人々の心を掴んで物語を伝える
手描きイラストの魅力

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都市設計に込めた思いを可視化し、未来のドラマを表現
2018年、CG全盛のなか、日建設計がアイディアを可視化するツールとして、伝統的に守り続けてきた手描きのイラストを紹介する展覧会が、東京、大阪、福岡で開催された。日建設計がイラストで伝えたいものは何か、イラストレーションスタジオ室長 山田雅明に話を聞いた。

——CGスタジオを社内に構える設計会社はみられますが、日建設計ではイラストレーションスタジオまで備えており、これは世界的にも希少なことです。CG全盛の時代に、なぜ手描きのイラストにこだわるのでしょうか。

おっしゃる通り、アメリカやヨーロッパをはじめ、世界中の設計事務所を見ても、手描きの部署を抱えている会社は日建設計以外にほとんど見かけません。

CGと手描きイラストでは、同じ表現手法といえども、目的が異なります。
CGのゴールは、その場所にどのようなものが建つのかということを、精密で正確にリアリティを持った形で伝えることです。
対して手描きイラストのゴールは、イメージや思い、その場所の使われ方を可視化して伝えることです。
日建設計はお客様に対して、その両方を提供していこうとしていることが大きな特徴といえます。

手描きイラストの利点の一つとしては、設計の詳細が決まっていない段階でも、設計者のイメージや思考を元に描き出せる点があげられます。
また、実際のスケールに捉われず、たとえば街を行きかう人物などを誇張して大きく描いたり、マンガの吹き出しや効果音表現のように文字要素を用いたりすることで、その建築物の魅力や人々の楽しい雰囲気をも一目で伝えることができます。それはたとえば、文字のみのプレゼンテーション資料においても、日本語を勉強中のアメリカ人が書いた手描きの文字がたいへん印象的で、どんなデザインの文字フォントよりも心に響くメッセージとなるようなものです。CGだけでは得られないインパクトを与えられる手法が手描きなのです。

——日建設計において、手描きイラストがどのように扱われてきたかを教えてください。

当社は、1900(明治33)年に誕生した住友臨時建築部を源流としています。手描きイラストについても、水彩画が「日建設計らしいテイスト」として当時より受け継がれてきました。現存しているもっとも古い手描きイラストには、1930年竣工の「住友ビルディング」を描いたものがあります。この時代はコンピュータはおろかコピー機もない時代ですので、原画はお客様の方にお渡ししていることがほとんどなため、元の絵が残っているのは本当に貴重です。また、1973年に描かれた中野サンプラザの断面透視図のイラストも、作図を含めてすべて手描きで、建物の中にいる人々のアクティビティも詳細に描かれています。

その後、2000年前後より設計におけるCADの台頭とともに、建築領域においてはCGが一般的になりました。そのような中で、日建設計では設計の意志や意義、深い部分までを伝えられる、お客様とのコミュニケーションツールとして手描きイラストの技を守ってきました。現在、当社のイラストレーションスタジオには日本画、油絵、デザイン、ファインアート、そして建築など多様な分野出身のイラストレーターが10人所属し、アメリカ、マケドニア、イギリス、パキスタン、スペイン、などの国籍・教育を有するメンバーで構成されており、国際色も豊かです。デジタル全盛の世の中で、逆に手づくり感が求められるせいか、最近では建築以外の手描きイラスト発注も入るようになっており、全員が常にフル活動しています。

——手描きイラストによるプレゼンテーションが功を奏してコンペを勝ち抜き、建設が実現した例はありますか。

イラストだけの力ではありませんが、私が手がけた「蘇州現代メディアプラザ」の例があります。中国の蘇州テレビ本社を核としたオフィス・ホテル・ショップの複合施設ですが、未来的なツインタワーと、2棟に挟まれたメディア広場が古都の夕景に浮かび上がる姿を、手描きで繊細に彩色してイラストを作成しました。メディア広場は蘇州の伝統的な絹織物をモチーフとした曲面状のガラス屋根が印象的な、陽光の反射やガラス越しの人々の姿など、この建築によってもたらされる世界観を想像力豊かに表現した手描きイラストです。現実に、ほぼイラストの通りに建ち上がっています。

中国をはじめとした海外の案件やコンペでは日本以上に、手描きイラストが高く評価されます。それは一つには、近年急速に経済成長を遂げた中国において、手描きの時代を経ていないため、建築イラストといえばCGしかなく、手描きのものを目にする機会自体が貴重であるためでしょう。その線や色みの豊かさに魅入られ、驚嘆されることもしばしばです。また、30~40代の若いお客様というのは、実は日本製アニメを観て育った世代なのです。彼らにとっては日本のアニメやマンガで描かれる「線」は親しみがあり、憧れのもの。ですからプレゼンの際に示される、手描きの線による、賑わう街並みに惹きつけられ、魅了されるのでしょう。そして、それは中国に限らず、他のアジア地域や欧米でも同様の傾向にあります。

手描きイラストの色づかいや手描きの味わいに惹かれるのは、日本の若い世代にもいえることです。2018年春に東京オフィスで開催した「イラストレーションスタジオ展~DRAWN TO ARCHITECTURE」では、原画を中心に100点以上の手描きイラストを展示しましたが、学生など若い方の来場が引きもきらず、私たちの想像を超える反響を呼びました。彼らは幼少時からデジタル機器に囲まれて育ち、大学の建築系の授業でも3Dソフトには触れても、アナログな手描きの経験はありません。この展示を機に手描きイラストに興味を持ち、当スタジオでアルバイトを始めた学生もいます。手描きのイラストが見直され、手作り感が価値となる時代になっているのです。

——そのように人々を惹きつける手描きイラストですが、日建設計がそれにより世の中に貢献できることは、なんでしょうか。

手描きイラストのもつ強みは、直感的な魅力や人のぬくもり・思いを運び、イマジネーションを掻き立てるという「感動を伝える力があること」や、図面の必要なく最小限の情報でイメージをつくり、そのプロセスも見せられる「思考を可視化する最速ツールであること」。そして、わざと人を大きく描いたり、セリフの吹き出しで人々のアクティビティを表現するなど、「表現を誇張してわかりやすくすること」ができる点にあります。もちろんCGも大切ですが、お客様の目線に立ってイラストを描いて、それを見た人の心を動かして、日建設計を選んでもらえるようになることが望みです。

私たちがあえて手描きで伝えたい思いは、その建築が人と暮らしの環境や暮らし方、働き方をどのように良くするか、ということです。
イラストレーションスタジオが設計部より相談を受けた際には、その設計の意義や意味を熱く語り合い、それがお客様に届くよう、手描きの線や彩色に思いを込めています。それは、お客様の経営課題に応える部分を、イマジネーション豊かな手描きイラストで表現しているということです。それがお客様に伝わり、建築が実現すれば、描いた世界が叶うこととなります。

日建設計は建てて終わりではなく、その先で人が使い始めて初めて完成という考え方をもっています。繰り返しとなりますが、CGに加えて、未来にその建造物がどのように利用され、どう賑わうのかを手描きのイラストで可視化して提案できるという、CGと手描きイラストを自由に使い分けることができるのが他社にはない日建設計の強みのひとつであり、お客様の要望実現化への近道であると考えています。

“芸術とはわれわれに真実を悟らせてくれる嘘である。”
—パブロ ピカソ

文字のみのプレゼンテーション資料においても、日本語を勉強中のアメリカ人が書いた手描きの文字がたいへん印象的で、どんなデザインの文字フォントよりも心に響くメッセージとなる。

  • 山田 雅明

    山田 雅明

    設計部門 イラストレーションスタジオ 室長

    1982年名古屋芸術大学絵画科卒業、同年カリフォルニア州立大学アーバイン校留学、HOK等を経て1993年帰国、日建設計に入社。多種多様なプロジェクトに参加し、現在手描き専門の部署であるイラストレーションスタジオ室長。多国籍のメンバー10人を束ねる。主な経歴として、2011年American Society of Architectural Illustrators(アメリカ建築イラストレーターズ協会)会長に就任、東京でカンファレンス、エキジビション等を開催。現在同協会アジア地区代表。また、UIA2011東京大会(第24回世界建築会議)において、世界中から200点余りの作品を集めたエキジビションプログラム「国際建築イラストレーション展」を主宰した。

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