地下空間利用計画、価値を高めるための5つの戦略

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日本の大都市中心部では、人口の集積が進み、地上の土地利用の高度化、土地価格の高騰などから、空間資源としての「地下空間」の開発が進みました。この結果、複数の地下鉄駅や地下街、周辺ビルが地下通路によってつながった広大な地下空間ネットワークが形成されたのです。利用者の利便性を高め、賑わいや交流を生み出す地下空間は、周辺街区の価値向上に大いに貢献しています。
日建設計都市・社会基盤部門シビルグループ(以下、シビルグループ)は、こうした地下空間開発の実績を数多く持っています。近年は、建築部分を担う日建設計設計部門とタッグを組み、中国各地の地上地下一体化都市開発を行っています。総合的な提案ができるのが私たち日建グループの強みだと思います。
都市化が進む中国でいま顕在化しているのは、高密度化、駐車場不足、交通渋滞、災害脆弱性といった問題です。これらを総合的に解決するため、日本で培った5つの戦略による高付加価値な地下空間づくりを提案しています。

日本の代表的な事例(地下街 ディアモール大阪)
地下にいながら日光が降り注ぐ明るく開放的な空間。

日本の代表的な事例(クイーンズスクエア横浜 みなとみらい駅)地上から地下4階の地下鉄の乗り場までつながる重層的なアトリウム空間。

戦略1:シンボリックな公共空間を創出

地下というと、どうしても暗く閉鎖的で画一的なイメージがあります。そこで導入したいのが、シンボリックな公共空間です。たとえば吹き抜けになった天井の開口部から自然光が降り注ぎ、風が通り抜けるスペクタクルな地下広場。いわゆるサンクンガーデンです。地下に見えない明るく開放的なオープンスペースには、人が集いたくなるもの。おのずと賑わいが生まれ、経済活動を引き起こす装置として、都市の価値を高める存在となります。
  • 中国S地区
    天候を問わず人々の賑わいが絶えない明るい空間。

  • 蘇州市/蘇州太湖呉中区CBD
    サイネージを取り入れた特徴的な地下への入り口。

戦略2:緑空間を創造し、グレーゾーンをグリーンゾーンに

閉鎖的な地下空間が持つグレーのイメージを払拭しようと提案しているのが、地下や半地下に緑空間をつくること。地下にいながら自然の緑が楽しめるオープンスペースは、訪れる人々に安心・快適な空間となります。

日本の代表的な事例(東京・泉ガーテン)
地下の階層に人が集う豊かな緑地空間を創出。

戦略3:回遊したくなる歩行者ネットワークの構築

地下空間は切れ目なくつながっていることが求められます。地下鉄駅、地下通路、地下街とそれぞれ管理者は違っても、それらが有機的に接続していれば、歩行者は快適に回遊することができます。隣接するビル同士も地下でつなげれば、あるビルから隣のビルに行きたいと思ったときに、わざわざ地上に出る必要がありません。
さらに実現したいのは、地下階層と地上階層のスムーズな垂直移動です。全階層を縦に貫く吹き抜けのエスカレーターホールを整備するなど、地下と地上を立体的につなぐ動線も提案しています。加えて2階レベルにもビル同士をつなぐ空中デッキを設ければ、回遊性は一段とアップ。地上地下一体化都市開発では、こうした多様な歩行者ネットワークを構築することが可能です。
  • 蘇州市SS路沿線地下空間計画
    地下から地上、デッキを用いて回遊性のあるネットワークでビル間をつなぐ。

  • 蘇州中心。
    垂直に連続性を持たせることで歩行者が快適に移動できる地下街。

戦略4:地下交通ネットワークで地上の交通負荷を減らす

地下鉄の整備が進むとともに駐車場需要も高まっている中国。地上部分は、高層ビルのエントランス空間として活用し、地下2階以深に地下駐車場を整備することで、その土地の空間需要を満たし、収益を生み出す空間利用を実現することができます。
シビルグループは、早くから日本で、複数のビルの地下駐車場を車専用道路で有機的に接続・一体化した地下駐車場ネットワークを提案。一つのビルの駐車場が満車でも、地下でつながっている別のビルの駐車場を使える利便性の向上と、利用率の平準化をもたらしました。車が一時停止する入口ゲートの数も少なくてすむので、地上の交通負荷軽減に役立っています。中国の地下駐車場計画にも生かしている技術です。
  • 地下駐車場の一体化/ネットワーク化
    図の右側が複数のビルが商業エリアや駐車場を共有した図。

  • 天津市河西区地下空間。
    地下の複雑なネットワーク。

寧波 地下鉄1号線駅地下街拡張及び中央公園。
地下でバスターミナルと地下街を連結。地下街からバス乗り場までのアクセスがスムーズ。

戦略5:防災シミュレーションで安全・安心を支える

近年の地球温暖化により中国各地でも集中豪雨が頻発しています。地下空間は浸水に対して非常に脆弱であり、避難経路が限定されるなどの課題を抱えています。また火災も多くの人命を奪う可能性があります。地下空間の開発には、インフラ整備だけでなく防災対策が必要不可欠。集中豪雨が発生したら具体的にどの地点が浸水するのか、火災が発生したら火や煙はどう広がるのかといった災害リスクを、解析ツールを用いてシミュレーションし、避難計画を立案しています。
  • 浸水解析結果

  • 火災災害検討

開発に大きなコストがかかる地下空間は、将来、負の遺産にならないようにしなければなりません。そのためには、時代の変化に対応できるように、価値や魅力を持続させていくことが大切です。たとえば地下駐車場。モビリティの進化やカーシェアリングの広がりで車の保有率が減少すると予想される中、駐車場の質的コントロールと用途を転換できる空間・仕組みづくりが必要です。 日建設計は、日本で培った経験を生かして、中国の未来を見据えた地下空間利用計画を推進しています。

<写真について>
1枚目:クイーンズスクエア横浜 みなとみらい駅 三輪晃久写真研究所
2枚目(左):ディアモール大阪 柄松写真事務所(柄松稔)
2枚目(右):クイーンズスクエア横浜 みなとみらい駅 篠澤建築写真事務所
4枚目:泉ガーテン 川澄・小林研二写真事務所

  • 犬塚 紀和

    犬塚 紀和

    都市・社会基盤部門基盤開発グループ
    副代表

    1997年に東京工業大学社会工学科景観研究室を修了後、日建設計に入社。2001年日建設計シビルに転籍。ニュータウン等の大規模開発の計画・設計から始まり、道路景観のガイドライン作成や遊休地・跡地利用計画業務等に従事。2006年からは、ベトナムや中国等の海外都市開発計画や都市マスタープラン策定業務にも取り組んでいる。分野や国にとらわれず、都市インフラを中心とした多くのまちづくり業務に力を注いでいる。2022年4月より日建設計に統合により転籍。一級建築士、技術士(都市及び地方計画)、一級土木施工管理技士。

  • 木村 良亮

    木村 良亮

    都市・社会基盤部門 シビルグループ
    アソシエイト

    1996年東京大学工学部都市工学科後、(株)日建設計に入社。
    中国とラオス各地で地上地下一体面開発プロジェクトを担当した。寧波東部新城や福州金融街などの実現済みプロジェクトがある。2019年にベトナム国家都市計画賞(VUPA)においてGold Awardを受賞。

  • 上田 知史

    上田 知史

    都市・社会基盤部門 シビルグループ
    アソシエイト

    2011年滋賀県立大学 環境科学研究科修了後、(株)日建設計シビルに入社。中国、ベトナムを中心にマスタープランや都市開発業務、地下空間計画で数多くのプロジェクトに携わっており、幅広い経験を持っている。ベトナム国の「QuangNam省TamKy市マスタープラン見直し業務」ではベトナム国家建築賞の評議賞を受賞。「2018年度都心と臨海副都心とを結ぶBRTに関する施設設計」業務で、東京都都市整備局の局長賞を受賞。

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