長く愛される大規模複合建物を支えるライフサイクルアドバイザリー

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 建物の価値を長期に亘って発揮するためには、経年による物理的劣化への対処だけでなく、環境性・遵法性・耐震性・BCP、社会的な要求や技術革新へも総合的に対応していくことが求められます。加えて、大規模複合建物を取り巻く環境は、より複雑化、多様化しており、建物の管理運営における課題はこれまで以上に多岐にわたっています。
 近年の大規模複合建物の開発における日建設計の業務領域は、設計業務・監理業務にとどまらず、開発全体のプロジェクトマネジメント業務や、管理運営計画の策定等の運営フェーズに向けた立上げ支援まで及んでおり、様々な角度から建築に係わっています。竣工後においても、そのデータや経験を活かし、建物のライフサイクルを通して建物オーナーに対する継続的なサポートを行っています。

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大規模複合建物のゆるぎない運営を支えるパートナー

 建物は、長期的な維持保全計画を元に、計画的に改修工事を進めていくことで、健全な状態を保ち続けることが出来ます。しかし、特に大規模複合建物は、建物構成や技術的要素の複雑さなどが要因で、改修工事が実行に移されにくく、なかなか計画的な改修が進まない現状があります。日建設計ではこうした建物において、ライフサイクルアドバイザリーを通して、建物運営に対する技術的助言や改修計画の立案、年度工事の発注支援などを実施し、建物のパートナーとして運営課題への対応を支えています。
 今回は聖路加ガーデンでのライフサイクルアドバイザリーの実施事例をご紹介します。

大規模改修プロジェクトを成功に導くプログラミング

 聖路加ガーデンは2棟の超高層ビルで構成され、オフィス、商業、レジデンス、ホテル等が入居する大規模複合建物であり、オーナー3社、管理運営会社2社による複雑な運営体制となっています。日建設計は新築設計を担当していたご縁で、竣工13年目の2006年から現在まで、継続してアドバイザリーを行い、不具合箇所の確認や遵法性調査、リニューアル工事の検討など、建物運営における様々な課題をサポートしてきました。

聖路加ガーデン運営段階における体制図

 1980年代後半~90年代初頭にかけ、大規模複合建物の先駆けとなる案件が多数開発され、現在、これらの多くが大規模改修工事の実施時期を迎えています。1993年竣工の聖路加ガーデンも同様です。
 聖路加ガーデンにおいて、アドバイザリーの一環として、竣工13年目、20年目に中長期改修計画を作成し、将来の大規模改修工事に備えた状況把握を行ってきました。今回、設備機器等の多くが耐用年数に達する築30年を目前に、日建設計は、大規模改修プロジェクトを立ち上げるためのプログラミングを担当しました。

建物ライフサイクルにおける日建設計の役割(大規模複合ビルの場合)

 大規模改修プロジェクトは種々の改修工事から成っており、これらを束ねた、改修工事全体の方針や戦略、目標を達成するための道筋づくりをプログラミングと定義します。
 複雑な建物運営体制下において大規模改修プロジェクトを進めていくためには、具体的な工事の検討に入る前に、ステークホルダーの要求やビジョン、意思決定プロセスなどのプログラムをしっかり整理することで、ブレないプロジェクトの基礎を築くことが出来ます。プログラミングの段階から日建設計が参画することで、早期の技術的リスクの検討や、中立的な立場での確実な与件整理を行うことが可能となり、プロジェクトを成功に導くことが出来ます。
 聖路加ガーデンの大規模改修プロジェクトの立ち上げにおいても、建物の現状認識と改修工事プロジェクトのゴール、それに向けたロードマップを、建物運営関係者全体で共有しながら、プログラミングを進めて行きました。

大規模改修計画 プログラミングのステップ

 大規模改修工事をキックオフするにあたり、まず初めに、関係者間で建物の現状に対する共通認識を持つため、劣化の進行度や今後築50年までに必要な改修工事の実施年・概算金額などを、グラフ等を用いた分かり易い報告書にまとめました。建物運営関係者全体での報告書内容共有の場を設け、その会議で出た意見や建物劣化状況を考慮した工事の優先順位付けや平準化を行った上で、工事計画の仮説立案と関係者のフィードバックを繰り返し、内容の最適化を行いました。2006年から継続的に建物に寄り添ってきたことの蓄積が功を奏し、建物運営関係者それぞれの立場からの考え方や経緯を踏まえた改修工事のゴール設定に繋がりました。
 その後、工事着手までの具体的なロードマップとして、直近5年間に必要な計画工事の全項目について、改修箇所の図面情報や工事内容・概算金額・メーカー情報等をまとめた工事概要書を作成し、実際に予算立案や工事実行を執り行うビルマネジメント会社に連携しました。
 このように、建物劣化度の報告だけでなく、関係者間での認識共有~工事発注情報の整理・提供まで、工事実行に至るためのプロセス全体を構築し、それをマネジメントしていくことにより、大規模改修プロジェクトの推進のサポートを行いました。

大規模改修プロジェクト立ち上げ後の技術サポート

 今後は工事の発注に向けて、工事の内容に応じて設計図書の作成やメーカー図面の監修、工事監理等を実施していきます。直近ではテナントオフィスエリアの空調設備、照明設備の改修工事が計画されていますが、特にテナントや入居者に直接影響するエリアについては、基本的に居ながら工事となるため、工程や工事内容など、工事着手までの事前調整が非常に複雑になります。このようなケースでは、ビル運営会社と協働し、合意形成、工事計画の検討や発注支援なども担ってプロジェクトを牽引していきます。
 また、上記のような物理的な劣化への対応に加え、最新の建物トレンドや競合ビルの情報、ユーザー評価などの建物の社会的劣化状況を加味した、バリューアップの提案も随時行っていきます。例えば、ユーザーの快適性に直結する空調などの設備機器の仕様向上や、建物の印象に大きく影響するエントランスやエレベーターホールの改装など、効果的なバリューアップ工事は建物の価値向上・収益性のアップに繋がります。多くの設計案件で得た豊富なデータベースと設計技術を統合し、費用対効果の高い改修計画を提案することで、オーナーの建物運営をバックアップしています。

長く愛される建物の未来をつくる

 聖路加ガーデンの例のように、建物運営段階における日建設計のライフサイクルアドバイザリーは、これまで手掛けた数多くの大規模複合建物の開発での経験と技術に裏付けされたマネジメント力で、物件固有の課題や状況に細やかに対処出来る点が強みだと考えます。
 また、建物運営関係者や施工者の立場ではなく、第三者の立場でプロジェクトに関わるため、Q(クオリティ)C(コスト)S(スケジュール)を公正・適正に判断出来る点が、オーナーにとって大きなメリットだと認識しています。
 長く愛される建物の未来をつくり続けるために、建物オーナーに寄り添う技術者集団として、これまで蓄積してきた大規模複合建物の開発・新築設計案件でのノウハウを建物のライフサイクルに活かしながら、これからも建物運営を全力でサポートしていきます。

  • 河原 透

    河原 透

    企画開発部門
    ソリューション戦略室
    ダイレクター

    早稲田大学大学院にて博士(都市環境工学)を取得後、1994年日建設計に入社。
    大規模都市開発における事業性検討、ファシリティマネジメント、管理運営計画などの業務に従事ののち、2001年日建設計マネジメントソリューションズ(現在は日建設計に統合)に転籍し、各種のソリューションビジネスの開発及び萌芽的業務に従事。
    2007年日建設計に復籍後、建物のライフサイクル全般に携わるバリューマネジメント業務に従事。これらの経験を活かし、企業がかかえる経営課題にファシリティを通じた解決プロセスをデザインし牽引する、CREコンサルティングを行っている。

  • 齊藤 義明

    齊藤 義明

    エンジニアリング部門サステイナブルデザイングループ
    サステイナブルデザイン部アソシエイト MEPエンジニア

    東京都立大学工学部建築工学科卒業後、1988年日建設計入社。
    20年間の名古屋勤務時代は、事務所、工場、商業、小学校、大学、病院、空港施設、社長別荘等多用途の設計業務に従事。東京異動後は、大規模再開発、IDCの設計、大規模ビルの改修設計等広範囲の設計業務に従事。最近では豊富な設計経験を活かし、変貌する社会情勢の変化に柔軟に対応したカーボンニュートラルに向けた建物ライフサイクルに通じるソリューション提案、業務提案をし続けている。

  • 森泉 彩

    森泉 彩

    設計監理部門設計グループ
    プロジェクトアーキテクト

    2018年千葉大学大学院工学系研究科卒業後、日建設計入社。プロジェクト開発部門にて、外資系ホテルの新築・改修プロジェクトマネジメントの他、秋田総合生活文化会館・美術館“アトリオン”、聖路加ガーデンでの維持保全コンサルティングなど、建物ライフサイクルの様々なフェーズでの業務に当たる。2021年より設計部門にてオフィスビル実施設計業務を担当している。一級建築士。

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