使い手にゆだねるローテクで先進的なオフィス
自分で窓を開けられる、ユーザー自身が簡単な工夫をすることでその人にとっての快適を作ることができる、そんな使い手の関わる余地のあるオフィスを提案します。
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東京・千駄ヶ谷の明治通り沿いにひときわ異彩をはなつオフィスビルがある。窓前面につり下げられたワイヤーに草花がからまり、緑のブラインドのようになっている。立ち止り、写真を撮っていく人も多い。このビルは、日本コープ共済生活協同組合連合会の本部として、2016年12月に竣工したコープ共済プラザだ。
実際にこのビルで働く、日本コープ共済生活協同組合連合会広報グループ(取材当時)の行武麗子さんと総務部の浅野小百合さんに入居後感じたことなどについてお話をうかがった。
何ものにも代えがたい安心感
「何よりこのビルで働いていることに大きな安心感があります」と浅野さんは語ります。コープ共済連の本部がまだ千葉県浦安市のビルに入っていた時、東日本大震災が起きました。折れるかと思うほどビルは大きく揺れ、パソコンは飛んでいき、キャビネットは倒れ、天井は落下。その後も備蓄品がオフィスを占拠する職場で、不安な思いで過ごされたそうです。同時に原発事故による節電で、エネルギーの大切さも身にしみて感じたとのことです。
そこで、本部ビル移転に伴う新ビルの設計にあたり、設計者は、その教訓を生かし、働く人の不安を解消するために、ちょっとした発想の転換を図りました。そのひとつが「逆スラブ構造」の採用です。
一般的なビルは、空間の上部に梁があり、梁と梁の間に空調機が、さらには梁下に天井が「つられている」状態です。しかし当ビルではコンクリートの床の上に梁をつくり、その間に空調機を置き、その上に床を貼って居住するようにしています。この方式だと重いものは床下に「置かれている」ので、落ちてくる心配がありません。また床下に備蓄品も入れることができ、災害時の不便さも軽減し安心できるようになっています。
そこで、本部ビル移転に伴う新ビルの設計にあたり、設計者は、その教訓を生かし、働く人の不安を解消するために、ちょっとした発想の転換を図りました。そのひとつが「逆スラブ構造」の採用です。
一般的なビルは、空間の上部に梁があり、梁と梁の間に空調機が、さらには梁下に天井が「つられている」状態です。しかし当ビルではコンクリートの床の上に梁をつくり、その間に空調機を置き、その上に床を貼って居住するようにしています。この方式だと重いものは床下に「置かれている」ので、落ちてくる心配がありません。また床下に備蓄品も入れることができ、災害時の不便さも軽減し安心できるようになっています。
通常の約4割の環境負荷
「このオフィスで働く、もうひとつの大きなメリットは、都心のビルの中にいながら自然が感じられるということです。窓外に設けられているバルコニーには、季節ごとに色々な花が咲いたり、実がなるのが楽しみです」と行武さんは言います。
実は、この草花の植えられたバルコニーも、逆スラブ構造が一役かっています。室内では、備蓄品や空調機を収めていた床下の梁の部分が、バルコニーでは土を収める植木鉢になっているのです。さらに、そこに植えられた植物がバルコニーにつるされたワイヤーにからまりグリーンブラインドとなって日を遮るだけでなく、そこに水滴を垂らし、その水滴が蒸発する際に、打ち水効果と同じ原理で周りの空気を冷やすので、夏の温度を下げることにも役立ちます。
実は、この草花の植えられたバルコニーも、逆スラブ構造が一役かっています。室内では、備蓄品や空調機を収めていた床下の梁の部分が、バルコニーでは土を収める植木鉢になっているのです。さらに、そこに植えられた植物がバルコニーにつるされたワイヤーにからまりグリーンブラインドとなって日を遮るだけでなく、そこに水滴を垂らし、その水滴が蒸発する際に、打ち水効果と同じ原理で周りの空気を冷やすので、夏の温度を下げることにも役立ちます。
オフィスで働く人たちや街に対して、このようなやさしく楽しい仕組みを組み込むことに加え、屋上では、いままでオフィスでは利用できなかった太陽の「熱」を集め、それと発電機の排熱も併せて利用して冷房や暖房ができる最新技術を採用しています。また、いくつかの窓は、センサーと連動して開いて夜間の空気取り込み、その冷気で天井のコンクリートを冷やし昼間の冷房効率をあげるナイトパージというシステムを採用しています。
地下の温度は年間を通じて一定です。そのため、外気と比べて冬暖かく夏冷たい、地中熱や井戸水を利用して、冬は温めてから、夏は冷やしてから外気をビルに取り込むヒートクールチューブや井戸水コイルを地下に設けています。その調温した外気をさらに乾燥剤を利用したデシカント外調機という最新設備を利用することで、一般的なエアコンと比べて、エネルギーをあまり使わずに除湿し、快適なオフィス環境を作っています。
このように様々な最新技術をオフィスビルに融合させることで、通常のオフィス※の約6割の環境負荷削減を実現しています。(※CASBEE2010年版の基準値での比較)
地下の温度は年間を通じて一定です。そのため、外気と比べて冬暖かく夏冷たい、地中熱や井戸水を利用して、冬は温めてから、夏は冷やしてから外気をビルに取り込むヒートクールチューブや井戸水コイルを地下に設けています。その調温した外気をさらに乾燥剤を利用したデシカント外調機という最新設備を利用することで、一般的なエアコンと比べて、エネルギーをあまり使わずに除湿し、快適なオフィス環境を作っています。
このように様々な最新技術をオフィスビルに融合させることで、通常のオフィス※の約6割の環境負荷削減を実現しています。(※CASBEE2010年版の基準値での比較)
自分が参加する余地がある快適性
社員にとって自分が参加する余地があることも特徴のひとつです。窓の開かないオフィスが多い中、当ビルは人が手で窓を開け気軽に自然換気を行えるようになっています。こうしたオプションがあることは、災害時に煙が出た時にも、いつものように窓を開けて、バルコニーに出られるという安心感にもつながります。
また、床から空気がしみ出す空調機を採用しているので、例えば寒く感じた時は、社員が吹き出し口にマットを敷いて、冷たい空気をブロックするなど、自分で環境を整えることができるようになっています。
また、床から空気がしみ出す空調機を採用しているので、例えば寒く感じた時は、社員が吹き出し口にマットを敷いて、冷たい空気をブロックするなど、自分で環境を整えることができるようになっています。
設計者はビルができたことがゴールだとは思っていません。竣工後も当ビルで働く人たちに定期的にレクチャーを行っています。例えば、総務には「夏、外から帰ってきた時に暑い」などの意見がよせられることもあるといいます。これは風を使わず、じわっと涼しい冷房を採用しているためですが、そのような人には「風を使わない空調が長時間オフィスにいる人にとってどれだけ健康に良いかを認識してもらい、一時的に暑い方は 卓上扇風機などを置いてもらって、涼をとることが効果的です」という話をします。
現状が完成された環境ではなく、それぞれに参加の余地のある環境として認識してもらえれば、働く人の中に能動的な意識が生まれます。竣工から1年半以上たった現在においても、設計者と利用者が対話しながら、オフィスの価値をより高めていこうとしています。
現状が完成された環境ではなく、それぞれに参加の余地のある環境として認識してもらえれば、働く人の中に能動的な意識が生まれます。竣工から1年半以上たった現在においても、設計者と利用者が対話しながら、オフィスの価値をより高めていこうとしています。