「人のための公共空間」が都市の価値を高める

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道路、駅前広場、公園、水辺。こうした公共空間の重要性が近年高まっています。人々が交流・活動する場として、都市の活性化を促す拠点になると見直されているのです。かつて高度経済成長期の日本には、車優先・効率重視の公共空間が多数つくられました。そして成熟期を迎えた今、それらを人のための魅力的で親しみやすい空間に再構築する動きが生まれています。

土木の専門家集団である日建設計都市・社会基盤部門シビルグループ(以下、シビルグループ)は、国内外で数多くの公共空間を手がけてきました。積み重ねた経験と最新の設計技術を生かし、既存の公共空間を人々が憩い、集いたくなるものに変えるプロジェクトにも次々チャレンジしています。

未来に成熟期を迎えるアジアの都市には、現在の成長期に必要なインフラと、成熟期に起こるであろう価値観の変化への対応策をバランスさせた計画づくりが必要です。先行する日本の知見を計画に反映することは、将来的に大きなアドバンテージになると思われます。質の高い公共空間を創出するために、シビルグループが提供できる計画・設計サービスを代表事例とともにご紹介しましょう。

1.アーバンデザイン視点で一体的に検討する

都市に溶け込んだ、親しまれる公共空間を設計するには、与えられた敷地内に限らず、その土地で育まれた歴史・交通状況・景観・地域の特色・周辺の建築などの土地のコンテクストを一体的にとらえて検討することが大切です。つまり都市全体を俯瞰する“アーバンデザイン視点”が成功のカギになります。

そのためには都市計画・建築・土木・ランドスケープの各専門チームが、分野の境界線を越えて緊密にコラボレーションする必要があります。シビルグループだけでなく、他分野のスペシャリストがいる日建設計社内や日建設計総合研究所としばしば協働しています。日建グループならではの“総合力”は、プロジェクトを手がける際の大きな強みだといえます。

熊本市の「桜町・花畑周辺地区オープンスペース」は、日建グループによる一体的なアーバンデザインの実践例です。熊本城と中心商店街の間に位置し、公園・広場・道路・建築とさまざまに土地利用されている同地区の計画面積は約16,000㎡。「熊本城と庭つづき『まちの大広間』」というコンセプトのもと、大規模かつ複雑なエリアが一体的なつながりのある公共空間に生まれ変わりつつあります。再開発によってエリア全体の居心地がグレードアップし、回遊性が高まることが期待されています。

周辺環境と一体化した植栽計画方針

2.将来の変化を見据え、“みち”の長期ビジョンを描く

高度経済成長期の日本では、狭い国土の中で効率的に人とモノを移動させるため、自動車交通の円滑化に主眼を置いた自動車中心の道路計画が行われました。世界の潮流でもありますが、現在の日本では道路空間を歩行者中心の道に変えていくことが、今、求められています。また今後は、歩くことができる「ウォーカブルな道」から「歩行者が充実した都市生活を過ごすことができる道」といった、道路にも空間の質が求められてくる時代になっていくと考えています。

大阪市の「御堂筋道路空間再編」は、西日本最大都市の大動脈ともいえる御堂筋を、世界に誇れる人中心のみちへ段階的に変えていくプロジェクトです。自動車交通量が減少し、オーバースペックになっている現状の6車線を、まずは4車線に減らし、側道を歩行者空間化。周辺への交通の影響をシミュレーションしながら、将来的には車道を廃止し、人と多様なモビリティが安全に共存できるフルモール化を目指します。フルモール化によって人々の交流機会が増え、にぎわいやイノベーションが生まれると期待されています。

長いスパンで段階的に再編していくことのメリットは、進化する技術をフレキシブルに取り入れながら、時代の変化に対応していけることです。現在、アジアの大都市は交通渋滞が社会問題化しています。問題に対する処方箋は、交通の円滑化のみならず、将来的な交通状況や価値観の変化を受け止めるリノベーションプランです。私たちは、長期ビジョンを描きながら実現可能な提案を行っています。

3.社会実験の知見を設計と合意形成に生かす

欧米では、都市に対してまず小さなアクションを起こし、長期的な変化につなげようという“タクティカル・アーバニズム”がムーブメントになっています。日本でも道路空間などを再編する際に、この考え方を取り入れた社会実験が行われるようになってきました。安全法規が厳しい日本の実践ノウハウは、安全性向上を目指す点で、欧米よりもブラッシュアップされているのが特徴です。

横浜市の「みなと大通り及び横浜文化体育館周辺道路の再整備に向けた社会実験」では、車道の一部を規制して歩道を広げ、交通への影響や歩道の歩きやすさを検証しました。広げた歩道にはウッドデッキや自由に利用できる椅子、テーブルを設置。市民に休憩や飲食の利用を促しました。期間中のアンケート調査によると、8割以上の回答者が社会実験を「良い」と評価。再整備後の道路空間に期待する役割を問うと、「軽く休める憩いの場・座れる場所」「快適な歩行空間」などの意見が寄せられました。

社会実験で得られた知見は、詳細設計にフィードバックします。また道路管理者である自治体、交通管理者である警察、市民など関係者間の合意形成を円滑にする材料としても有効です。机上の検討では把握できない課題を社会実験によって明らかにし、ベストな解決策を提示することが、プロジェクトの確実な実現につながります。

4.オープンスペースを起点に都市を設計する

公園は都市の貴重なオープンスペース。コロナ禍をきっかけに、自然や外気に触れ、健康のために体を動かせる身近な公園の存在がクローズアップされています。

シビルグループは、多様なスケールの公園を計画・設計しています。「中国南京生態科技島都市設計」は、公園を起点に都市設計を行った事例です。南京郊外の島に新都市をつくる計画で、日建グループは都心部のアーバンデザインを担当。既存の緑を生かした大小さまざまな公園を計画し、それぞれの役割を明確化した上で、配置やスケール、デザインイメージの詳細な検討を行いました。

最大のポイントは中央部の公園です。幹線道路と高速道路の立体交差により、都市が東西南北に分断されてしまう課題がありました。そこで道路の上に巨大公園を人工島のように整備し、都市をつなごうと計画しました。つまりこの中央公園は、市民に開けたオープンスペースであり、重要な機能を持つ都市施設でもあるといえます。優れた公共空間がある都市は、活発な民間投資を呼び起こすと考えています。

5.小さなインフラを時代の変化に合わせて再生する

かつて都市のいたるところにあった電話ボックス。いわば極小のパブリックスペースです。携帯電話の普及によって多くが姿を消しましたが、実は災害時の緊急連絡用としてまだまだ残されています。NTT西日本と組んだ「Pios」は、大阪・御堂筋にある電話ボックスをリノベーションして実装した事例です。災害時だけでなく日常時にも活用できるよう、公衆電話の機能以外にWi-Fi、充電、地図検索などのサービスをプラス。時代の変化に合わせた実用的なインフラとして再生させました。大規模プロジェクトだけでなく、このような小規模プロジェクトのアジア展開も可能です。

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人々が楽しく快適に過ごせる公共空間は、都市の価値を高めます。シビルグループは、都市と技術の半歩先を見据え、変化するニーズに柔軟に対応しながら、人のための公共空間を創出しています。

図版1:中国天津文化中心周辺地区地下空間開発概念計画、天津城市基礎設施建設投資集団
図版2・3:熊本桜町・花畑周辺地区オープンスペース整備、熊本市提供
図版4・5(left・right):御堂筋道路空間再編、大阪市提供
Photo 6・7:みなと大通り及び横浜文化体育館周辺道路の再整備に向けた社会実験、横浜市提供、Hajime Kato撮影
Photo 10・11:心斎橋PioS、志摩大輔 撮影

  • 八木 弘毅

    八木 弘毅

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    公共空間デザイン部
    部長

    京都大学大学院工学研究科修了。専門は公共空間デザイン、土木計画、土木意匠設計。人間の体験に根差したデザインを志向し、分野に捉われないプロジェクト実現をめざす。主なプロジェクトに、姫路市「駅前広場および大手前通り」、大阪市「御堂筋空間再編」、熊本市「桜町・花畑地区オープンスペース」、四日市市「近鉄四日市駅前広場および中央通り」等。著書に『市民がかかわるパブリックスペースのデザイン』(共著、小林正美編著、2015、エクスナレッジ)、『まちを再生する公共デザイン』(共著、学芸出版社、2019)等。京都大学工学部・工学研究科/神戸大学建築学科/大阪市立大学都市学科 非常勤講師。

  • 大川 雄三

    大川 雄三

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    公共空間デザイン部
    アソシエイト

    京都大学大学院工学研究科社会基盤工学修了、在学中にスイスの建築設計事務所において意匠設計に携わり、2015年に(株)日建設計シビルに入社。公共空間の計画・設計を担当。分野を横断しながら、現在と少し先の未来を見据えたチャレンジングな取り組みに日々邁進している。主なプロジェクトに、姫路市「大手前通り」、熊本市「桜町・花畑地区オープンスペース 」、大阪市「東横堀川外護岸等の公園」等。著書に「千葉工業大学 創造工学演習1 設計演習テキスト」(共著、2017)。 京都大学非常勤講師(2021-)。

  • 高橋 舞

    高橋 舞

    都市・社会基盤部門 シビルグループ

    横浜国立大学工学部都市基盤コース卒業後、2014年(株)日建設計シビルに入社。
    入社後は、駅前広場や交通計画を中心とした交通結節点に関する多数の計画業務へ従事し、都市部のターミナル駅(横浜・新宿)から地方の中心駅(沼津、藤沢)まで様々なタイプの結節点の再整備方針策定へ関わっている。2015年~2018年までは、NAD(Nikken Activity Design lab)を兼務し、東京メトロの銀座線のデザインマネジメント業務やモビリティの未来や移動そのものの価値を再考するPJへも参画した。2020年より公共空間デザイングループへ所属し、四日市市や横浜市における道路空間再編業務へ取り組んでいる。
    現在、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府博士課程後期へ在学し、公共空間と交通計画の関係性をテーマに、都市における移動経験を豊かにするための研究を行っている。

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