円滑なプロジェクト運営を通じて最高のラグジュアリーを実現する
ザ・リッツ・カールトン日光

Scroll Down

長期的に高まる観光需要に伴い、日本におけるラグジュアリーホテル・リゾート開発は、国内外の不動産投資家及びデベロッパーにとって魅力が増しています。しかし、外資系ラグジュアリーホテルは、オフィスや商業施設と比べ、専門性の高い計画のほかに、数多くの利害係者間での複雑な調整が求められ、不動産業界の中では特に手を出しにくいアセットクラスとして認識されています。また、海外を拠点とするホテルオペレーターやインテリアデザイナーの役割が極めて重要であり、日本の建設業界の慣習が通用しない前提でプロジェクトチームを取りまとめる力も必要です。そこで、私たちは、これまでクライアントであるホテルオーナーを支援するため、独立の立場でホテル開発のプロジェクトマネジメントを数多く行ってきました。その一つの事例として、クライアントと一緒に創り上げた中禅寺湖畔の国立公園にある「ザ・リッツ・カールトン日光」をご紹介します。

CATEGORY

繊細で本物志向のデザインを、どう実現するか

クライアントである東武鉄道にとって、ザ・リッツ・カールトン日光の建設は、初の海外のラグジュアリーホテルプロジェクトでした。そこで、課題を事前に想定しながら、確実にプロジェクトを進めるためのプロジェクトマネジメントを必要としていました。 私たちは、まず、日本の美を感じてもらいながら、世界最高レベルのゲスト体験を提供する空間を創り出すことを目標に、複数社の世界的なインテリアデザイナーの参加するデザインコンペを行って、オーストラリアを拠点とするLAYAN Designを選定しました。 彼らは、日光の伝統文化や地域性を洗練的に解釈し、オーセンティックな素材を使い、シンプルでありながら親密感のある空間構成と繊細なディテールにより、日本ではこれまで見たことのない新鮮なデザインを提案していました。 しかし、これらのデザインを実現することは決して容易ではありませんでした。 なぜなら、クラフツマンシップを再現するためには自然な素材やカスタマイズされた特殊構法が多用されます。しかし、合理化された標準品や工業的材料が圧倒的に多い日本の建設マーケットでは、中国や東南アジアと比べて数倍のコストがかかってしまう可能性があるからです。 また、ホテルプロジェクトは、内装だけではなく、建築、設備、厨房、サイン、BGM、IT、アート、家具や備品等それぞれに専門性が必要とされ、多くの区分を別々の設計・コンサル会社が担当します。そのため、それらを取りまとめるための適切なマネジメントが必要となってきます。 そして、「ラグジュアリー」であるがゆえに品質に上限がなく、コストのコントロールが、ひとつの大きなチャレンジとなります。

プロジェクト体制イメージ図

実現すべき価値を理解し、バランスの取れたコストマネジメントを実践

最小限のコストで最大の価値を実現するために、常に実現される空間価値と工事コストを比較しつつ、トータルに、かつ個別のアイテムごとに価値判断し優先順位をつけることが重要でした。しかし、内装や厨房、家具、アート等多くの工種が互いに入り組みながら常に変動しているので、プロジェクト期間にわたって緻密にデータを検証・分析を行い、関係者と密に調整することが必要となりました。設計内容の確認でデザイナーと何度も打合せしたり、複数バージョンの見積書とリンクするEXCELシミュレーションモデルを構築し、交渉シナリオを策定するなど、色々な手法を活用して、常に最新かつ正確な情報のアップデートを心掛けました。

会席・寿司・鉄板焼きを提供するメインレストラン「日本料理 BY ザ・リッツ・カールトン日光」 (photo by Nacasa & Partners)

一緒に考え、一緒に解決する

欧米流のプロジェクトマネジメントでは、課題を発見し解決すべきステークホルダーを特定して、プロジェクトを進めていくことが主務となります。一方で、私たちは課題解決を設計者やデザイナーとともに行っていく姿勢を大事にしています。これにより、数多い関係者それぞれと厚い信頼関係を構築し、いざという時に関係者が率先して解決に協力してくれる素地が出来上がります。このプロジェクトでも、現場段階での突然の空調方式の変更やコロナ渦など数多くの難題が生じましたが、最終的にはすべてうまく解決することができ、ホテルを2020年7月に無事オープンすることができました。

日光の豊かな緑を臨めるバスルームを全客室に備える(photo by Nacasa & Partners)

多様性のマネジメント

振り返ると成功するプロジェクトに多い特徴として、
 ①より良くすることへの飽くなき挑戦
 ②関係者間の価値観の共有
 ③多様性をもったチーム体制
の3つが挙げられるかと思います。私たちは、外資系高級ホテルという非常に多様なステークホルダーが関わるプロジェクトにおいて、ともすれば対立的な環境になる場合もあるなかで、協力関係を作り上げるべくリーダーシップを発揮し、妥協することなくより高い品質を最適なコストで実現するために努力してきました。これらは、ホテルに限らず、今後多くの大型開発で必要とされるスキルです。これらをコアコンピタンスとしながら、不動産による新たな機会と価値の創出に貢献していきたいと考えています。

■「 ザ・リッツ・カールトン日光」概要

ホテル名称 ザ・リッツ・カールトン日光
ホテルオーナー 東武鉄道株式会社
ホテルオペレーター マリオットインターナショナル
所在地 栃木県日光市
客室数 94室
内装デザイナー LAYAN Design Group(客室、パブリックエリア)
日建スペースデザイン(温泉・スパ)
ストリックランド(レストラン)
建築設計・監理 株式会社日建設計
施工 東武建設株式会社、他

  • 杉本 久志

    杉本 久志

    企画開発部門プロジェクトマネジメントグループ
    ソリューション戦略室 
    アソシエイト

    2008年に東京大学大学院建築学専攻卒業後、日建設計入社。プロジェクトマネジメントやFM・CRE戦略を通じ、企業利益と社会的価値が共存できる建築環境を目指している。
    これまで、日野自動車古河工場(2016)、日比谷パークフロント(2017)、ザ・ホテル青龍京都清水(2020)、エースホテル京都(2020)、ザ・リッツ・カールトン日光(2020)など幅広いプロジェクトでプロジェクトマネージャーやオーナーズコンサルタントとしてマネジメントを手掛けてきた。この他、企業不動産の利活用や維持保全戦略の策定といった、ファシリティ戦略に対するコンサルティング経験も豊富に有する。一級建築士。

  • 玉田 公英

    玉田 公英

    企画開発部門プロジェクトマネジメントグループ

    2018年日建設計に入社。専門はプロジェクトマネジメント。
    アトリエ系設計事務所で意匠設計として、集合住宅、学校、商業施設、医療施設を担当。
    その後、外資系ディベロッパー会社にて、ラグジュアリホテルのPM/CMを担当。
    フォーシーズンズホテル京都(前職)、ザ・ホテル青龍京都清水、ザ・リッツ・カールトン日光 等、一級建築士。

当サイトでは、クッキー(Cookie)を使用しています。このウェブサイトを引き続き使用することにより、お客様はクッキーの使用に同意するものとします。Our policy.