9つの事業者が組んだ”チーム渋谷”による工事調整と広報活動【後編】
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渋谷駅中心地区の再開発工事が本格的に動き出したのは、渋谷ヒカリエが開業した2012年のこと。その翌年、長期的な視野で工事・工程の調整を行う「渋谷駅中心地区工事・工程協議会(通称:CM会議)」がスタートした。集ったのは、まさに“チーム渋谷”といえる、鉄道各社や開発事業者など9つの事業者。今回は、そのメンバーである東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の有川貞久さん(現:新宿南エネルギーサービス株式会社)、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の白子慎介さん、東急株式会社(東急)の森正宏さん、また株式会社日建設計とともにCM会議の立ち上げと運営に携わったパシフィックコンサルタンツ株式会社の小脇立二さんを招いて、再開発工事のこれまでとこれから、そして“チーム渋谷”が果たした役割について語り合った。ファシリテーターは、同協議会の立ち上げ時からプロジェクトに関わる、日建設計都市部門TOD計画部アソシエイトの篠塚雄一郎。
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人は変わっても、データや経緯は受け継がれていく
小脇:僕は計画検討やそれに必要な協議調整を専門とするコンサルタントですから、都市整備や開発の計画段階での関わりが中心で、徐々に出番が減っていくのかなと思っていたんです。でも、事業や工事と並行してずっと計画の話をしているので抜けるタイミングがなく、いまだに関わり続けています(笑)。たとえ関係者が変わっても、すぐに馴染んで、いい雰囲気が保たれているからですかね。
有川:CM会議のほかに事業者同士が連携する仕組みがありませんからね。私は現在、別会社に出向していますが、後任には「自社だけで調整できるわけがないんだから、泣きつくところには泣きついていい。その代わり耐えるところは耐えろ」と話しています。
小脇:もしCM会議がなかったらどうなっていたかはわかりません。ただ、最初の頃は行政からのさまざまな要請に各事業者が個別に対応していて、それがいつしかCM会議を通すという流れになり、いろいろな話がスムーズに進むようになったのはたしかですね。
篠塚:このプラットフォームがあるからこそ対応できたということですね。そうでなければ、何をするにしてもイチから話し合うはめになっていたでしょう。また、交通対策検討会もうまく機能していますよね。そんなことをやっている現場はほかにあまりありませんし。
小脇:交通対策検討会が立ち上がったのが2012年で、実はCM会議よりも早いんです。最初、駅街区区画整理の工事に関わる協議をするために交通管理者に行ったとき、「こんなに工事が重なっているのだから、事業者をまとめなければ個別協議では進められない」と言われて、交通対策検討会が始まり、その母体となるこのCM協議会が始まることにつながりました。
篠塚:渋谷が都市計画の提案をする前後、事業者が個別に協議をしに来るものだから「ちょっと待て」となったんでしょうね。
小脇:交通管理者側としても初めてのことだったので、最初の頃は手探り状態だったはずですね。
小脇:大きな交通量調査などはすでに実施済みで、基礎的なデータはすべて揃っている状態でした。あれだけのデータを揃えられたのも、多くの事業者が関わっているからこそかもしれません。それに、工事の申請をするにしてもどんな調査をすればいいのかは明確ですから、仕組みさえできれば話が早いですよね。
篠塚:公と民が連携できているのも大きい気がしますね。一般的にはそれぞれの事業主が個別に工事を発注し、個別に協議をしていきますし、時間が空いたり、人が代わったりということが起こります。CM会議のように、工事に関わるデータや協議の経緯をしっかり引き継いでいるというのは、なかなかできないことではないでしょうか。
白子:このスキームの中に、日建設計さんやパシフィックコンサルタンツさんが入っているのが大きいと思いますね。土木の場合、コンサルが絡むのは実務設計までで、工事が動き出してから一緒にやることはあまりないので、すごく新鮮でした。
有川:公民連携プラス、コンサルさんですよね。私たち事業者だけでは想像できない部分を指摘してくれたり、調整してくれたり、10年、20年という積み重ねの中で得た勘所がある。それはやはり頼りになります。
森:各事業を重ね合わせると工期が遅れるのは当たり前じゃないですか。でも、着工してから今まで、それほど大きな遅れが出ていないのは、シームレスに調整ができているからでしょう。この座組みは、やはり効果的だったんでしょうね。
有川:そうですね。先日、新聞に「東急東横店、2020年3月に閉店」と出ていたんですが、この数年で取り組んできたことが、基本的に予定どおり進んだとあらためて感じました。CM会議や交通対策検討会での調整があったからこそ、なんとか2020年を迎えられるというところまで来たんですよね。
2020年と、その先の再開発を見据えて
森:長く携わる中で、やはり2020年はひとつの大きな節目として意識してきました。今まで何年もかけてきたものが花開くというか、みなさんに使っていただけるタイミングがいよいよやって来る。これまでやってきてよかったと感じています。一方で、渋谷の再開発工事は、東側から西側にシフトして、まだまだ続きますし、大きな壁がたくさんあるでしょう。2020年から先もこれまでの経験を生かして進めていけたらいいですよね。
白子:自分たちの事業だけが開催まで間に合えば成功、というわけではないことは、CM会議を含めて渋谷再開発全体で共有されていると思います。渋谷ストリームや渋谷フクラスなどが次々と完成する中、東京メトロもなんとかついていって、年明けには銀座線の駅リニューアル工事を完成させたい。当社だけでなく、すべての事業の完成に王手がかかるところまでこられたことは、素直にうれしいですね。
小脇:これまで絵を描いてきたものが形になって、しかもみんなが使っている瞬間に出会えることが、すごくうれしくて。渋谷の再開発が完成する2027年の姿はまだまだ想像できないですが、ひとまず来年の2020年は最初の目標地点。実際に目にしたら泣けてしまうかもしれないくらい、楽しみにしています。
篠塚:大会期間中も、その先も、これまでCM会議でやってきたことをぜひ生かしていきたいですよね。CM会議のような手法は、渋谷のみならず都市の再生にも必要だと言われていますし、海外からの注目度も高い状況です。まずはこれまでに得た知見や経験を、現在控えている西側の再開発に生かしていく。そして2020年以降、東京全体や海外にも広がっていったら、これほどすばらしいことはありません。
有川貞久
新宿南エネルギーサービス
代表取締役社長
白子慎介
東京地下鉄
改良建設部
帝都高速度交通営団に入団後、2014年4月から2017年3月まで改良建設部渋谷基盤整備担当課長。2017年4月から改良建設部へ異動し、第二工事事務所長として現在に至るまで渋谷再開発に関わる。
森正宏
東急
渋谷開発事業部
開発推進グループ区画整理担当 課長
1994年、神戸大学工学部土木工学科を卒業後、東京急行電鉄株式会社(現東急株式会社)に入社。2001年より東京メトロ副都心線と東急東横線との相互直通運転に伴う渋谷~代官山間地下化計画、渋谷地下駅建設工事を担当、2008年より渋谷駅街区土地区画整理事業の立ち上げから事業管理、現場の施工管理を担当。
小脇立二
パシフィックコンサルタンツ株式会社
総合プロジェクト部 渋谷プレイングマネジャー
1983年、早稲田大学理工学部土木工学科を卒業後、パシフィックコンサルタンツに入社。1988年頃より大規模開発に係る交通計画検討業務に従事。その後、特に鉄道駅を中心とした交通結節点整備とまちづくり計画に係わる業務を担当。1990年には二子玉川駅周辺開発に係る人々と、1997年には渋谷駅周辺整備の計画に係わる人々と運命的な出会いを果たす。主に交通施設計画調整に従事し、現在も継続中。