ゼロから1を生む、産業建築の先進的デザインプロセス
Advanced Manufacturing Centre (AMC), Hong Kong 【後編】
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近年、デジタルとインターネットが製造業に革命をもたらす動きは「インダストリー4.0」と呼ばれ、世界的に広がっています。IoTやAI、ロボティクスによる圧倒的なデータ活用と自動化で、モノづくりのシステムが劇的に進化し、新たな価値やビジネスモデルが創出されているのです。こうした潮流に伴い、産業建築(研究・生産・物流施設など)にもイノベーティブな先進性が求められるようになっています。
日建設計は1900年の創業以来、様々な産業分野で時代を先導する建築を多数手がけてきました。技術革新のスピードが速い昨今は、未来を見据え、前例のない産業建築を提案する機会が増えており、ゼロから1を生む発想のデザインプロセスが必要です。
前編ではインダストリー4.0時代のモノづくりと産業建築の変化、イノベーティブな建築を実現する先進的デザインプロセスについて解説します。後編では具体例として「Advanced Manufacturing Centre (AMC), Hong Kong」の取り組みをご覧いただきましょう。
> 前編
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香港の「再工業化」を先導する次世代型生産拠点
都市型多層工場「AMC」の機能構成図
Diagram provided by Nikken Sekkei Ltd and Wong Tung & Partners Limited
研究開発から生産、物流までワンストップでできる次世代型生産拠点をあらかじめ用意し、将来性のある複数テナントを誘致する。そんな野心的な目標を掲げてプロジェクトは始動しました。設計時は入居テナントが不明。当然、製品も生産方法も不明。特定企業の専用工場をつくるときのような明快な設計条件がありません。このような未知の案件だからこそ有効なのが、「ゼロから1を生む」デザインプロセスです。私たちは課題の探索と解決法の検証を反復しながら設計案をまとめました。
生産フロアとMEP (機械・電気・衛生設備) のモジュール化や物流システムの共用化を提案
土地が狭い香港では、建築を多層化することが求められますが、工場として使いやすく、建設コストも抑えられる広く低層型のプロトタイプを提案しました。そこで生産フロアを12m×12mのスパンにモジュール化。レイアウト替えが容易なためフロアの全体貸しにも部分貸しにも対応可能な、均等グリッドプランとしました。また、標準的なMEPを最大公約数として提供し、各テナントの個別オーダーはオプション対応とすることで、無駄がなくフレキシブルな施設にできると考えました。スペアの設備スペースやルートを確保し、空間の転用やMEPの増設を可能にしておけば、異なる生産条件にも柔軟に応えることができます。
モジュールプランのテナントスペース(製造エリア)
Photo: Wong Tung & Partners Ltd
物流機能を集約した地上階
Photo: Wong Tung & Partners Ltd
1)医療、健康産業⽤機器
2)バイオメディカル器具
3)スマート電⼦機器、光学機器
4)スマートセンサー、半導体パッケージ
5)ロボ・エレクトロニクス、スマートエネルギー機器
ネクスト・インダストリー4.0時代は「人間中心」になる
シナジー効果でイノベーションを促進するには、人が集まる魅力的なスペースを用意する必要があります。異業種テナントの人たちが出会い、交流するうちに、まったく新しい技術や製品が生まれるかもしれません。こうした狙いでハイエンドな高精度3Dプリンターや工作機械を共同利用できるシェアショップや低層部屋上の緑化されたリフレッシュ空間を設けているのも当施設の特徴です。AMCを「工場版シェアオフィス」ととらえる発想は、さまざまな建築や都市計画を通して、人がつながる場づくりをしてきた日建設計のDNAによるものです。
低層部屋上のリフレッシュ空間
Photo: Wong Tung & Partners Ltd