ゼロから1を生む、産業建築の先進的デザインプロセス
Advanced Manufacturing Centre (AMC), Hong Kong 【前編】

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近年、デジタルとインターネットが製造業に革命をもたらす動きは「インダストリー4.0」と呼ばれ、世界的に広がっています。IoTやAI、ロボティクスによる圧倒的なデータ活用と自動化で、モノづくりのシステムが劇的に進化し、新たな価値やビジネスモデルが創出されているのです。こうした潮流に伴い、産業建築(研究・生産・物流施設など)にもイノベーティブな先進性が求められるようになっています。

日建設計は1900年の創業以来、様々な産業分野で時代を先導する建築を多数手がけてきました。技術革新のスピードが速い昨今は、未来を見据え、前例のない産業建築を提案する機会が増えており、ゼロから1を生む発想のデザインプロセスが必要です。

前編ではインダストリー4.0時代のモノづくりと産業建築の変化、イノベーティブな建築を実現する先進的デザインプロセスについて解説します。後編では具体例として「Advanced Manufacturing Centre (AMC), Hong Kong」の取り組みをご覧いただきましょう。

> 後編

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インダストリー4.0 モノづくりの仕組みを変えた産業ビジョン

かつての製造業では、研究開発から生産、販売に至るまでを自社グループで担いスケールの大きい「垂直統合型」のビジネスが一般的でした。しかし21世紀に入り、インターネットを介して人やモノや生産拠点がつながるようになると様相が変わります。リソースや情報・技術を囲い込むのではなく、外部と繋がりシェアすることで生産性やイノベーションを加速させる「ネットワーク型」のモノづくりに移行していったのです。ドイツがこの新潮流をとらえて2011年に提唱した国家的政策で、世界に多大な影響を与えている産業ビジョンが、インダストリー4.0です。

インダストリー4.0が生み出すエコシステム

インダストリー4.0のベースとなるのは「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」。現実世界で収集したデータを仮想空間で分析し、現実世界へフィードバックすることで最適化を図る仕組みです。CPSによって開発・生産・物流データが一元化されることで、ユーザーの多様な要望に応え、タイムリーな製品供給、在庫の最適化が可能な柔軟な生産システムが構築されるようになりました。メーカーが同じ製品を大量生産し、一方的に供給していた20世紀には叶わなかった「マス・カスタマイゼーション(大量個別生産)」の実現です。研究開発から販売後までの製品データの活用で、モノづくりの概念は単に作ることからライフサイクルサービス全体に拡張され、モノづくりの仕組みを根本から変えつつあります。

サイバー・フィジカル・システムの概念図

共用化、汎用化、多機能化が進み、都市に回帰する産業建築

それでは産業建築に対するニーズは、どのように変化しているのでしょうか。まずネットワーク型のビジネスモデルへのシフトから、開発、生産、物流の分野で、複数のメーカーやサプライヤーが同居し、設備などを共用するマルチテナント型の様々な施設が増えています。リソースやデータをシェアするには、各社バラバラの規格や仕様では使いづらいため、設備やインターフェースの汎用性を高める「標準化」「モジュール化」は重要な取り組みです。また、モノづくりの概念が拡張されたことで、従来は別々だった開発・生産・物流機能の壁を取り払い、柔軟な使い方ができるマルチユース型施設のニーズも増えています。

大量生産・大量消費時代にはスケールを重視した大規模工場や研究所が郊外につくられるのが一般的でしたが、生産設備が高性能かつコンパクトになり、省人化が進むと、製造空間のダウンサイジングが可能になり、空調や照明のエネルギー消費も減り、サステナブルな生産活動が可能になります。小規模で分散型の生産を行うマイクロファクトリーのアイデアも生まれています。オープンイノベーションによる高度な知識や人材の交流のニーズが高まり、研究開発を含めたモノづくりの拠点が、消費地に近く利便性の高い都市部に回帰するようになるでしょう。近い将来、世界各地の都市で生産と消費が共存し、それぞれの地域ならではの特色ある産業クラスターを形成することが期待できます。

「松定プレシジョン・プロダクションセンター」外観
Photo: SS Co., Ltd

開発・生産・物流の機能を限定しない、マルチユースの大部屋
Photo: SS Co., Ltd

イノベーションを建築というカタチにする先進的デザインプロセス

日建設計は、あらゆる分野の建築や都市計画の実績が豊富です。幅広い知見を結集し、イノベーションを加速する建築のあるべき姿から、都市の中に産業建築をどう融合するかということまで包括的に提案できるのが強みです。日建設計では、前述したモノづくりの仕組みの変化や産業建築のニーズを見通し、クライアントから具体的な設計条件を与えられる前のプレデザイン段階で、建築家の方で課題を掘り起こし、まずプロトタイプを作って提示する先進的なデザインプロセスを重視しています。具体的に設計を始める前に、短期間でプロトタイプの検討を繰り返し、その過程で現状を深く理解し、さらなる課題を発見し、将来のあるべき姿を描きます。そして既成概念を打ち破る力強いコンセプトをカタチにします。「ゼロから1を生む」デザインプロセスです。モノづくりの世界ではデザイン思考やアジャイル開発とも呼ばれますが、前例のない産業建築を創造するためには、設計プロセスそのものにもイノベーションが必要だというのが私たちの考えです。後編ではその理念を体現したAMCの取り組みをご紹介します。

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