新型コロナウイルスによりもたらされる新しい社会に向けて
~「With, After Corona」時代の都市型コンパクト住宅~

日建ハウジングシステム 代表取締役社長
宇佐見 博之
(役職は公開時のものです)

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 いま社会は様々な課題に直面しています。
 少子高齢化・介護問題、急速に進む働き方改革、DX(Digital transformation)に伴う目まぐるしい社会・経済環境の変化、激しさを増す自然災害。そして、コロナウイルス感染拡大により「With, After Corona」と呼ばれる新しい生活が始まりました。私たちの「住まい」にリモート・ワークやリモート学習という「働く」「学ぶ」ための機能が求められるとともに、健康・衛生への意識の高まりなど、新たな気づきとニーズが生まれ始めています。

日建ハウジングシステム 代表取締役社長 宇佐見 博之 日建ハウジングシステム 代表取締役社長
宇佐見 博之
(役職は公開時のものです)

「nLDK」住宅を分解し、組みなおす

 海外から「うさぎ小屋」と揶揄される日本の都市型コンパクト住宅を例えに、ユニットプランの可能性について考えたいと思います。より快適な都心生活のため「nLDK」型住宅プランから脱却し、狭小でも工夫をこらした「自由な住まいのかたち」を追求する動きは、ライフスタイルの多様化や暮らしの価値観にも大きく影響を及ぼしてきました。しかし、その「自由な住まい」は、コロナ禍の自粛生活によって、前向きな新たな発見もありましたが、働くための空間としては多くの不都合が露わになりました。一方、個室重視型「nLDK」型住宅が改めて見直された場面もあったのではないかと思います。いずれにしても、合格点に達した「住まい」は少ないのではないでしょうか。そこで、その答えを探るため、在宅勤務中の弊社役職員から「住まい」のアイディアを募りました。

 たくさんのアイディアが集まり、個々の暮らし毎に求められる「住まい」のかたちもニーズも様々でしたが、家庭菜園など新鮮な空気や土に触れたいという、より健康的な暮らしへと意識がシフトする傾向が見られました。
 こうしたことから、いま私たち住宅の設計者は、自らの「住まい」の体験からこれまでの暮らしの仕組みを分解し、「With, After Corona」時代の「住まい」として組み直す、新たな試みが求められているのではないでしょうか。

コンパクト住宅でも開放的なリビング・テラスのある「WAC の住まい」 コンパクト住宅でも開放的なリビング・テラスのある「WAC の住まい」

温故知新 秀作『51C型』から学ぶ

 限られた空間でも、多様で自在な暮らしを可能にする「住まい」とは何か、そのヒントは、集合住宅の歴史の中にありました。

 1951年の高度経済成長期のはじめに公営住宅の標準設計『51C型』は誕生しました。この規格は、集合住宅の建築家としても著名な山本理顕さんが「ひとつの住宅という箱の中だけの革命ではなく、集合住宅という形式の発明とセットである」と讃するほど、人々に大きな影響を与えました。わずか12坪の極小住宅に「食寝分離」の理論を反映した「nLDK」の基本となった秀作ユニットですが、実は、明快にゾーニングされた居室エリアから、壁、畳とふすまを取り除いてみると、多様化した今日の「脱・nLDK」の基本のかたちが表れてきます。

(左):『五一 C 白書 私の建築計画学戦後史』鈴木成文著より転載
(右):『大倉山ハイム』6号棟 住戸プラン図とシャフト更新写真

「更新」から「変換(Transformation)」へ

 『51C型』の誕生から約20年後、日建ハウジングシステム創立時に設計した『大倉山ハイム(1979年)』が竣工しました。この集合住宅は、のちに、時を経てなお健全に維持されている長寿命建築に贈られるBELCA賞(ロングライフ部門)を受賞します。住戸に入らずに共用部から直接メンテナンスができる大きめのパイプスペースを設けたことにより、将来の設備更新や拡張に容易に対応できる集合住宅となっていることが、評価された理由のひとつです。現在の集合住宅建築において、住宅を、構造躯体のように時を経ても変化しない部分と、内装や設備のように変化が予想される部分とを分けて考える「SI(スケルトン&インフィル)」という考え方がありますが、大倉山ハイムにはその萌芽が見てとれます。そして大倉山ハイムから約40年後、居住者自身が、時代や家族の変化に対し、建物の構造や設備に左右されることなく、もっと自由に気楽に対応できるよう、日建ハウジングシステムは、可動間仕切り収納・可動キッチンを考案するなど、研究開発を進めてきました。
 しかしながら、ライフステージに合わせて簡単に更新できる「住まい」を手に入れることが可能となっても、「With, After Corona」の日常では、十分でないことを知りました。いま、私たちの暮らしは、時代や家族の変化だけでなく、日々の暮らしのなかの短いスパンの変化に追従しなければならなくなったのです。例えば、在宅時間が増えると、広さの限られた住宅の中で、時には書斎や寝室を増やす必要があるなど、その都度自在に「変換(Transformation)」出来る「住まい」が求められるようになったと言えるでしょう。その答えのひとつとして、変幻自在に間仕切ることができる『ZIZAIKU/自在区』を紹介します。これは、弊社で開発したもので、敷居と鴨居の呪縛から解放された「ふすま壁」で部屋を間仕切り、しかも自由に動かすことができます。

家族の変化とともに思い切って Transformation(変換)する 家族の変化とともに思い切って Transformation(変換)する

51C 型を題材とした ZIZAIKU/ 自在区の活用例 51C 型を題材とした ZIZAIKU/ 自在区の活用例

ZIZAIKU/自在区(特許取得済)
日建ハウジングシステムlid研究所とユナイトボードの共同開発。動画の一部はユナイトボードより提供。

D.I.Yで変換する「住まい」

 この仕組みは、天井に鉄板が仕込まれており、ふすま壁上部縁が磁石になっているため、何の制約もなく好きな場所を手軽に間仕切ることができるというものです。女性一人でも移動可能な軽さで、「ふすま」に限らず「ブラインド」「飾り棚」「障子」等への応用も可能です。D.I.Y感覚で思いのままの部屋割りが出来るほか、アイディア次第で個性的な「住まい」を日々の状況にあわせて変換する自在性も持ち合わせています。
 あくまで、これらは手法のひとつにすぎませんが、新たな日常において、「住まい」の新しいかたちを探るヒントとして、十分に将来性があると感じています。 容易に住み替えられる世帯は限られます。社会が抱える様々な課題と「With, After Corona」時代の健全なレジリエンスを手にするためには、暮らしの仕組みを考え直すことの重要性を強く感じています。この機会に住まいや働く場所のあり方をはじめ、地方も含めた都市の新たな可能性も探りながら、持続可能な社会における人々の『Well Being』の実現に向けて、皆さんと共に考えて参りたいと思います。(2020年7月31日)
※「Beyond Covid-19 社会・都市・建築」は連載です。今後は、建築家、プランナー、エンジニア、コンサルタント等が各専門の立場でビジョンを定期的に発信していきます。

宇佐見 博之
日建ハウジングシステム 代表取締役社長

1988年:日建ハウジングシステム入社
2019年:代表取締役社長

様々な規模や種類の都市住宅プロジェクトを担当。
また、地域創造プロジェクトからコミュニティ創造企画や商品開発を統括。一級建築士、日本建築家協会会員、日本建築学会会員、日本造園学会会員。

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