「オフィス街で森林浴」周辺環境や文脈を読み込んだランドスケープデザイン

~新ダイビル 堂島の社~

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植物の緑や親水空間、美しい地形などの豊かな自然は、人々に心の安らぎをもたらしてくれます。建物やインフラなどの人工物が多い都心でも、豊かな自然は日常にメリハリと活力を与えてくれるもの。また人々の感性に働きかけるだけでなく、周辺の生き物にもよい影響を与え、ひいてはヒートアイランド現象の抑制や、減災などの役割を果たすこともあります。

近年、人口減少により都市インフラの新たな整備の必要性は減ってきています。そのため、何よりも経済を最優先としていた高度成長期の価値観とは違う、今の時代に合った新しい価値観、すなわち各個人が都会にいながら生活を楽しめるような都市空間がいま必要とされています。このようなことも、都市緑化の背景にあると言えるでしょう。

日建設計では、豊かな環境創出のために都市緑化を推進し、大小さまざまなランドスケープデザインを手がけています。それぞれの案件に対して、計画地の周辺環境や現在に至るまでの文脈を読み込み、それぞれに合ったランドスケープデザインを実現します。具体的な事例から、ランドスケープデザインの考え方や価値、実現までのストーリーをご紹介します。

愛された屋上樹苑を地上に再現「新ダイビル 堂島の社」

「新ダイビル 堂島の社」は、緑の少ない大阪の堂島エリアに1,000坪の広大な森を出現させた画期的なプロジェクトです。ビルの建て替えに伴い、敷地の約半分を緑地化。高層ビルの足元に約80種300本の多様な木々が生い茂る“都市のオアシス”を創出しました。

撮影:河合止揚

旧ビルの特徴は、1964年に竣工した屋上の広大な緑地でした。まだ屋上緑化の事例が多いとは言えない当時、その先駆けとして半世紀にわたり生態系を維持してきた、知る人ぞ知る広大な樹苑でした。

旧ビルの建て替えに伴ってランドスケープデザインを手がけた日建設計は、クライアントとの深い議論を交わしました。その結果、この屋上樹苑で育まれてきた樹齢約50年以上にもなる緑、先人たちが屋上樹苑に込めた想い、地域に愛された憩いの場を継承することは、「地域を愛する精神を伝える上でとても大切である」という共通認識に行き着きました。

屋上樹苑移植の成功に至るまでのプロセス

新たな緑地空間の大きな特徴は、旧ビルの屋上樹苑の樹木の一部が移植されたことです。しかしその実現には、さまざまな苦労がありました。

まずは屋上樹苑を調査し、高さ12mにまで育ったケヤキをはじめ、イロハモミジ、ツバキ、クスノキなど約20本の移植対象木を選定しました。

屋上樹苑からの移植の苦労は、移植に先立つ準備である根回しや根巻から始まりました。屋上樹苑は土の厚みが平均わずか36cmほどしかないため、樹木の多くが、下ではなく横にどんどん根を張りながら育っていたのです。通常の樹木とは大きく異なった環境で育った屋上樹苑の樹木は根鉢が平たいため、縄を使う通常の根巻ではなく、ストレッチフィルムと単管挟み込みでしっかり補強した上、根鉢を掘り取るなどの工夫と手間が必要でした。

4t以上の樹木は200tクレーンで屋上から下ろすなど、大がかりな搬出作業を経て、仮植地に移植。根系を残した本植(再移植)をしやすくするため、盛り土をした高植え状態で、ビルの建て替えをしている期間、約4年間養生しました。その間も、根が乾燥しないように麻布の内側に水で濡らしたミズゴケを差し込むといった養生技術を駆使し、環境を整えました。その甲斐あって、十分な根系と緑量を保ったまま、歴史ある樹木を新築ビルの周りに無事、本植することができたのです。

順応的管理で実現した自然な緑地空間

地下に駐車場があるため、「新ダイビル 堂島の社」の地上緑地は人工地盤上につくられた緑地空間です。あえて地表に起伏をつける、遊歩道を蛇行させる、樹木をランダムに植える、などの工夫を凝らし、人工地盤を全く感じさせないことで自然な森らしさを演出しました。

撮影:河合止揚

月1回の定期メンテナンスでも、画一的な剪定や過剰な病虫害対策はしません。できるだけ自然な状態を生かし、その時々の植物の状態を随時見守る“順応的管理”により、ますます元気を増している森。鳥のさえずりが聞こえたり、蝶がひらひらと集まって来たりと、人だけでなく植物や生き物にも心地よい空間となっています。

受け継がれ、より地域に開かれた憩いの場へ

知る人ぞ知る憩いの場であった屋上の緑地空間が、新たに地上に受け継がれることで、ビルの玄関口となり、時間の制約もなく誰もが気軽に足を踏み入れる場となりました。現在は平日のオフィスワーカーにとっては息抜きの空間に、休日の地域住民にとっては交流の場となるなど、多くの人々に親しまれています。

また、ガラスでデザインされた一階エントランスロビーと一体的に緑地空間を計画しているため、室内からも木漏れ日を感じることができる、緑の眺望と開放感に溢れた空間となりました。時にはクラシックコンサートを開催するなど、この空間も地域に開かれたパブリックスペースとして人々から愛されています。






 



 

計画地の周辺環境や文脈を活かしたランドスケープデザインを提案

日建設計のランドスケープデザインの特徴は、計画にあたって建築や造園手法を単に適用するのではなく、計画地の周辺環境や文脈をよく吟味した上で、一つ一つ丁寧にデザインしていくことにあります。その上で、事前に実行可能性を調査し実現までのシミュレーションを行い、さらに竣工後の管理方法まで視野に入れた計画を行うことで、不確実性を伴う植栽計画のコントロールも行います。

緑地は人々に心理的によい影響を与えるだけでなく、時には文化を生み出し、環境問題を緩和し、減災にも役立つもの。都市計画のような大きなビジョンだけでなく、一人一人の感性に直接的に訴えかけることのできるランドスケープデザインの力を使って、その両面から都市を考えていくことが重要だと考えています。日建設計はこれからも、もっと都心に人や周辺環境にとってよりよい計画を創出すべく、自然の力を活かしたランドスケープを考えていきます。

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