人と街を豊かにする「ファサード」
~エンジニアリングがつくりだす世界でたったひとつの建築の顔~

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古代より建築には強・用・美が求められてきました。それが構造、設備、意匠という領域に分化し、それぞれの専門性を高めてきました。現代では、環境や防災性能など建築に求められる要素が多様化し、専門性はより深化しています。さらに世界に目を向けると、これまで見たこともないような自由な曲線のファサードをもつ、チャレンジングで複雑な建築形態が見られるようになってきました。
新しいものにはリスクはつきものです。日建設計では、こうした社会の要請に柔軟に応えるため、それぞれの建物に相応しい自由な建築表現の創造と、さまざまな専門性の知見による安全性の確保を同時に実現するファサードエンジニアリング部を2016年に設立しました。

専門分野をつなぎ、みんなのためになるファサードエンジニアリング 

建築ファサードにかかわる様々な要素とファサードエンジニアリング部の構成

ファサードエンジニアリングとは、建築の内外の境界に集まるさまざまな要素を合理的に解き、建築として成立させる職能です。雨風や日射を遮るシェルター機能はもちろんのこと、施工性やコスト、将来のメンテナンス、意匠性といった諸条件をバランスよく判断しながら、建築デザインに昇華させていきます。そのため幅広い分野の知見を必要とするファサードエンジニアのチームは、構造、環境、ITなど各領域での実践を重ねてきたエキスパートで構成しています。領域を横断しながら、よりトータルな視点で建築のデザインを切り拓く技術者集団なのです

「コンセプトの立案から、合理性を裏付けるシミュレーションと解析、ディテールの検証、材料選定まで、具体的なものづくりへつなげる」と、ダイレクターの村上博昭はチームの役割を語ります。自身の専門は構造エンジニアリングで、日本構造デザイン賞やJSCA賞を受賞するなどの実績があります。

個性的なファサードが街を輝かせる。(東急プラザ銀座、2016年、撮影:ナカサアンドパートナーズ)

先進的なIT技術を駆使し、トータルな視点で建築を方向付ける

たとえば大きな敷地の中に大屋根をかけるとします。どのように形状を決めていくのでしょうか。
これまでは、アーキテクトがかたちを考え、構造エンジニアが解析をして形状にフィードバックしていく方法が主流でした。しかし、ファサードエンジニアリング部では、かたちも構造も、鉄骨やガラスの量までも同時に解いていくシミュレーションが可能です。

屋根を構成する部材の構造・数量などの同時検討

また、日射による熱負荷を下げるためにファサードのルーバ形状と日射の関係をシミュレーションしたり、屋根の形状が周辺の風環境に与える影響をシミュレーションしたり、さまざまな視点からの検証を重ねていきます。プロジェクトの条件によっては、太陽の一年間の動きと周辺の建築物の日陰をパラメータとして適切な形状を導き出す逆検討をするなど、それぞれのプロジェクトに応じたシミュレーションの開発も行っています。

IT技術により、時間の流れ、太陽の動きを考慮したファサードの性能や影響確認も可能に。

IT技術を有効に活用した上で、建築の最終的な形状の決定はチームで行います。ファサードエンジニアとアーキテクト、そして構造や設備、ときには音響など各分野の専門部門の協働によるものです。

環境エンジニアリングを専門とするファサードエンジニアの舘景士郎は「ひとつの専門領域の価値観だけで最適化するのではなく、さまざまな領域、視点からの評価を共有したうえで、パラメータにヒエラルキーをつけて判断することが重要。自分の専門領域以外の視点を意識しながら設計している。」と言います。

村上は、「建築は複合的なもの。パラメータが増えたときにどう判断するかが、ファサードエンジニアリングのおもしろいところ」と楽しげに語ります。

建築の「顔」でもあり「シェルター」でもあるファサードは、様々な専門領域を横断し合理的に設計される。(木材会館、2009年 撮影:雁光舎(野田東徳))

建築として具現化するために

現代は、「解析技術は進んできたけれど、同時にそれを実現するための“ものづくり”の技術がより求められています。きちんとつくる方法までアドバイスできるチームでありたい」と、舘はアイデアを実現するための知見をチームとして蓄積していく必要性を語ります。

例えば、複雑な曲面形状の建物を検討していた場合、曲面をあるパーツに分解していくとすべての場所で形状が異なる、ということもあります。そのような場合、コンピュータで曲面を分析・微調整することによって、パーツの種類を減らし、より作りやすいパーツで曲面を構成することでコストをさげ、施工をしやすくすることができます。これもファサードエンジニアの仕事の一つです。

曲面のかたちをなるべく保ちつつ、構成するパーツのパターンを少なくしてコスト・施工性を合理化

また、より深い探求を必要とする場合は組織力を発揮します。たとえば可動しうる接合部がある場合、耐久性が高く動くときに音がでない素材やディテールをどうするか、精緻な調整が必要です。そういう場合には、社内の音響解析チームとも協働して開発を行うのです。

「深い専門知識をもった社内の各専門分野がうまく連携する触媒のようなチームでありたい」と村上は言います。ファサードエンジニアリング部は、多くの視点から出たさまざまなアイデアを、IT技術をつかって合理的に融合させ、建築の可能性の幅を広げるハブとなる存在なのです。
 

心地よい外部空間や歴史的建物の改修など、様々な場面でファサードエンジニアリングが活用されている。(左上|愛知大学名古屋キャンパス、2012年、撮影:エスエス 左下|青森県庁舎改修、2018年、撮影:近代建築社 右|東京駅八重洲口開発 グランルーフ、2013年 撮影:新写真工房)

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