まちを豊かにする
ランドスケープデザインのちから

都市の機能空間を人のための空間へ

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戦後、日本の都市インフラ空間は、機能と量を確保するため、標準設計を用いて急速に整備されました。そのため行政がデザインに時間や予算をかけることは難しく、また市民や企業にも、私有地(パーソナルスペース)以外の環境や空間(パブリックスペース)にコミットする余裕はありませんでした。例えば、自分の家から一歩外に出た道路や歩道空間はとても豊かな空間とは言い難く、日本の都市には、こうしたグレーインフラストラクチャと呼ばれる単一機能のコンクリートで覆われた工作物や空間が多く存在するようになりました。

現在、人口減少の進む日本では、以前ほど新たな都市インフラを整備する必要性がなくなりました。また成熟期を迎え、経済や効率を優先してきた社会とは違う価値観が模索されるようになりました。そんな中、今ある環境を、いかに生活者ひとりひとりの豊かなライフスタイルにつなげていくか、ということがこれからの都市を考える一つのテーマになってきています。
千葉県・柏の葉イノベーションキャンパスにあるアクアテラスは、水辺にできた市民の憩いの場です。休日には、水辺で遊ぶ子どもたちや散歩を楽しむ人、法面のベンチや展望デッキでのんびり過ごす人たちで賑わいます。ランドスケープデザインを日建設計が担当しました。
この空間の中心は調整池です。かつては危険防止のために1.8mもあるフェンスに囲まれた、雨水貯留機能を果たすのみの立ち入り禁止施設でした。しかし、今後まちが発展するためには、屋外交流を促進する空間モデルとしてこの調整池が高質化されることが重要であるというビジョンが、千葉県、柏市、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)、三井不動産をはじめ、関係ステークホルダー間で共有され、周辺開発に併せてフェンスを取り払い、人のための親水空間としてデザインしなおしたのがアクアテラスです。ヒューマンスケールの親しみやすいデザインによって賑わいができ、常に人の目があることで安全性も高まりました。わざわざ遠くに自然を求めて行かなくても、住んでいる地域で居ながらにして、水辺の自然に癒され、ゆるやかに周辺の人たちとつながることができる、都市の豊かなライフスタイルを提案しています。

役目を終えたグレーインフラやブラウンフィールドを市民のための空間としてデザインし直す動きは日本だけのものではありません。なかでも有名なのは、ニューヨークの鉄道高架跡地をマンハッタンの街並みを一望できる空中公園に作り変えたハイラインでしょう。

日建設計も、シンガポールの国土中央を縦断する旧マレー鉄道跡地24kmを自然豊かなパブリックスペースとして再生する「レールコリドー」プロジェクトに取り組み、周辺地域の個性を重視した、人々に親しまれるランドスケープデザインを提案しています。このように、世界中で、都市生活者が都会にいながら自然を享受し、ゆったりとした時間を過ごすことができる屋外の公共空間整備が成長戦略の一環として実践され始めています。まちを豊かにするうえで、ランドスケープデザインが果たす役割が増してきていると言えるでしょう。
単一機能しかもたないグレーインフラが、自然豊かなグリーンインフラへ作り変えられていくことは、景観の美化だけでなく、減災や都市環境の改善にも役立ちます。緑を植えるために必要な土には、雨水を貯める機能があり洪水抑制につながります。また緑の蒸散作用には、周辺の気温を下げる働きがあります。もしグレー一色だった道路空間に川から連続した緑が植えられたとしたら、そこに自然の涼しい風が通り、ヒートアイランドで温まった都会でも、夏の夜を気持ちよく過ごせるようになるかもしれません。

成熟社会を迎えた課題先進国・日本には、機能を保持・補強しながら、生活者の快適性や豊かなライフスタイルを追求し、コンパクトに暮らしていける新しい都市モデルを世界に先駆けて構築するチャンスがあります。そのためには、都市計画のような大きなビジョンだけでなく、アクアテラスやレールコリドーのように、ひとりひとりの感性に直接的に訴えかけることのできるランドスケープデザインの力を使って、その両面から都市を考えていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

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