中国のストック時代を先駆ける
ビル再生プロジェクト
中国・北京/中関村 鼎好ビル

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「中国のシリコンバレー」と呼ばれるハイテク企業の一大集積地、北京市中関村(ちゅうかんそん)。「鼎好(ディンハオ)ビル」は、その玄関口にあります。2003年と2008年に段階的に竣工し、電子市場の商業ビルとして親しまれてきましたが、急速な時代の変化に伴い陳腐化・空洞化が進んでいました。そこで近年、エリアのオフィス需要が増大していることに伴い、オフィスビルに用途変更されることに。既存ストックを解体せず、全面リノベーションによって約20万㎡の巨大ビルのコンバージョンを成し遂げるという、かつてない大型プロジェクトがスタートしたのです。

2020年、北京市は脱炭素を目標に、スクラップ&ビルドからストック活用に転換する都市更新政策を打ち出します。市の宣言以前から進んでいた本プロジェクトは、時代を先駆けるものとして高い評価を得ることになりました。2022年に一期の改修が完成。劣化しかけていた商業ビルから、付加価値の高い最先端オフィスビルへの再生は、いかにして行われたのか。日建設計の提案をご紹介します。

エリア全体の活性化を目指し、都市骨格を再構築

鼎好ビルは、地下鉄4号線中関村駅と地下2階で直結しています。地下2階の自由通路は、まちの中心部と繋がっているものの、雰囲気が暗く積極的に利用されていませんでした。そこでビルの改修設計にとどまらず、エリア全体の活性化を目指した都市骨格(歩行者ネットワーク)の再構築を自主提案することにしました。用いる手法は、日建設計で実績豊富なTOD(Transit Oriented Development=駅まち一体開発)です。地下鉄駅から中関村の中心市街地へ、また北京大学や清華大学がある反対側の大学エリアへも円滑に移動できる歩行者ネットワークの整備を計画したのです。

起点となる駅側の地上には都市公園があります。現在は自転車置き場と化し、残念ながら人々の憩いの場になっていません。この公園をサンクンガーデンに改修し、駅とまちを地下2階で接続させようと呼びかけました。まち側の終点にも新たにサンクンガーデンを設け、地下1階でまちと接続させます。さらに地下と地上を結ぶ縦動線の集合体「アーバンコア」を歩行者ネットワークに接続。駅やまちから来る人々を、鼎好ビルの地下商業エリアとオフィスフロアへスムーズに導き入れる仕掛けです。

ビル中央部にアトリウムを設け、奥行の最適化を実現

既存の鼎好ビルは階段などが外壁側に分散配置され、オフィス奥行が約60mと非常に深い、オフィスとして使いづらいビルでした。外光が入りづらく、動線としても分かりにくい平面をどのように改善すべきか、私たちの提案は、中央部にアトリウムを設け、快適なオフィス空間と視覚的・動線的な中心性を実現することでした。

リノベーションでアトリウムを設けるのは大チャレンジです。何しろ既存のスラブを解体・撤去し、ビルの真ん中に竪穴を空けるのです。大がかりな構造検討とプランの見直しでしたが、おかげで吹き抜けとなった中央部は自然光の通り道になり、オフィスフロアは奥行の最適化を実現しました。竪穴を空けて削った床面積は、オフィスとして価値の高い高層部に増築増床し、プラスマイナスゼロに。面積再配置によって賃貸収入が大幅に増加しました。

ビルを商業からオフィスに用途変更すると、エレベーターを増やす必要があります。私たちは躯体にさらに穴を空けることはせず、アトリウム内にエレベーターを設置することで改修コストを抑えました。中国のオフィスビルはセンターコアが一般的ですが、これだとエレベーターホールと各フロアを行き来するだけになり、ビルの全貌を感じることができません。鼎好ビルのアトリウムは、すべてのテナントワーカーと来訪者が体験できる象徴的な空間となっています。

@Zhen Jia Yao

@Zhen Jia Yao

テナントワーカー同士の交流とイノベーションを促す

中関村は、成熟した有名IT企業や投資会社から将来有望なスタートアップまで、さまざまな段階・業種の企業がオフィスを構えるエリアです。鼎好ビルもそうした企業の入居を想定し、テナントワーカー同士が交流することで、イノベーションが起きやすくなるのではないかと考えました。そこでビルの屋上につくったのが、「イノベーションガーデン」と名付けた庭園です。ワーカーたちは仕事の合間にここでリフレッシュしながら交流を楽しむことができます。

🄫Tian Fangfang

@ZHANGJIN PHOTOGRAPHY

ビル内各所にもカンファレンスホールやシェアオフィスなど、交流のためのパブリックスペースを設けることを提案しました。他のオフィスビルにはなかなかないイノベーティブな空間は非常に特徴的であり、ビルの付加価値を上げることが期待できます。

🄫Tian Fangfang

コンバージョンとCO2排出削減を同時に果たす

広告やLEDサインで覆われた商業ビル特有の外装は、現代的で開放的なオフィスビルにふさわしいデザインに全面更新しました。ハイテク企業が集まる中関村らしさを表現するためにモチーフとしたのは「象嵌細工」。精緻な工芸品とITに「技術」という共通性を見出し、表情の異なる2種のガラスを象嵌細工のように同面納まりで隣り合わせ、外観イメージを刷新しました。

@Zhen Jia Yao

🄫Tian Fangfang

今回のリノベーションにより、既存ビルを解体して新築するのに比べ、CO2排出量を約60%削減することができました。古くなった建物のライフサイクルを延ばすことは、CO2排出削減に極めて効果的です。鼎好ビルはリノベーションによって性能も向上しました。建物の環境性能を評価する「LEED認証」、建物の空間をウェルビーイングの視点で評価する「WELL認証」において、共にゴールド認証を取得しています。

@ZHANGJIN PHOTOGRAPHY

北京市の脱炭素都市戦略をリードし、既存ストックを活用して、時代のニーズに合わせた用途変更とイメージ刷新を果たした鼎好ビル。提案を見た市政府が、隣接公園の駅直結サンクンガーデン化に前向きになるなど、まちにも影響を与え始めています。二期の改修が完成し、TODが実現すると、エリア全体の活性化に大きな効果をもたらすでしょう。日建設計は今後もこのようにビルを再生し、まちを変えるプロジェクトに貢献してまいります。

@Zhen Jia Yao

  • 中谷 憲一郎

    中谷 憲一郎

    執行役員
    企画開発部門
    プロジェクトマネジメントグループ代表

    1993年、東京大学卒業後、日建設計に入社。専門は建築プロジェクトのマネジメント。大規模都市開発や外資系ホテルをはじめとする複雑なプロジェクトにおけるマネジメントを専門家として対応。中国における大規模案件や海外クライアントの日本国内案件なども数多く手掛ける。実績としては、「ザ・リッツ・カールトン日光」、「インターコンチネンタル大阪」、「華為松山湖プロジェクト」など。

  • 森井 直樹

    森井 直樹

    設計監理部門 グローバルデザイングループ アソシエイト

    2001年、京都工芸繊維大学大学院卒業後、アトリエ設計事務所にてキャリアを積む。
    2008年、日建設計入社。専門は建築意匠設計。
    日本国内の大規模プロジェクトから小規模の研究所まで多岐に渡り担当、国内で培った経験を活かし、近年は海外プロジェクトも数多く手掛ける。主な実績として「渋谷スクランブルスクエア」、「北京中関村リノベーションプロジェクト」など。「上智大学ソフィアタワー」にて日本建築家協会優秀建築選受賞。
    一級建築士、日本建築学会会員。

  • 李 里

    李 里

    海外事業部門 海外企画開発グループ
    海外設計PM部(中国) アソシエイトマネージャー

    1995年横浜国立大学大学院修了。建築設計、工業化建築開発、設計監理に携わる。その後、日建設計に入社。専門はプロジェクトマネジメント。
    「中日新聞社品川フロントビル」(2008)、「SONY大崎ビル」(2011)、「飯田橋駅前再開発」(2012)、「大連 住友不動産大連開発」(2013)、「瀋陽 積水裕沁府」(2015)、「東莞 華為松山湖研究開発施設」(2015)、「無錫 積水裕沁湖畔庭」(2016)、「深セン 華為コンベンションセンター」(2017)、「東莞 華為大学」(2019)、「北京 鼎好リノベーション」(2020)などの実績を持つ。 港区みどりの街づくり賞(2012)、再開発コーディネーター協会都市再開発高山賞(2015)、collection2022中関村賞(2022)などを受賞。
    一級建築士、監理技術者。

  • 亀井 聡

    亀井 聡

    設計監理部門グローバルデザイングループ
    アソシエイト

    2011年、東京工業大学大学院を修了後、日建設計上海に入社、2016年日建設計に入社。専門は建築意匠設計。海外の大規模複合開発やTODプロジェクトを主に担当し、2017年「杭州緑地中央広場」にてCREDAWARD Silver Prize受賞。ほかに「北京中関村リノベーションプロジェクト」などを担当した。
    生活や産業、経済活動といった人の営みと都市や自然環境が織りなす壮大な風景づくりに関わりたいという想いで建築設計に取り組む。グローバルとローカルをつなぐ役割になるべく、地元札幌でのまちづくり活動にボランティアとして参画している。
    一級建築士、日本建築学会会員。

  • 趙 維雍

    趙 維雍

    設計監理部門グローバルデザイングループ
    プロジェクトアーキテクト

    2016年東京大学大学院建築研究科を修了後、日建設計に入社。専門は建築意匠設計。研究所、オフィスビル、ホテル、大型商業施設、データセンター、スポーツ施設など多種多様な建築設計、内装設計業務を経験。「設計窓口」、「設計者」、「プロジェクトマネジメント」など、チームにおいてもさまざまな役割を担う。主な実績として、「北京中関村リノベーションプロジェクト」「アサヒ飲料研究所」。
    一級建築士。
    「駅まち一体開発 TOD46の魅力」(2019)(共著)

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