インテリアデザインから街をつくる
~GEEKS AKIHABARA~

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戦後、日本最大の電気街に発展した東京・秋葉原。21世紀に入るとアニメ、ゲーム、アイドルといったサブカルチャーの発信地として世界的に知られるようになります。変容し続けるこの街に気鋭のIT企業やスタートアップを呼び込み、新たなビジネスや文化が生まれる潮流をつくりたい。GEEKS AKIHABARAは、そんなクライアントの想いで始まった中規模オフィステナントビルのバリューアップ・プロジェクトです。大がかりな建て替えや建築的リノベーションとは異なり、デザインの力でビルを刷新し、街のアイコンとなることを目指した日建スペースデザイン(取材当時、現日建設計設計監理部門スペースデザイングループ、2024年4月1日に日建設計と合併)の提案をご紹介します。

これから飛躍する人たちの“原点”となる場所に

秋葉原駅から徒歩1分ほどに位置する対象物件は、竣工から20年以上経過した賃貸オフィスビル。改修前はよくある天然石張りで、高級感はあるものの、周囲のビルとの差別化が困難でした。経年劣化と没個性という課題を解決し、ビルの資産価値を上げつつ、若く勢いのあるスタートアップの入居を促すには何をすべきか。デザインチームは議論を重ねました。

本プロジェクトのポイントとして、新進気鋭の起業間もない企業をメインターゲットに設定したことが挙げられます。これから飛躍するであろう企業の“原点”となる場づくりを使命とし、まずビルのブランディング施策からアイデアを出し合いました。施設名称とロゴデザインを自主提案したのです。名称のGEEKSとはオタク、卓越した知識がある専門家、夢中になるといった意味を持つ言葉。ロゴデザインには、オリジナルフォントを制作し提供しました。

このビルのブランディングのために、デザインで何か表現したいと考えました。そこで、初期のコンピューターゲームのドット絵やテキストなどで見られた表現なかでも最小の5×5ピクセルドットを使い、秋葉原の街に脈々と流れるデジタル文化をロゴデザインに込めました。まず「GEEKS」のロゴをデザインし、同じ構成で、他のアルファベット文字・数字・記号へと展開していきました。

外装とインテリアのサイン計画にこのフォントを使用することで、ビル全体にデザインの統一感が生まれます。フォント自体はシンプルな構成ですが、エレベーターホールの階数表示など、館内のフォーカルポイントとなるグラフィック的な表現も可能になりました。

フォントをオリジナルデザインすることで、ビルのブランディングを加速

主な改修範囲はファサード、エントランス、基準階共用部、屋上。秋葉原という街が持つ独特の活力を表現するとともに、ここで新たな事業に挑戦する人たちの創造性を刺激すべく、3つのデザインキーワードを導き出しました。これらをもとに、個性的なオフィスビルへの生まれ変わり計画がスタートしたのです。

デザインキーワード1 バイタリティ
街とビルで働く人たちの活力を可視化

混沌としたエネルギーに満ち溢れ、さまざまなトレンドを発信し続ける秋葉原の街を色で表現するとすれば…。ブレインストーミングの末に決定したビルのテーマカラーは、鮮やかな黄色です。外壁に色を塗るのではなく、大通り側のファサードの大部分を占めるガラス窓のすべてに黄色いブラインドを下ろすことにしました。インテリアデザイナーならではの発想で、ビルで働く人たちのバイタリティを内側からにじみ出させ可視化する仕掛けにもなっています。夜になると照明を当てブラインドが発光するように際立たせ、通りすがりの人にも明日の活力を取り戻すきっかけになればと願いを込めたデザインです。クライアントによると、視認性が向上したせいかお問い合わせも増え、リーシングも順調とのことです。

外装 Before/After

ひらめきやワクワクドキドキ感、エネルギーの増幅といったイメージを込め、各階エレベーターホールなどの共用部にも黄色を多用しています。多様なテナント企業に対応するために無難になりがちなニュートラルカラーのオフィスビルとは一線を画する大胆な配色ですが、若い企業のバイタリティを可視化する表現としてテナント様からも高い評価をいただいているそうです。

セットアップオフィス

デザインキーワード2 未完成
あえて作り込まず、創造性を搔き立てる

1階のエントランス、通路、エレベーターホールの天井と壁の仕上げ材には、設備配線用のケーブルラダーを採用。普通は天井裏に潜んでいて、仕上げに使われることはないメタリックな資材です。ケーブルラダーのパンチング開口を利用した間接照明が、床に不思議な陰影をつくり出しています。トンネルを思わせる近未来的な通路が、人をビルの中に引き込むことを狙いました。

仕上げ材にケーブルラダーを採用。パンチング開口を利用した間接照明が落とす光と影で近未来的な空間を演出

エレベーターホールの壁の一部は既存躯体を素地のまま現しています。床は張ってあった石を取り払ってコンクリート打ち放しに。未完成をテーマに、あえて作り込まず粗さの残るデザインとすることで、若々しい躍動感とビジネスの原石、伸びしろや余白を表現しました。常識や固定観念にとらわれない意匠が、スタートアップ企業の創造性を掻き立てることを意図しています。

デザインキーワード3 交差・交錯
出会いや繋がりを誘発するスペースを創出

人が上がってくることの少なかった屋上に、ビルで働く人たちが多目的に利用できる共有スペースを創出しました。名付けて「10+(テンプラス)」。クリエイティブな活動を加速(プラス)する場になるようにとの願いを込めています。秋葉原の街並みのように多種多様な色・素材・高さ・形状の家具をランダムに配置し、自由な使い方を試す余地を残しながら、テナントを超えた出会いや繋がりを誘発します。屋上でのコミュニケーションが、もしかしたら思わぬイノベーションを起こすきっかけになるかもしれません。

屋上 テナント企業の交流の場「10+(テンプラス)」

いつの日か「GEEKS出身」がステイタスになるように

「街とテナントターゲットの特性を踏まえたデザインが、ビルの資産価値を期待以上に向上させた」と、クライアントから高い評価を得た本プロジェクト。ここで事業を始めた企業が成長し巣立ったあとに、次世代のスタートアップが明日の成功を夢見てここで事業を始める…。そんな継承が行われ、「昔、あの黄色いビルにいたんだよね」と、GEEKS出身であることが一種のステイタスになる未来を、クライアントと「共創」できたプロジェクトとなりました。

今後もクライアントとともに、インテリアデザインが持つ施設への求心力はもちろん、街に波及するブランドの発信力を実現してまいります。

撮影:益永研司

  • 鈴木 真弥

    鈴木 真弥

    設計監理部門スペースデザイングループ
    アソシエイト

    大規模施設の共用部や商業空間など、大空間のデザインを多く手がけている。国内はもちろん海外プロジェクトの経験が豊富。 いずれのプロジェクトでも、企画立案から竣工まで一連の業務をプロジェクトの中心デザイナーとして担当している。「東京スカイツリー」「LOTTEWORLD TOWER SEOUL SKY」「青島銀行 本社ビル」など、担当したプロジェクトで多くの国際的なアワードで入賞している。2024年4月、合併に伴い日建スペースデザインより日建設計に転籍。

  • 田中 大輔

    田中 大輔

    設計監理部門スペースデザイングループ
    アソシエイト

    ロンドン芸術大学にてインテリアデザイン・マネージメントにて文学士号を取得。帰国後は、外資系設計事務所にて国内における外資系企業のオフィスのインテリアデザインを数多く手掛ける。また、前職では大手米国企業の社内デザイナーとしてアジアデザインマネージャーを担い、海外プロジェクトの経験も豊富。2017年日建スペースデザイン入社。入社後は国内・外資系企業のオフィスインテリアデザインに留まらず、オフィスビルのバリューアップ改修プロジェクトなども手掛ける。2024年4月、合併に伴い日建設計に転籍している。

  • 周 セイ聞

    周 セイ聞

    設計監理部門スペースデザイングループ 

    中国上海の華東理工大学を卒業後、2014 年来日。千葉大学大学院を卒業し、2018 年日建スペースデザインに入社。2024年4月、合併に伴い日建設計に転籍。ホテルや商業施設とワークプレイスの両方を担当し、幅広く活躍している。 異国籍のアイデンティティを強みとして活かしながら、空間に新しい価値を生み出すことに挑戦し続けている。

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