アーバン・コアでつなぐ、「人の動き」と「街の多様性」【前編】

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現在、大規模な再開発が進行している渋谷の街。2018年には「渋谷ストリーム(以下、「ストリーム」と記載)」が開業、デザイン・アーキテクトを務めたシーラカンスアンドアソシエイツトウキョウの赤松佳珠子さん(右)と、2012年に竣工し再開発の嚆矢となった「渋谷ヒカリエ(以下、「ヒカリエ」と記載)」の設計者・吉野繁(左)が再開発プロジェクトについて語り合った。キーワードは各街区に設置される、地下と地上をひとつの動線で結ぶ上下移動の拠点「アーバン・コア」。2つの施設と2つのアーバン・コアから見えてくる、未来の渋谷の姿とは? ファシリテーターは国内外の都市開発プロジェクトを多数経験し、「渋谷駅中心地区まちづくりガイドライン」策定時から渋谷の再開発にも携わっている、都市開発グループ代表の奥森清喜。

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アーバン・コアの「丸い」デザインは、渋谷の象徴

奥森:「アーバン・コア」は、2007年に策定された「渋谷駅中心地区まちづくりガイドライン」で提唱されました。検討委員会には岸井隆幸先生や、名付け親である内藤廣先生も参加していて、当時、よく内藤先生の研究室に足を運んで議論したことを覚えています。アーバン・コアには、上下移動の拠点としての機能はもちろん、各街区の顔であり、環境装置でもあるという、少なくとも3つの側面があると思いますが、当時を振り返ってみていかがでしょう?

吉野:12年前ということは、小学校を2回卒業できるくらい古い話ですね(笑)。ヒカリエの地下3階から地上4階までをつなぐエスカレーターホールがアーバン・コアの第1号ですが、当初から環境装置としての意味合いもありましたね。たとえば太陽光を取り入れて地下に落とす、筒状の空間を通した換気や、地下の熱を逃がすということを検討していました。

赤松:ストリームのアーバン・コアも地下が深いので、とにかく自然光を取り込みたいという話を最初からしていました。同じような議論がヒカリエでもあったんですね。

吉野:はい。それから、形にもっと個性を出そうということになって、さまざまなプランを考えました。実はヒカリエのアーバン・コアは、最初は四角かったんです。でも、アーバン・コアらしさとは何かという議論の中で、内藤先生が「異物感を出したい」とおっしゃっていて。ヒカリエ自体は四角い要素が多いので、アーバン・コアは扇を広げたような形状や、ガラスの多面体、カーテンのドレープのようなデザインなども検討しました。

赤松:現在のような丸みのある形になったのはどうしてですか?

吉野:岸井先生がSHIBUYA109も丸を強調した象徴的な形だと話していて、最終的に「渋谷らしいのは丸いデザインではないか?」ということになりましたね。内部空間も、リング型のサイネージを少しずつずらして配置することで動きを持たせられたかなと思っています。

渋谷駅周辺のネットワーク図(提供:東京急行電鉄株式会社)

奥森:内藤先生は「ヒカリエのアーバン・コアのデザインの方向性を決めたのは私ではなく岸井先生だ」ってよくおっしゃっていますね(笑)。赤松さんは、すでにヒカリエのアーバン・コアが存在している状況で、どのように考えてデザインされたんですか?

赤松:渋谷駅中心地区デザイン会議を通して、アーバン・コアの位置づけが非常に重要であるということはとにかく刷り込まれていました(笑)。渋谷はまさに「谷地形」ですし、ストリームのある国道246号の南側エリアは、いわゆる渋谷からはやや切り離されている印象がありました。ですから、アーバン・コアの人の流れをつなぐ機能を視覚的にわかりやすく伝えることの重要性が議論のスタートになりました。明治通りからみると、ストリームは渋谷川を越えた奥まった場所にあるので、通り沿いのアーバン・コアが邪魔な存在になってはいけないけれど、一方でアーバン・コア自体の存在を主張する必要があったんです。

奥森:渋谷駅中心地区デザイン会議が設置されたのは2011年ですね。渋谷の「常に変わり続ける」という強みを生かすために、渋谷らしいプロセス型の景観誘導を目指し、検討・調整を重ねる場として立ち上げられました。そのデザイン会議では、アーバン・コアについてどのような議論をされましたか?

赤松:デザイン会議では、アーバン・コアがしっかり見えつつ、建物と広場と川がひとつの風景になるといいよねと。そこで考えたのが、カルティエ現代美術財団のガラスのスクリーンが街の風景を反射して映し出しすファサードのように、存在感がありながらも奥へ移動を促す力を持つ存在とすることでした。そして議論を進める中で「アーバン・コアは丸い」という話が出てきて。

吉野:途中からそういう話が出てきたんですか?

赤松:はい、それぞれのアーバン・コアに共通点を持たせようということですね。ガラスを使う方向は変えずに、高速道路や明治通りの動きのある風景がガラス面に映り込むことで、街の様子がアーバン・コアに積層するようなイメージが出せると面白いという話になったんです。

奥森:実際に見ても、存在感がある部分と存在感を感じさせない部分という両極が成立しているのが印象的です。普通、あれだけ人が集まるところだともっとデザインや機能を盛り込みたくなるものだと思いますが、シンプルな「ガラスの箱」という考えは最初からですか?

赤松:はい。アーバン・コアは動線であるという考えで他の機能を持たせていませんでしたから、当初からシンプルなものにしようと話していました。これは小嶋(一浩さん/シーラカンスアンドアソシエイツの共同設立者)が遺した初期のスケッチで、そこには「アーバン・コアは光です」と書いてあって。いかに光を地下まで落とし込むのかということを考えていたので、そもそもガラス以外の選択肢はあまりなかったんです。

「移動」そのものが新しい体験になる

奥森:実際にアーバン・コアが使われているのを見て、どう感じていますか?

吉野:夏に行ったときにエスカレーターからちょっと手を出すと、本当に地下から熱気が上がってくるのを感じるんです。そう考えて設計しているから当然といえば当然ですが、ちゃんと効果があってホッとしました。ただ、場所柄、エスカレーターを使う人たちがあくせくしていて人の動きがすごく激しいんですよね。設計者からすると、もっとゆったり上り下りしてほしいのですが……。赤松さんは完成してみていかがですか?

赤松:ストリームのアーバン・コアは完全な円形ではなく筒状の多面体なんです。エスカレーターから上がってくるときやストリーム側からアーバン・コアを見たとき、特に夜はいろいろな光がガラスに映り込んで、その向こうに高速道路や横断歩道が見えて。現実の風景とガラスに映り込んだ映像が重なった、思っていた以上に不思議な感覚でした。

吉野:今や“インスタ映え”の名所のようになっていますよね(笑)。

赤松:SNSで、みんなものすごくきれいな写真をアップしてくれていますね。SF映画のような写真もあって、「うわ、この画像ほしい!」ってなります(笑)。

吉野:ストリームは動線そのものが印象的なイエローによって強調されていますよね。色についてはどんな議論があったんですか?

渋谷ストリームのアーバン・コア

赤松:地下を歩いていく中で、地上に出るエスカレーターがパッと見えないと迷いますし、行き先を示そうとするとサインだらけになってしまいます。そこで、視覚的に縦動線を認識できるようにしたほうがいいと考えました。色調については相当議論して、やっぱり黄色が一番しっくりきましたね。最終的にかなり派手な黄色を選んだのですが、意外とすんなり受け入れられました。

吉野:そういう経緯だったんですか。日建設計でも、クイーンズスクエア横浜で真っ赤なエスカレーターをつくったことがありましたけど、ストリームの黄色はすごくわかりやすいし、街区全体のイメージを引っ張っていますよね。

赤松:プロジェクトチームに加わってもらっている照明デザイナーの岡安泉さんにも黄色がちゃんと映えるように、いろいろと検討していただきました。サインやマークにも同じカラーを使ってもらえるようになって、今では「ストリーム・イエロー」という名前がついています(笑)。

奥森:吉野と赤松さんはそれぞれ違う時期に再開発に携わりましたが、お互いのデザインに対してどんな印象を持っていますか?

赤松:ストリームのコンペがあったのが2011年くらいで、ヒカリエが開業したのがその翌年でした。でも、仕事とは関係なく「ああ、いよいよオープンだ」とワクワクしたのを覚えています。ヒカリエができたのは東急文化会館の跡地で、私が初めて映画を観た場所だったので、思い入れが強くて……(笑)。

吉野:それ、みんな言いますね(笑)。東急文化会館に思い出がある人は多いみたいです。

赤松:ヒカリエに入って、最初にサイネージのリングの中をエスカレーターで上がっていったときにすごく上昇感があって、今後開発が進む新しい渋谷のシンボルができたという感じがしました。ビル自体も非常にシャープな建物で、それとは対照的にバンッとアーバン・コアがあって、「ああ、そういうことか」と。

吉野:伝わりましたか(笑)。サイネージが自然と目に入って、エスカレーターに乗りながらいろいろな情報が得られるのは、新しい移動体験なのかもしれません。今まで移動中は手元のスマホを見ているだけだったのが、周りに目を向けるようになるという。

渋谷ヒカリエのアーバン・コア ©Shibuya Hikarie

赤松:今後、いろいろなエリアにアーバン・コアができると、地上に上がっていくときに「あ、ヒカリエに来た」「ここはストリームだ」というように、体験としてどこに来たかがわかるのはすごく面白いですよね。

奥森:マスタープランをつくったときにも、複雑な渋谷をわかりやすくすることがアーバン・コアの目的のひとつだという議論がありました。ストリーム・イエローも、そういう点で非常に明快です。

吉野:ストリームのアーバン・コアは、エスカレーター1本で上がっていくことにびっくりしました。ヒカリエは、地下3階から地上4階まで商業フロアを上がっていくので、エスカレーターが折り返して動線がごちゃっとしているんです。てっきりストリームも地下に商業エリアがあって、その中を上がっていくのかと思っていたので……。

奥森:たしかにヒカリエは駅とダイレクトにつながるので、動線のつくり方は苦労しましたよね。いろいろなパターンを検討して。

吉野:ヒカリエのアーバン・コアは、副都心線や銀座線など路線同士のコネクションでもありますからね。いろいろな理由で叶いませんでしたが、本当は銀座線の電車が走る姿がアーバン・コアから見えるようにしたかったんです。副都心線も音は聞こえるし風も感じるんですが、直接見えるアングルはなかなかありませんでした。だから、ストリームのアーバン・コアから首都高速道路を走るトラックが見えたことに感動して、ガラスのファサードやミラーの屋根にしたのはそのためかと思いました。建物の中からすぐそばに中空の道路を走る車を見られるなんて、なかなかないですよね。

赤松:そうですね。駅側から来たときにはエスカレーターの黄色が見えて。目線を上げると首都高速道路が見えて、ミラーの屋根越しに、2つのアクティビティが見えるといいなと考えていました。

奥森:渋谷の一番面白いところは、そういうすぐそばに高速道路があったり、建物の中に銀座線が入っていったりすることかもしれませんね。

吉野:まさにそうだと思います。実はヒカリエはまだ完全に竣工していなくて、これから銀座線のホーム上に屋根をつくるんです。その上を歩けるスカイデッキができてようやく完成します。今ある2Fのデッキだけではなくて、さらにスカイデッキのレベルにも人の流れをつくって、駅や隣接エリアとうまくつなげていきたいですね。
(後編に続く 2019年5月20日公開予定)

赤松佳珠子
CAtパートナー
法政大学教授/神戸芸術工科大学非常勤講師

1990年、日本女子大学家政学部住居学科卒業後、シーラカンス(のちのC+A、CAt)に加わる。2002年よりパートナー。主な作品に「流山市立おおたかの森小中学校・おおたかの森センター・こども図書館」「南方熊楠記念館新館」「京都外国語大学新4号館」など。主な受賞に、日本建築学会賞(作品)、村野藤吾賞、JIA賞、BCS賞、グッドデザイン賞など。

吉野繁
日建設計 フェロー役員
デザインフェロー

1986年、早稲田大学修士課程を経て日建設計に入社。専門は建築意匠設計。主な作品に「日本科学未来館」「ホーチミン会議場展示場」「東京スカイツリー」「ホテルオリオンモトブリゾート&スパ」「新源国際/石家庄プロジェクト」など。主な受賞に、グットデザイン賞、Design For Asia Award (DFAA)2013(香港)Grand Award(大賞)、日本産業技術大賞内閣総理大臣賞など。

プロフィール

奥森清喜
日建設計 執行役員
都市部門 都市開発グループプリンシパル

1992年、東京工業大学大学院総合理工学研究科を修了後、日建設計に入社。専門は都市プランナー。東京駅、渋谷駅に代表される駅まち一体型開発(Transit Oriented Development : TOD)に携わり、中国、ロシアなど多くの海外TODプロジェクトにも参画。主な受賞に、土木学会デザイン賞、鉄道建築協会賞、日本不動産学会著作賞 など。

プロフィール

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