アジアの都市の発展に寄与する鉄道施設の計画と設計

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近年、急速な都市化が進んでいるアジアの諸都市。人口増加や経済成長にともない、車依存による慢性的な交通渋滞や大気汚染が深刻化しています。こうした課題を解決し、都市の持続可能性を高めるために有効なのが、TOD(Transit Oriented Development)。公共交通機関の利用を前提とする駅中心の都市開発、すなわち「駅まち一体開発」です。これは100年以上にわたり、鉄道建設を基軸に都市を発展させてきた日本のお家芸ともいえます。

神奈川県 川崎駅東口駅前広場(2008年)
緑陰を活かしたシンボリックな広場。バス乗り場全体を覆う上屋により公共交通施設としての利便性・快適性が向上した。

日建設計都市・社会基盤部門シビルグループ(以下、シビルグループ)は、駅や駅前広場、駅と周辺地区をつなぐ地下街など、数々の鉄道施設を計画・設計してきました。その豊富な経験と日建グループの総合技術力を生かして、アジアのTODプロジェクトをサポートしています。<大きなスケール>と<小さなスケール>という2つの視点から、提案できる技術をご紹介しましょう。

<大きなスケール:都市の中の視点>
駅を乗り換えの利便性が高い交通結節点に

マイカーの代わりに公共交通機関の利用を促すには、利用者の利便性を高めなければなりません。そこで重要になるのが、交通結節点としての駅の乗り換え機能です。駅に乗り入れている鉄道路線同士をはじめ、市内移動に使うバスやタクシーとの乗り換えのしやすさを考慮した整備は不可欠です。地下駐輪場を併設するのも利便性向上に役立つでしょう。駅を拠点に複数の交通手段を有機的に接続し、車中心社会からの脱却を目指します。

交通結節点の構成イメージ

周辺地区にアクセスしやすい歩行者ネットワーク

歩行者が駅から周辺地区のビルなどへスムーズにアクセスできるよう、地下歩道や地上のペデストリアンデッキを整備します。地下歩道には民間資本と連携して商業店舗を配し、地下街を形成することで、移動にアメニティ性が生まれます。こうした快適な歩行者ネットワークは、公共交通機関の利用者数増大につながるでしょう。あわせて周辺地区への歩行者の回遊性が高まり、地域経済の活性化や周辺ビルの不動産価値向上をもたらします。

ベトナム ホーチミン市 ベンタイン駅周辺地下街
地下鉄駅と周辺地区とが地下街を介して接続されて歩行者ネットワークを形成し地域の活性化を図ります。

賑わいを生み、地域を活気づける駅前広場

駅前広場には,鉄道を利用する多くの人々の移動があり,バス,タクシー,自家用車などの交通が集中します。これらを円滑に誘導する役割があるほか、地域の顔であり、人々の交流拠点となるのが駅前広場です。周辺地区と連携し、多機能なサービスを備えた魅力的な空間整備をすれば、そこにはおのずと賑わいが生まれます。賑わいは周辺地区に波及し、地域を活気づける起爆剤となります。

兵庫県 姫路駅前広場(2015年)
地下・地上で有機的に連携された立体広場は、人々が集うオアシスとなった。

<小さなスケール:専門技術の視点>
地域のシンボルとなる駅のデザイン

駅はその地域の表玄関。地域に調和するデザインと空間形成が求められます。たとえば周囲に歴史的建造物が多いなら伝統的な意匠を、河川に近ければ水辺を思わせる意匠を取り入れたりします。中央駅の場合は、都市自体の発展を体感させるモダンな意匠に。さらにアトリウムなどのシンボリックな公共空間を駅構内に設けて、都市の拠点であることを強調します。
  • ベトナム ホーチミン市 オペラハウス駅
    市民劇場に近いこの駅は、歴史を感じられる設え

  • ベトナム ホーチミン市 バソン駅
    近くに流れる川をイメージしたデザイン

地盤変形・地震の安全対策

特に地下駅や地下街の工事は、大規模掘削によって周辺の地盤が変形し、隣接する建物に影響を及ぼすことが懸念されます。これを防ぎ、工事を安全に遂行するため、地盤や仮設構造物、本体構造物の詳細な解析を行います。地震についても、日本基準と現地基準の構造解析を実施し、耐震補強の要否を判定するなど、高い安全性の確保と合理性の両立を図ります。

地震時変形・部材損傷度解析
地震の地盤変形による構造物の損傷レベルを解析し合理的な構造設計を実施して高い安全性を確保

地下掘削時仮設構造物
現地の地盤条件に柔軟に対応して地盤構造技術力を駆使し安全な深い地下掘削工事を実現

火災・浸水の安全対策

密閉空間のため、地上の建物より煙の充満が早く、火災時のリスクが高い地下駅や地下街。内装の仕上げに不燃材料を使うほか、避難経路のシャッターを2段降下式とし、防火区画を設けて火災エリアを封じ込めます。また豪雨や河川の氾濫による洪水リスクが高いアジアでは、地下の浸水対策も必須。浸水解析と避難シミュレーションを実施し、地上出入口には防潮パネルや防潮扉を設置します。

火災対策
2段降下式シャッターの採用などの高い防災設計技術力で避難する人を煙と火災から守る

浸水対策
防潮パネルの設置や適切な避難誘導で洪水による被害を防ぐ

新型コロナウィルスのパンデミックを経て、人々の生活様式に変化が生じています。今後、期待される都市機能が変容し、各地域の特徴が先鋭化していくことが予想されます。これにより鉄道施設も、地域ごとに本当に必要なものを見極めることが重要になります。また、その計画・設計には将来の都市の変化に合わせて更新できる柔軟性が求められるでしょう。

日建グループは、都市計画、建築設計、土木施設設計などの専門家集団です。グループ全体の知見を連携させて、TODのソリューションを提供できることが強みです。私たちは変わりゆくアジアの都市を支える鉄道施設の計画・設計をこれからも提案してゆきます。

  • 西山 誠治

    西山 誠治

    執行役員
    都市・社会基盤部門
    シビルグループ代表

    1993年に大阪大学大学院 土木工学専攻を修了後、日建設計に入社。2001年に日建設計シビル分社に伴い転籍、2022年グループ再編により現職。1995年より鉄道総合技術研究所に4年間出向し、鉄道構造物の設計基準作成に従事。その後、高速鉄道等の高架・地下駅、大規模地下施設の設計、コンサル等に従事。
    近年、土木の開発分野、施設設計、地盤エンジニアリング分野を束ねるとともに、建築・鉄道一体構造物の設計プロジェクトや、都市再開発に伴う社会基盤整備において、都市・建築と土木の間を継ぐ役割にも力を注いでいる。
    博士(工学)2002年東京大学、一級建築士、技術士(土質・基礎、鉄道、総合技術監理)。法政大学兼任講師。土木学会、日本地震工学会会員。

  • 山田 辰男

    山田 辰男

    都市・社会基盤部門シビルグループ
    部長

    2002年、京都大学大学院工学研究科修了後、日建設計シビルに入社。2022年日建設計シビル統合に伴い日建設計に入社。専門は鉄道構造物設計。
    「西鉄春日原連立春日原駅、白木原駅、下大利駅実施設計」、「西鉄筑後川橋梁下部工耐震補強設計」、「阪急京都線摂津連立事業調査」、「姫路駅前広場実施設計」に従事。その後、「ベトナムホーチミン地下鉄1号線ベンタイン駅およびオペラハウス駅実施設計」、「インド高速鉄道ムンバイ地下駅標準設計」、「フィリピンマニラ地下鉄駅詳細設計」などの海外ODA鉄道プロジェクトを担当し、鉄道施設設計の技術力向上に注力している。

  • 村木 正幸

    村木 正幸

    都市・社会基盤部門 シビルグループ
    アソシエイト

    2008年に名古屋工業大学大学院社会工学を修了後、(株)日建設計シビルに入社。施設設計部に配属され、国内では工場建屋の建築設計などに従事した。入社3年目からベトナム・ホーチミンの地下鉄駅・地下街の計画業務に携わる。現地に約5年滞在し、この期間にベンタイン駅、オペラハウス駅、バソン駅の地下鉄設計業務において建築設計を担当し、日建設計社内の他部門や海外コンサルタントとの協働により実施設計をとりまとめた。以後、インド・ムンバイの高速鉄道駅やフィリピン・マニラ等の海外ODAの地下鉄駅の設計業務に携わる。

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