TODが創り出す、街の賑わいと活力
——広州白雲駅設計者が語る(前編)

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2023年12月、中国広州市北側の新開発エリアに広州白雲駅が開通しました。白雲駅は高速鉄道を含む地上24路線、地下鉄6路線などが乗り入れる延べ 41万㎡の公共交通ハブで、その周辺のオフィスや商業施設約50万㎡と共に駅まち一体開発(TOD)が進んでいます。日建設計は、TODの国際コンペで選ばれ、デザインアーキテクトの役割を担いました。
公共交通の開発が加速する中国では昨今、TODのニーズが高まっています。日建設計は渋谷駅など日本の主要都市で数多く手掛けてきたTODのノウハウを活かし、中国のTODを黎明期からリードしてきました。
アジア最大の高速鉄道TODとなる広州白雲駅の開通から半年を経て、プロジェクトチームで現地を視察後、座談会を開催しました。コンペから6年間を経て、本プロジェクトを振り返りつつ今後の中国でのTOD開発について展望します。

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広州白雲駅TOD敷地内の西南のタワーにて座談会を行った。
左から、都市デザイングループダイレクター 高木義雄、日建・上海董事長 陸鐘驍、グローバルデザイングループ代表 村尾忠彦、グローバルデザイングループ 馮淇欽;
右から、グローバルデザイングループ部長 丁炳均、都市デザイングループ部長 野村哲、日建・深圳ダイレクター 劉超、設計グループ 手銭光明、設計PM部(中国)部長 張健。

白雲駅概要

白雲駅は、線路によるエリアの分断を解消するために「Transit Loop(リング)」と呼ぶ立体的な歩行者動線を中心に据え、公共交通と周囲の複合施設をつなぎ合わせます。 1日36万人が行き交う地下鉄への乗換えホールは、「Station Core」と呼ぶ地下2階から地上 4階までの吹き抜けをつくり、各層をつなぐ動線計画としています。常に自然光で満ち溢れ遠くまで視線が通り抜ける「Station Core」は、人々に快適な移動体験を提供する駅まち一体の象徴的空間です。
また、東西の立面はそれぞれ25本の庇が放射状に迫り出し、広州市を象徴する木綿花の花びらを表現。この大庇の下は人々が集まる広場や散策路として周辺住民や駅利用者に開いています。

賑わいの大きなリング「Transit Loop」が線路で分断された街を繋ぐ。リングの外側にオフィスや商業などの複合施設が立つ。

6層吹抜けのStation Core(左)と木綿花の花びらを表現した30mキャンティレバーの大庇 🄫楊敏/mintwow

広場で駅と複合施設を一体的につなぐ
——白雲駅TODのコンセプトと空間体験

高木義雄:まちが線路で分断されないよう、リング状のTransit Loop(以下、リング)を中央に配置し、東西南北にある駅前広場とつないで広場を分散させるのがコンペ時のコンセプトでした。当初からの案がそのまま実現できたのは本当に良かったです。駅舎の南北に配置した、線路上の複合施設をつなぐ長さ400mの広大な広場空間は、コンペの頃は大げさすぎるかとも思いましたが、今日実際に見てみたら、ランドスケープや大屋根の庇によって快適に周囲へ繋がる広場となっていました。

全体構成図

野村哲:この広場は日常的にイベント等で利用され、人の多い春節時は駅の屋外待合ホールとしても使用されます。時期によって“呼吸“をするように利用法が変化するので「呼吸広場」と名付けました。今思うと“呼吸”という人のアクティビティを名付けたことで、ヒューマンスケールの印象を与え、駅舎にも周辺の建物にも違和感なくなじんでいるのだなと思いました。

線路上の複合開発についてはこれほど大規模なものは前例が少なく、また鉄道省も当初は興味がなさそうだったため、おそらく実現しないだろうと思われていました。これらの施設がなかったら、交通ハブができただけだったと思いますが、完成してみると街と駅が緊密な関係を持ち、駅まち一体の開発ができました。TODだからこその賑わいのある場づくりができたのではないでしょうか。

北呼吸広場 🄫楊敏/mintwow

呼吸広場越しに線路上の施設を見ながら待合ホールからプラットホームに行く乗客。

陸鐘驍:呼吸広場での空間体験は非常に印象的です。線路上の建物がリングの円弧に沿って配置されて、駅舎の屋根の曲線も相まって、空が丸く切り取られます。呼吸広場と切り取られた空が、駅全体の印象として記憶に残りますね。

劉超:白雲駅の開発では移動空間が心理的にも物理的にも「近くなった」と感じました。路線の乗り換え距離が短く、市民が利用しやすい駅ができました。線路上の複合施設が駅のすぐ近くにあり、駅と街の心理的な距離感を縮めています。また、呼吸広場に立った時、中国の駅前によくある、車に占領された交通広場ではなく、人が行き交う街の広場の雰囲気を感じることができ、駅が街の一部になっていると感じました。

ヒューマンスケールの空間
——白雲駅のデザイン

手銭光明:ひとつは、広州市を象徴する木綿花をイメージしたファサードの大庇です。この花びらは当初、アルミパネルを想定していました。でも複雑な形状はアルミパネルで製作するのが困難だと分かってきた。それでETFE膜という、軽量で加工性や耐久性に優れた素材に変更しました。製作寸法に制限が少なく、目地も出ない! この素材変更がファサードデザインの一つのブレイクスルーでした。形状は日建設計のDDL(デジタルデザインラボ)と検討し、現地の膜メーカーの協力も得て、ようやく完成まで漕ぎ着けました。
また吹抜けの「Station Core」は、地下まで自然光を取り込む「光谷」として、スケール感なども当初のイメージした通りに実現できました。光谷は、乗り換えの通行客だけでなく、地元住民の休憩場としても使用されていて、設計時点に想定したよりもよい風景となっていますね。

西広場から見る夜の花びら 🄫楊敏/mintwow

明るくにぎやかな光谷 🄫楊敏/mintwow

:これだけ大規模な駅ですが、随所で居心地のよいヒューマンスケールを感じられるところが良いですね。大屋根も分節されているのでオーバースケールになっていないし、その下は通行人のための日影ができています。特に木がたくさん植えられていて、木の下にはベンチがあり、そこで周辺の住民が憩っているのを見て嬉しく感じました。駅に公園を隣接させることで、駅と人や街の距離をさらに近づけています。

大庇の花びら 🄫楊敏/mintwow

大階段は住民の休憩所にもなっている 🄫楊敏/mintwow

街を感じるプラットホーム
——駅舎デザインとしての新規性

村尾忠彦:地下鉄から地上の駅正面にたどり着くと駅のファサードが大きく開けて見えます。威圧的なところがなく、歓迎されているように感じました。そのまま光谷に進むと、明るく開放的で、行き交う人で賑わっている。人を中心に考えることで生まれた理想的な空間だと思います。
一番すごいと思ったのは駅ホームまで屋根のデザインが続いていて、ファサードのデザインが大屋根からホームの方まで流れ込んでいること。ルーバーと線の重なりですべてのデザインを解こうとしているストイックさが品につながっていると思います。

プラットホームで列車を待つ風景 🄫楊敏/mintwow

:多くの駅は、中に入ったら電車に乗るまで同じ風景が続きます。でも白雲駅は外観のデザインを内部まで引き込み、内部の待合ホールからプラットホームに降りる際に外の街や空が見えます。内と外の関係を曖昧にして、中にいても外を感じられ、これまでにない体験がデザインされています。

丁炳均:高速鉄道の車窓から白雲駅を見ると、線路の上部に高層の街が聳える風景が目に飛び込んで来ます。電車がそのまま街の下に潜り込む感覚です。一般的な駅ではそのまま暗いプラットホームに着いて終わりですが、白雲駅ではプラットホームからも空や街といった屋外を吹き抜け越しに見ることができます。白雲駅ならではの印象的な空間体験ですね。

街の見えるプラットホーム 🄫楊敏/mintwow

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