連載:監理とは何か 第4回 
クライアントへの説明責任を果たし、
社会的ニーズに応える

福本 啓二(設計監理部門 監理グループ シニアダイレクター・監理ビジネス開発室長)に聞く
※役職は取材当時のものです。

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要望どおりに建物の工事が実施されているのかや、設計変更に対する工事費は適正かなど、多角的な視点で工事プロセスを検証し、その記録を残していくアカウンタビリティ(説明責任)への要望が高まっています。

日建設計監理グループでは、そうした社会的なニーズに応えるため2019年、監理ビジネス開発室を設立。公正・中立な立場で工事監理を行う「第三者監理」や、クライアントから依頼を受ける「工事に対する技術コンサルティング(以下、工事技術コンサル)」を推進し、建物の性能や品質向上に取り組んでいます。

今回は、同室長を務める福本啓二シニアダイレクター(取材当時)に話を聞きました。

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中立的に建物の品質を担保する「第三者監理」と
多様なニーズに応える「工事技術コンサル」

それでは、第三者監理や工事技術コンサルとはどういう業務なのでしょうか。また、クライアントにとってこうした業務を委託することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。

建築基準法や建築士法で定められている工事監理は、設計を行った設計事務所が引き続き行うことが一般的です。2001年から国の直轄工事で、設計に関与しなかった設計事務所が工事監理を行ういわゆる第三者監理が導入されました。この導入の背景には、設計者とは異なる建築士が監理業務を行い監理業務に専念させることで、適正な業務の履行を求めるものでした。日建設計は創業以来設計者とは異なる建築士が監理業務を専任して行う組織を有しており、公正・中立の立場で第三者監理同等の監理業務を行ってきました。

日建設計は、自社設計のプロジェクトだけでなく、クライアントの求めに応じて他社が設計を行う建物に対し、数多くの第三者監理を行ってきました。基本業務として、工事が設計図書どおりに行なわれ品質が確保されているかエビデンスを確実に残すこと、また不具合が起きそうな建物のディテールにも改善のアドバイスをするなど、品質向上に寄与してきました。特約業務としては、工事費の透明性の確保や工事工程を確認し適切にアドバイスを行うことで工事の進捗円滑化や工程回復の支援など、コストマネジメントやプロジェクトマネジメントも行っています。

一方、工事技術コンサルは、オーナーズコンサルタントとして、設計監理者や施工者の業務が適切に行われているかを確認し、効果的なアドバイスで確実な品質確保や工事の円滑な進捗を図り、クライアントをサポートする業務です。法律で決められた工事監理ではなく、工事進捗状況の確認が基本業務です。ときには円滑な作業促進のためのアドバイスや軌道修正を促すこともあります。特約業務として、設計内容の検討、施工図書の検討やアドバイス、工事中の設計変更に対する工事費の検討など、プロジェクト全般にわたってコンサルティングを行うことも可能です。

第三者監理、工事技術コンサルのどちらも日建設計の監理の強みを活かした公正・中立な立場で、かつ客観性を持った視点で工事プロセスを丁寧に検証し、アカウンタビリティを確実に果たし、建物の性能や品質の確保を強力に支援しています。それがクライアントにとっての最大のメリットといえます。

「設計監理」「第三者監理」「工事技術コンサル」それぞれの場合の関係図 「設計監理」「第三者監理」「工事技術コンサル」それぞれの場合の関係図

トラブルの芽を摘み、リカバリーにも対応する
工事技術コンサル

工事技術コンサル業務は、日建設計が創業以来蓄積した豊富な経験やノウハウ、技術力を活かした業務です。

最近の具体的な業務内容をご紹介します。
例えば、他社が設計・施工・監理している建物に対して、施工計画書や施工図をチェックし、内容を確認し、改善すべき課題が見つかれば必要に応じてアドバイスを行います。それらをコメントログで見える化し、設計者、監理者、施工者やクライアントと共有し、施工者はどのように対処したかを書き込んでいきます。

また、現場巡回をひと月に2回程度行い、現場写真と共に不具合となりそうな部位や事象などを抽出し、同様にコメントログに改善のためのアドバイスを書き込みます。それらに対して施工者が是正・改善の有無や方法を記録していくことで工事プロセスのエビデンスを確実に残すことができます。それと同時に、その記録をマンスリーレポートとしてクライアントへ提出することで、業務契約上の報告書とすることができます。これはクライアントとの信頼関係を築くと同時に、建築主のみならずテナント、ユーザーに対して建物の品質が適正であることを説明するにあたり、第三者である日建設計が検証した貴重な履歴となります。

工事技術コンサルの一つ「現場巡回レポート」の一例。上記赤字の要領で記載し、運用されている。 工事技術コンサルの一つ「現場巡回レポート」の一例。上記赤字の要領で記載し、運用されている。
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クライアントは建築主に限らず、デベロッパーやプロジェクトマネージャーなど、それぞれのプロジェクトにより異なるため、多様なニーズに応える対応力を必要とします。またコンサルティング内容も、工事段階で生じた様々なお困りごとに関する相談や竣工後のトラブル対処など幅広く、多角的な知識と高い技術力が求められます。

例えば、竣工後に外壁サッシ漏水や空調機温水配管漏水に対する根本的原因の究明や解決への対応にあたって、業務委託を受けることがあります。施工計画書や施工図並びに施工中の検査記録を検証したり、現地の施工状態を確認したり、施工者から提案された是正案の妥当性をチェックしたりします。またときには、発生した不具合以外にも重大な瑕疵が発生していないかを日建設計で蓄積したトラブル情報データベースと照合するなど、工事内容を遡って検証も行います。 

検証は「施工品質管理状況の確認ポイントリスト」を使用して行う。 検証は「施工品質管理状況の確認ポイントリスト」を使用して行う。

しかしあくまでも「工事技術コンサルの醍醐味は、あらかじめトラブルの芽を摘むことはもちろんのこと、クライアントに寄り添いご要望に応えることで、日建設計監理の高い技術力とマネジメント力を知ってもらい、日建設計監理のファンを増やすことで、様々なクライアントと良好なビジネスのネットワークを広げること」と、監理ビジネス開発室長の福本シニアダイレクター(取材当時)は話します。工事の初期段階から、工事工程やコスト、品質を改善していくのが工事技術コンサルの仕事で、それがコンサルを委託いただく最大のメリットだからです。

“監理”の拡大で新たな社会貢献の機会を求めて

第三者監理や工事技術コンサルは、クライアントが何を求めているのか、何を期待しているかを知る貴重な機会となっています。「そうしたニーズや期待に応えるために、常に監理業務の内容を見直し、マネジメント力や技術力を高め、成果を上げることに邁進しています。監理ビジネス開発室設立から4年、工事技術コンサルも含めた監理グループが直接受託する案件が増加傾向にあるのは、常に中立性と第三者性を堅持した監理の価値が少しずつ理解され認められているのかもしれません。今後もお客様とのネットワークを拡げていきたい」と、監理業務の拡大を福本シニアダイレクター(取材当時)は見据えています。

現代は、デジタル・トランスフォーメーションやグリーン・トランスフォーメーションといった技術革新と同時に、価値観やライフスタイルが大きく変化しようとしている時代です。建物に関わる監理業務や技術コンサルティング業務に求められるものも、そうした社会背景や社会環境によって大きく変化し、より多様化していくことでしょう。日建設計監理グループでは、そうした社会の変化や建設業界の変容に対応しながら、技術研鑽し続けることで、建物の品質確保や向上、サステナブルな建物の実現に貢献してまいります。

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