保存・再生された歴史的景観は、街に品格を添える。
-
11-23 平成19年(2007)の国際アーバンデザインコンペティションで提言された、歴史的景観の保存・再生のためのデザインガイドライン。
布野 修司+アジア都市建築研究会(2003)『アジア都市建築史』昭和堂
増田 彰久+大田 彰一(2006)『建築のハノイ ベトナムに誕生したパリ』白揚社
小倉 貞男 (2002)『ヴェトナム 歴史の旅』朝日新聞社
友田 博通 (2003)『ベトナム町並み観光ガイド』岩波書店
11-19 提供:布野修司