中大規模都市木造の実現にむけた木質梁+RC床構法を確立

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社会環境課題として脱炭素がより強く求められる時代、建築の木質化へのニーズがいっそう高まっています。そうした中、日建設計は、オフィスや学校、病院などの大きな床面積に対応可能なロングスパンの「木質梁とRC床版の合成梁構法」を住友林業と共同開発しました。耐火性能を確保し、高層建築にも利用可能です。2022年4月、構造性能評価を取得し、より幅広い場面で、環境性能が高く快適な木質空間を実現して行きます。

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木質梁の課題をRC床版で解消

住宅以外の中大規模の建築を木質化するとき、課題となるのは木材の断面が大きくなってしまい空間を圧迫してしまうことです。また鉄やコンクリートに比べて軽くて柔らかい素材のため、床に用いると振動が伝わりやすく居住性が悪くなってしまうこともあります。
それを解決したのが、今回開発した「木質梁とRC床版の合成梁構法」(以下本構法)です。本構法は木とコンクリートの圧縮強度が近いという特性を活かしお互いを強固に接合させる構法です。RC床版が木造梁の剛性を高めるため揺れにくく、鉄骨造とコンクリートスラブによる床と比べても遜色のない揺れにくい床を実現しました。梁の長さは、従来の梁に比べ倍の約12mのロングスパンを実現できるようになり、大きな床面積の中大規模建築にも対応可能になりました。梁せいが非合成梁の場合通常120㎝程度なのに対し、90cmと約4分の3にでき、高層化の際には階高を抑え階数を増やす増床にもつながります。

のこぎり形状の梁断面が開発の鍵

RC床版と木質の梁がのこぎり形状の断面で一体化。接合金物を少なくし、施工性を高める

本構法の開発に取りかかったのは約6年前です。さまざまな試行錯誤と綿密な実験・検証を重ねてきました。日建設計の構造設計チームは「より大規模な建築に対応できる、汎用性のある木質梁とRC床版を開発しよう!」と着想し、2社によるプロジェクトがスタートしました。木質ハイブリッド構造はまだまだ黎明期で、「木質梁とRC床の接合面は、これまでよい技術が開発されていなかった」と構造設計グループの原田公明シニアエキスパートは振り返ります。

最初にチームが挑んだのは、スタッドボルトで木とRCをつなぐ方法でした。しかし、これは剛性を出そうとするとコストや工期がかかるものでした。次に試したのは、住友林業が木造の外壁下地に用いている格子状の木材を梁と床スラブの間の摩擦材とするアイデア。しかし残念ながら強度が上手くでませんでした。そうしたプロセスがヒントとなり、開発開始から約3年経った頃、木質梁そのものに凹凸をつけ、RC床とがっちりつなげる〔のこぎり形接合〕のアイデアが生まれました。構造設計グループダイレクターの福島孝志は「支圧でつなぐのがもっとも素朴で合理的なアイデア。木の加工しやすい特徴も生かせた」と、その機能性を説明します。木とコンクリートの圧縮強度が同等というふたつの素材の性能を効率的に利用した千載一遇の断面構成というわけです。

12mスパンの実大曲げ試験の様子。RC床と一体化し、木梁単体より数倍高い耐力があることを確認。一定の荷重を長時間かけると変形する木のクリープ現象を考慮し、試験体をつくるだけでも1カ月以上を要した

アイデアだけではなかなか実用化に至らないのが、建築構法です。それからさらに3年の月日をかけて、実大実験や居住性の実験を重ね、構造性能評価に至りました。

木質梁とRC床版の合成梁構法

本構法は、構造性能評価の取得にあたり、施工性にも配慮。従来通りの在来型枠やデッキプレートなどさまざまな型枠に対応しています。また、木質構造の最大の難所である耐火性能は、住友林業の「木ぐるみ」(梁の下端に不燃材を入れ耐火性能を高めた構法)シリーズをはじめとする耐火構造の木造梁と組み合わせることで、木質構造で最もハードルが高い高層建築にも活用できます。

木ぐるみCT梁断面
RC床版が木造梁の剛性を高めるため揺れにくく、鉄骨造とコンクリートスラブによる床と比べても遜色のない揺れにくい床を実現しました。梁の長さは、従来の梁に比べ倍の約12mのロングスパンを実現できるようになり、大きな床面積の中大規模建築にも対応可能になりました。梁せいが非合成梁の場合通常120㎝程度なのに対し、90cmと約4分の3にでき、高層化の際には階高を抑え階数を増やす増床にもつながります。(住林・日建ニュースリリース文章より抜粋)

技術研鑽を重ね都市木造の実現と脱炭素に貢献

日建設計と住友林業は、高さ350mの木造超高層建築物「W350計画」を2020年に発表しています。これは、住友林業が創業350周年となる2041年に向けた研究技術開発構想です。本構法も中大規模木造のための技術開発の一環です。

耐火や耐震性能を高める建築構法に加え、環境配慮の技術、使用木材の開発など未来の技術やアイデアが満載の環境木化都市・W350計画。「W350計画は、時間をかけて解決する課題をかたちにしたもの。そのひとつをようやく解決できた」と原田シニアエキスパート。「だれもが使いやすい」本構法の普及と共に、2050年の温室効果ガス実質ゼロの目標に向け、日建設計の構造グループは、木質構造の技術開発と普及に邁進しています。

  • 原田 公明

    原田 公明

    エンジニアリング部門構造設計グループ
    シニアエキスパート

    1987年、東京都立大学大学院修士課程を経て、日建設計入社し一貫して構造設計を行っている。さいたまスーパーアリーナ、YKK80ビルなど大空間建築から免震・制振構造、など様々な形式の構造設計の経歴を持つ。構造安全性に加えデザインや快適な空間づくりを常に心がけ、2012年JSCA作品賞、2019年日本構造デザイン賞、など様々な賞を受賞している。日建設計東京ビルでは2003年より地震観測を実施しその技術を活かしNSmos開発を手掛けその後の実用化まで、リーダー役を担っている。また大学の非常勤講師、日本構造技術者協会の委員を務めるなど教育及び社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

  • 福島 孝志

    福島 孝志

    エンジニアリング部門構造設計グループ
    ダイレクター

    2005年に日本大学大学院を卒業後、日建設計に入社し、構造設計活動を開始。羽田クロノゲート、渋谷ヒカリエ、京橋エドグラン、ハレクラニ沖縄等のプロジェクトを数多く担当。設計実務に加えて、近年では日建設計が標榜するプロフェッショナル・サービス・ファーム実践のため、構造グループ発のサービス開拓に取り組んでいる。JSCA賞新人賞、CTBUH innovation Awardなどを受賞。構造一級建築士。

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