新型コロナウイルスによりもたらされる新しい社会に向けて
~様々な複合災害にむけての取り組みとして~

日建設計 執行役員 エンジニアリング部門 構造設計グループ プリンシパル
杉浦 盛基

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 2020年、私たちはワクチンが未だ存在しない新型コロナウイルス感染症の脅威にさらされ、今までと異なる生活様式の中で生きることを余儀なくされました。日本は災害国であり、これまで、多くの自然災害を経験してきましたが、もし、感染症と自然災害が同時に発生したらどうなるのか。複数の異なる災害がほぼ同時、もしくは短期間に立て続けに発生することを「複合災害」と言いますが、この「複合災害」というリスクに私たちはどのように備えていけばよいのか、今、改めて考えてみたいと思います。

日建設計 執行役員 エンジニアリング部門 構造設計グループ プリンシパル 杉浦 盛基 日建設計 執行役員 エンジニアリング部門 構造設計グループ プリンシパル
杉浦 盛基

感染症と自然災害

 日本は、はるか昔より、地震、台風、大雪、火山噴火などの自然災害や、大火、飢饉や疫病などの災害により多くの被害を受けてきました。さらには、急激に進む気候変動により、台風や豪雨などの自然災害リスクが高まっており、ここ10年の主な自然災害の事例だけでもかなりの数に上ります(次頁表1参照)。また、コロナ禍において、グローバル化の進展から、地球のどこか遠くで発生した感染症が、瞬く間に世界中に拡散し、島国である日本にももれなく到来することを学びました。
 そして、「地震と津波」や「地震と大火」、「台風と高潮」など、一つの災害から派生した複合災害とは違い、「感染症の起こっている最中での地震や台風、豪雨」のように全く関連性のないところから同時に発生する「複合災害」の可能性について気づかされることとなりました。
 自然災害が増え続けるのと同時に激甚化の傾向にある我が国においては、こうした「複合災害」への対策は喫緊の課題であると言えます。
2020年7月 令和2年7月豪雨 豪雨 熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨。
2019年9月 台風19号 台風 関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらした。
2019年9月 台風15号 台風 関東上陸時の勢力では過去最強クラスの台風。
2019年8月 九州北部豪雨 豪雨 長崎県から佐賀県、福岡県までの広い範囲にかけて、長時間にわたる線状降水帯による集中豪雨が発生、8月28日を中心に各地点で観測史上最大を記録した。
2018年9月 北海道胆振東部地震 地震 9月6日に発生したM6.7の地震。厚真町で震度7、札幌市東区や千歳空港でも震度6弱を記録した。
苫東厚真火力発電所の緊急停止から発生したブラックアウトにより全道295万戸が停電した。
2018年9月 台風21号 台風 大阪湾で第二室戸台風の時を上回る3mの高潮を記録した。関西国際空港では滑走路が浸水し、連絡橋にタンカーが衝突し、孤立状態になった。
2018年8月 猛暑 猛暑 5年ぶりに40度を超えた。熊谷市で最高気温記録を更新する41.1℃を記録。
岐阜県下呂市、同美濃市でも41.0℃を記録した。他に東京都青梅市で40.8℃、名古屋市で40.3℃を記録した。
2018年6月 大阪北部地震 地震 6月18日に発生した大阪北部を震源としたM6.1の直下型地震。大阪北部で観測史上最大の震度6弱を記録した。
2018年7月 平成30年7月 西日本豪雨 豪雨 広島県、岡山県、愛媛県に甚大な被害をもたらした。
死者237名、行方不明8名。水害により死者が100名を超えるのは平成に入ってからは初めてであり、昭和に遡ると長崎豪雨以来。
2017年7月 九州北部豪雨 豪雨 福岡県と大分県で発生した集中豪雨。死者40名、行方不明2名。
2016年8月 台風7号、9号、
10号、11号
台風 8月16日から8月31日に発生した台風及び北海道地方に停滞した前線による大雨により死者24名、行方不明5名。
家屋倒壊や浸水などの被害とともに農作物(ポテトチップス用のジャガイモなど)への甚大な被害。
2016年4月 大分県中部地震 地震 4月16日に発生したM5.3の地震。熊本地震に誘発された。大分県由布市で震度5弱を記録。
熊本地震の本震で震度6弱に見舞われた由布市、別府市などでは被害の拡大に見舞われた。
2016年4月 熊本地震 地震 4月14日に前震(M6.5 )が発生。最大震度7を益城町で記録した。その後4月16日に本震(M7.3 )が発生し、益城町、西原村で最大震度7を記録した。熊本県、大分県の広範囲で震度6強~震度6弱を観測。
2014年9月 御岳山噴火 噴火 登山客が山頂に多くいる時間に突然噴火し、多くの登山客が巻き込まれた。死者67名。
2014年8月 豪雨による
広島市の土砂災害
豪雨 広島市北部の安佐北区・安佐南区の複数箇所において大規模な土砂災害が発生。
土石流などで死者74名、家屋の全壊174軒、半壊187軒。
2014年2月 平成26年豪雪 豪雪 岐阜県・山梨県・長野県で大雪により孤立する集落が相次いだ。普段は雪の少ない太平洋側でも大雪となり、スリップ事故などが多発した。
2013年10月 台風26号 台風 東京都の伊豆大島にて記録的な大雨による土石流が発生。死者39名、行方不明4名。
2013年8月 猛暑 猛暑 8月上旬から中旬に猛暑となり、高知県四万十市で当時国内観測史上最高となる41.0℃を観測した。
2011年9月 台風12号 台風 西日本各地に大雨を降らせた。特に紀伊半島の奈良県南部および和歌山県で被害が大きかった。死者82名、行方不明16名。
2011年3月 長野県北部地震 地震 3月12日に発生した。M6.7。長野県栄村では震度6強を記録しており、家屋の倒壊や土砂崩れなどの被害を受けた。v
2011年3月 東日本大震災 地震 M9.0の巨大地震(国内観測史上最大の地震)。最大深度7。
福島第一原子力発電所事故を引き起こした。東日本の太平洋沿岸部に大津波が襲来し、多大な被害を与えた。
2011年1月 新燃岳噴火 噴火 鹿児島県霧島市域に噴火口のある新燃岳の噴火。1月26日から噴火。4月中旬以降は沈静化。
表1 2011年~2020年の災害記録 出典| https://www.7mate.jp/saigai/より作成
被害状況を表す数字は「内閣府防災のページ」内(http:www.bousai.go.jp)より引用

安政二年江戸大地震火事場の図
国立国会図書館蔵

命を守ると同時に生活を守る建築へ

 もし、新型コロナウイルス感染症がまん延する状況下で、自然災害が発生したら、どのようなことが起こるのでしょうか。避難する人々が増加し、避難所に人が溢れ、避難所内で新型コロナウイルスの感染が拡がるのではないかという心配は当然のことであり、今、そのことが様々なところで取り上げられています。事実、東日本大震災時には、避難所でインフルエンザの流行が確認されています。
 もちろん避難した人たちの感染拡大を阻止するという視点は重要です。しかし、そもそも避難する人を減らすという視点はそれ以上に重要です。避難する人が減れば、密な状況を緩和させることができるからです。
 これからは従来からある災害時に「命を守る」建築というコンセプトに加えて、「災害時のステイホーム」、つまり、災害時にも「生活を守る、維持する」という新たなコンセプトで、生活する場を考えていく必要があるのではないかと考えます。それは、事業所でいう「BCP(事業継続計画)」のコンセプトを、生活の場全般に適応させて「LCP(生活継続計画)」と位置付けることを意味しています。

国土強靭化に向けた取り組み

 災害に強い国造りは、SDGsの「11住み続けられるまちづくりを」中に、水関連災害などの自然災害の被害と経済損失への対策として盛り込まれていますが、その対策のためには、行政と民間、そして個人が協働して、災害対策をより積極的に取り組んでいくことが重要であると考えています。

 日本は断層の巣であると評されています。日本中のどこに住んでいても地震を避けることはできません。避難する人の密度を減らすために耐震化の促進は重要です。より耐震性能の高い免震化を積極的に推し進めることも有効な手段の一つです。
 水害についても同様に、日本中の至る所で水害を受ける危険性があります。一言に水害といっても台風による高潮、地震による津波、豪雨による洪水、河川決壊、土砂崩れなど様々です。前述したように、地球温暖化の影響で、台風や豪雨は、ここ最近、発生する頻度が高くなっているうえに、その規模が大きくなってきています。また、2011年の東日本大震災における津波や、最近の熊本の球磨川や岐阜の飛騨川における洪水のように、地域一帯に大きな被害が生じることがあります。こうした水害に対しては、過去の経験や昨今の最新技術を駆使した高度なシミュレーションより、危険な地域を把握し、できるだけその地域に住まないようにしていくことも考えられます。これこそが自然との共生と言えるのかもしれません。
 台風に関しては、住宅の屋根などで仕上げ材や瓦が飛ばされないように補強をしておくことが重要です。

 「複合災害」が起こった時、都市や建築が強靭であれば、感染症への対策に重きを置くことができます。しかし、もし、そこが脆弱であれば、両方の対策に追われその深刻さは増していきます。
 そういった意味で、事前にできることは対策しておくことが、対策に時間がかかる感染症との「複合災害」においては有効です。そこに、私たちが専門とする都市や建築に対する知見が生きてきます。

様々な「複合災害」に向けて

 本稿では、「感染症と自然災害」による「複合災害」について述べましたが、これからは水害の増加なども考え合わせて、自然災害同士の「複合災害」についても検討が必要と考えます。すぐに実現させることは難しいかもしれません。しかし、新型コロナウイルスの影響で、多くの生活様式が変わり、新たな脅威に脅かされている今だからこそ、災害対策を一歩前進させることができるのではないかと感じています。 (2020年11月20日)
※「Beyond Covid-19 社会・都市・建築」は連載です。今後は、建築家、プランナー、エンジニア、コンサルタント等が各専門の立場でビジョンを定期的に発信していきます。

  • 杉浦 盛基

    杉浦 盛基

    執行役員
    エンジニアリング部門 構造設計グループ プリンシパル

    1991年、名古屋工業大学工学部社会開発工学科を経て、日建設計入社。専門は構造設計。
    現在はプリンシパルとして、構造設計グループを統括している。瀬戸デジタルタワー(2003)、京都迎賓館(2005)、ミッドランドスクエア(2006)、焼津信用金庫本部社屋(2007)、名古屋市科学館理工館・天文館(2011)、中京テレビ本社ビル(2015)、ザハ・ハディド・アークテクツ+設計JV案新国立競技場(2013-2015)、新カンプ・ノウ計画コンペ(2016)、津市産業スポーツセンター“サオリーナ”(2017)などを担当。高さ200mを超えるタワーや超高層ビルから、350mを超えるスパンの大空間構造に至るまで幅広い設計経験を持つ。一級建築士、構造一級建築士。日本建築構造技術者協会、日本建築学会会員。

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