まだ見ぬ空間に、人を引き込む 
〜CGスタジオが伝える建築の風景〜

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コンピュータ・グラフィクス(CG)技術は、1960年代に米国で開発されて以降、日進月歩です。映画やテレビ、ゲームなどで目にしない日はないほど、私たちにとって身近な存在となりました。今後ますます進化するCG技術は、建築プレゼンテーションにおいても重要なツールとなっています。日建設計の建築ビジュアライゼーションが果たす役割と展望について、CGスタジオのクリエイター、濱野智明、太田琢也、和田浩平太、青山晴香に、話を聞きました。

五感に伝わる未来空間を描く

 日建設計では、1960年代に手描きパースによる建築ビジュアライゼーション専門の部署が設立されました。以降、半世紀にわたり、クライアントや利用者に、将来の建築イメージを伝える試みを続けています。80年代には線画のCG、90年代にはアニメーションと表現の幅を広げてきました。現在はCGスタジオ(CGS)として約 20名のクリエイターが、VR(仮想現実)や、MR(複合現実)も含む新たな表現技術に挑んでいます。

CGSが果たす大きな役割のひとつは、創設以来変わることなく「魅力的な空間を伝え、見る人の心を掴むこと」とデジタルクリエーターの濱野は語ります。

そのために尽力しているのが、「建築物単体だけでなく、風景の一部として描くこと(濱野)」です。建築が完成後に生み出す環境や空気感を伝えるため、光りの加減を調節したり、建築の水面への映り込みを描いたり、建築と周辺環境との呼応を細やかに表現しています。それは、まだ存在しない空間の中に、あたかも自らがいるような臨場感をもたらします。

A quiet dawn

「人のアクティビティや周辺環境を描くことで、そこにいる自分の姿が想像できる」と濱野は言います。CGスタジオの描くものは、クライアントと設計者が利用者目線を持ち、利用者と共に将来像を描いていくためのコミュニケーションツールなのです。青山は言います。「プレゼンテーションの受け手は、必ずしも建築に詳しい人ばかりではありません。建物や空間を格好よく見せるだけでなく、その場に合った添景を入れることで、空間の利用法に気づいてもらうことにつながります」。

たとえば、住友林業の木造超高層建築の研究技術開発構想「W350計画」(企画構想および⽊質エンジニアリング︓住友林業、建築設計および構造設計︓⽇建設計)の動画は、自然の生態と、木造超高層の映像を重ねてつくったものです。木造化がもたらす空気感を見る側の五感に訴えかけ、環境木化都市への期待を高める表現となっています。 

W350計画基本構想(動画提供:住友林業株式会社 動画作成:日建設計CGスタジオ 2018)

CGSが生む空間の創発効果

ビジュアライゼーションの制作は、CGSと設計者がチーム一丸となり、議論を重ねて進めます。

CGSの主な仕事は完成イメージの作成ですが、それ以外に設計段階でCGを用いたシミュレーションを行うこともあります。仕上げの素材を検討したり、空間の構成やスケールを確認したりすることで、デザインの洗練に役立ちます。

CGモデリングを使って、クライアントに検討してもらいながら実際の設計につなげる経験をした太田は、「関係者が多いプロジェクトでは、具体的な絵でイメージを共有することで、円滑な合意形成につながった」とプロジェクトを振り返ります。
 

レンダリングによるバリエーション:東急プラザ銀座

また、CGSが描くものが、設計者に新たな気づきをもたらし、設計のブラシュアップにつながることも少なくないようです。

「設計図があれば自動的にビジュアル化ができるわけではありません」と和田。設計図から空間を読み解き、太陽の位置や光量、仕上げ材など条件を変え、何度もレンダリングをし、検証を重ねることで、空間の良さを引き出しながら1枚の画に仕上げていくのがCGSの仕事だからです。設計者と異なる「写真家が風景を切り取るような目線(和田)」が、創発の効果を生み出します。
 

表現の研鑽重ね、未来空間を描く

「映画や映像など他のジャンルからも学び、これまでにない表現を試みたい(和田)」と、ビジュアル創作の専門家集団として、先鋭的で多様な表現を追求していくことにCGSは意欲的です。

あるとき、設計者がクライアントのもとで直接プレゼンテーションすることができなくなってしまい、CGSでクロマキー合成というCGと実写を融合させる技術を使って、映像とそれを説明する設計者を合成したプレゼンテーションビデオを作成しました。本サイトのトップにあるCGSの集合写真もまた、各人が個別に撮影した写真を青山が合成したものです。
 

クロマキー合成のメイキング

プロポーザルなどでは、360度レンダリング技術をつかって、複合施設内のさまざまな人びとの動きを描き出すこともあります。 
※以下をクリックすると360度VRが体験できます。
 最先端の技術に時には手描きなども加え、さまざまなビジュアライゼーションにCGSは挑み続けます。

東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパス

レスター・ソア島建築コンクール : CGを手描き風に加工している。

技術だけではなく、空間イメージの発想がCGSの大きな原動力となっています。
実際のプロジェクトへの貢献の他、独自に建築ビジュアライゼーション専門のコンペに出品するなど、メンバーはそれぞれに発想や表現の自己研鑽を重ねています。








 
 「空間を想像するのが好き」という青山が過去に専門コンペに出品した習作では、制作中のひとつのミスをきっかけに、同じ空間でも視点を変えるといつも見ている絵面とは全く違う世界があることを発見。その場での出来事を、見る側が思わず想像してしまう画に仕上げました。

「建築のCG は説明的なものが多いけれど、物語性のあるものをつくりたい(和田)」、「さまざまな表現が可能になった現代、近未来の空想を描きたい(濱野)」と、新しい世界の創造に余念がありません。

空間を疑似体験できるビジュアライゼーションが果たす役割は、今後ますます大きくなることでしょう。発想と現実空間をつなげるCGSの活動にご期待ください。
 

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