対話を通して見つけた、理想の「働き方」を実現するための独自のワークプレイスデザイン

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知識社会の進展、グローバル化の加速、ネットワーク技術の台頭など、さまざまな環境変化の波にさらされる中、多くの組織では意識改革やイノベーションを経営課題に揚げ、組織のあり方を模索し、自ら変化しようとしています。日建設計では、ワークショップを通してお客様と対話し、「働き方」を一つ一つ一緒に見つけることでワークプレイスデザインを行なっています。空間をつくるだけでなく、それがお客様やユーザーに何を提供できるのか、という視点で取り組むプロセスを、「日東電工株式会社:inovas(イノヴァス)」の事例を通して紹介します。

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ワークプレイスの答えは、お客様の「働き方」の中にある

日建設計におけるワークプレイスの設計技術とは、「プロセスそのもの」です。会社の数だけ、その会社ごとの「働き方」があるため、ワークプレイスデザインの正解は、各業種や業態で決まっているのではなく、それぞれのお客様との対話から導き出されるものです。日建設計では、ワークショップなどお客様との対話を通して、その会社の「働き方」を一緒に引き出し、見つけていくプロセスを重視しています。

ワークショップや日常生活を通して“自分らしい「働き方」”を発見した「inovas(イノヴァス)」

日東電工株式会社(以下Nitto)の新たなイノベーション拠点として構想された「inovas」。「本当の意味でイノベーションが起こる空間をつくりたい」というお客様の想いから、プロジェクトはスタートしました。

「Nittoらしいイノベーションが起こる空間とは何か?」「Nittoらしい働き方とは何か?」。その答えを見つけるために、お客様とワークショップを重ねて開催しました。また実際に働いている人の意見をもれなく引き出せるように、ワークショップはトップメンバーだけではなく各部署の社員の皆さんにも参加してもらいました。
ワークショップでは、参加者全員が「写真日記(1日1枚、自身の行動と社内風景を写真に撮影してコメントと共に記録したもの)」を持ち寄り、お互いの日常からの気付きを共有しました。その結果、冷蔵庫の上でラップトップ(ノートパソコン)を置いて突発的に会議が始まるなど、お客様の報告だけでは知ることのできなかったシーンを発見することができました。
そのNittoでの各シーンを並べて分析していくと、「必ずしも決められたとおりに空間を使わず、自分たちでカスタマイズする」「決められた場所以外での偶発的なコミュニケーションの発生回数を上げる(=“衝突回数”を上げる)ことで、多くのアイデアが生まれる」というような、Nittoらしいイノベーションが起こるタイミングの共通項が浮かび上がってきたのです。

くわえて、お互いの日常の観察の中から共感できるワークスタイルを抽出してみると、イノベーションを起こすためのエッセンスとなる「Nitto の7つの働き方」を導き出すことができました。
「出会う」「話し合う」「協働する」「こもる」「やってみる」「魅せる」「もてなす」は、これからのワークスタイルの7つのキーワードとして共有されることとなりましたが、実は、inovasの中に生まれた様々な空間のデザインテーマとしても活かされています。

ところで、私たちは、空間をデザインして目に見える形に作り上げるプロセスにおいては、お客様と私たちが具体的なイメージを共有することが非常に重要であると考えています。
「お風呂に入るとアイデアが浮かぶ」などの意見をもとに、木や段ボールでお風呂型ソファなど家具のモックアップを作成したり、社員の皆さんに、実際に家具や空間を使っているシーンを演じていただいたりしたのも、その一環です。
ほかにも、お客様の視野を拡げるために、東京の「TSUTAYA書店」や「武蔵野プレイス」など、新たな発想でできている空間を見学するツアーを開催し、空間の仕掛けが人々にどのような作用をもたらすのか、お客様と私たちがともに実体験しました。

この一連のワークショップを通じて、「Nittoらしいイノベーティブなワークスタイルやワークプレイスとは何か?」という課題と実現すべき目標をNittoの皆さんと深く共有していきました。

発想を転換するための“衝突回数”を最大化する新施設

このようなプロセスで出来上がった空間は、一見すると「おもちゃ箱をひっくり返したような多彩な空間」となりましたが、これは必然の結果ともいえるものでした。

inovasのなかで“衝突回数”が多い場所には、いろんな姿勢で使えるカラフルな椅子やアウトドア家具、ホワイトボード仕様の壁などが用意されています。各自が思い思いのスタイルで気分を変えながら自由に使えるようにデザインすることで、自由で新鮮なアクティビティを誘発しているのです。

そして、”衝突回数“そのものを上げるために、inovasの各機能は、整理整頓されている既存のワークプレイスとは異なり、あちらこちらに散りばめられました。そこを行き交う頻度が増すことで自ずと偶発的なコミュニケーションの発生回数が上がるのです。

すべては「“衝突回数”が上がれば、より多くのアイデアが生まれる」というワークショップで得られた知見を空間としてデザインした結果なのです。

執務スペースは従来の室配置と正反対の建物の内側に配置しましたが、ワークショップの結果、これまで執務スペースはブラインドを閉じて使うことが多いことが分かったため、窓は必要ないということになりました。その代わりに、廊下を建物の外側に配置することで、自然光溢れる気持ちの良い廊下が実現しました。

この廊下には、単なる通行空間にとどまらない、執務スペースと一体的に利用できる多目的な用途が与えられています。ワークショップを通して見つけた「7つの働き方」を起こす仕掛けが散りばめられ、偶発的なコミュニケーションから新たなアイデアや議論が生まれる重要な場所になりました。

このように、「働き方」の中からイノベーションが起きる空間やシーンをピックアップし、つなぎ合わせていくことで、クライアントの本質的な要望を空間という目に見える形で実現させることができました。

社員参加型ワークショップから生まれたイノベーションを生むための仕掛け

トップダウンで決めてしまうのではなく、社員参加型のワークショップを通して一緒につくりあげることによって、この新しい空間はNittoの皆さんらしい「働き方」を体現しています。また、そのプロセスがあることで、ワークプレイスは与えられたものではなくて、皆さんが創り出した唯一無二のものになったのです。

ところで、施設名の「inovas」 はinnovation+novas (新星)の造語です。Nitto全社員からの公募により選ばれたものですが、これも社員の皆さんがinovasを身近に感じる一因となっています。
イノベーションを生むための仕掛けは、空間だけでなく、社員の皆さんと一緒につくりあげるこのプロセスにもあると日建設計は考えています。

  • 本田 聡一郎

    本田 聡一郎

    設計監理部門
    設計グループ
    ダイレクター

    1990年、東京工業大学修士課程修了後日建設計に入社。専攻は建築意匠。入社以来、オフィスから研究施設、商業施設を含む大規模複合施設、老人福祉施設、医療施設まで多彩な分野でプロジェクトの設計を担当。現在、主に生産・研究施設を担当している。一級建築士、日本建築家協会会員、日本建築学会会員。

  • 西村 一斗也

    西村 一斗也

    設計監理部門 アソシエイト

    1995年、福井大学大学院工学研究科修士課程を経て、日建設計に入社。業務範囲は、建築意匠設計を主軸にFMやPMなど多岐にわたる。
    業務・教育施設から研究施設、生産・流通施設まで多様なプロジェクトに参画。一級建築士、日本建築学会会員。「問題解決の鍵は、クライアントのニーズの中にある」を信条として、クライアントの思いや悩みを、一番クライアントらしい方法で解決して「かたち」にすることを大切にしたいと思っています。

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