パブリックスペースの理想を求めて。

シンガポール「レールコリドー国際設計コンペティション」マスタープラン部門優勝|LINES OF LIFE

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「これはドリームプロジェクトです」とレールコリドー国際コンペティションにおいて、チームメンバーの3人はいう。シンガポールを南北に縦断する全長約24km の旧マレー鉄道跡地、通称「レールコリドー」を再生させる国際コンペ。主催者であるシンガポール都市開発局(URA)の要望は、“非凡で感性を刺激するパブリックスペースとしての再生”だ。“何をつくるのか”は決められていない。だからこそこのコンペは、日建設計にとって、理想のパブリックスペースを提案できるチャンスになる。
建築、都市、ランドスケープなど、多彩な分野のチームメンバーがそれぞれの専門領域を超えて一体となって挑んだレールコリドーコンペ。マスタープラン部門で優勝を果たした「LINES OF LIFE」とは、どのような提案だったのだろうか。

人々の暮らしに、深く根ざして

私たちは、まず、現地へ飛び、鉄道跡地を歩きながらチームで議論をしました。その中で、シンガポールは多民族国家であり、敷地周辺には多様なコミュニティが存在していること、そして豊かな自然があることを肌で実感しました。鉄道跡地は、毎朝の散歩道として、職場へ向かう道として、芸術家の発表の場として、すでに周辺の人々に愛されています。私たちは、レールコリドーを、ここに住む多様な人々の受け皿となるよう、きめ細やかにつくっていく必要があることを強く感じました。

視点を変えて見えてきたもの

まず、国土を東西に分断する要素であった鉄道を、コミュニティを結ぶ “ステッチ(縫い目)”として再生しようと考えました。
次に、鉄道跡地を線状に延びる軸と見るのではなく、周辺の一つ一つのコミュニティの “前庭”が横につながった空間と捉えることにしました。そうすることにより、文化や歴史的遺産や自然など、それぞれのコミュニティや場所がもっている文脈を、レールコリドーへ滲ませることができ、新しく生まれるパブリックスペースと周辺コミュニティがつながると考えたからです。
私たちの提案したマスタープランの本質は、国やデベロッパーや周辺の人々がレールコリドーをともに育てていくためのビジョンです。人々に利用可能な空間をただ提供するだけでなく、人々が一緒に創っていく当事者となることで、この場所がその一人一人にとって価値のあるパブリックスペースとなっていくのではないかと考えています。

パブリックスペースは、誰のもの?

日本では、パブリックスペースには“みんなの場所=誰のものでもない”というイメージがあります。しかし、理想的なパブリックスペースとは、個人の日常や感情を素直に出すことができ、利用者全員が、“自分のためにある場所”と感じることのできるスペースなのではないでしょうか。
そんな場所にレールコリドーが育つこと、そしていつか日本にも同じような考えのパブリックスペースができることが、私たちチームの願いです。

  • 田中 亙

    田中 亙

    常務執行役員
    海外事業部門統括
    海外企画開発グループ代表
    海外拠点マネジメントグループ代表

    1988年、東京大学修士課程を経て、日建設計に入社、専門は都市計画・都市デザイン。ハーバード大学よりランドスケープの修士号も取得している。「東京ミッドタウン」(2007)をはじめとして、建築、都市計画、都市デザイン、ランドスケープ設計の知識・経験を総合的に生かすことで、大規模プロジェクトの実現に貢献してきた。2010年以降は活躍の舞台を海外に移し、都市デザインや公共交通指向型都市開発(TOD)、パブリックスペースデザインの分野に力を入れている。日本建築家協会会員、日本都市計画学会会員。

  • 金香 昌治

    金香 昌治

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    部長

    ランドスケープアーキテクト/アーバンデザイナー。京都工芸繊維大学卒業、ワシントン大学大学院修了後、米国の設計事務所にてランドスケープ及び都市デザイン業務に従事。2012年に帰国し、日建設計入社。近年ではシンガポール・レールコリドー、柏の葉イノベーションキャンパス/アクアテラス、品川車両基地跡地開発など、国内外で都市×建築×造園×土木の領域を横断的に捉えた持続可能なアーバンデザイン、パブリックスペースの計画やランドスケープデザインを手掛ける。日本造園学会賞(作品部門)、土木学会デザイン賞などを受賞。日本ランドスケープアーキテクト連盟(JLAU)理事。立命館大学客員教授。

  • 鈴木 卓

    鈴木 卓

    都市・社会基盤部門都市デザイングループ
    部長

    ランドスケープアーキテクト。千葉大学園芸学部卒業、AAスクール大学院修了。2014年、英国、米国での10年間の設計事務所勤務を経て、日建設計に入社。海外での豊富な設計活動の経験をもとに、国内外にてその土地固有の風土、文化、歴史を丁寧に読み解くことを大切にし、パブリックスペースの設計から都市計画までスケールを横断して人々の暮らしを豊かにする環境づくりに取り組んでいる。主な仕事に、WUHAN AVIC PARK、ミュージアムタワー京橋(IFLA Asia-Pac Award of Excellence 受賞等)、シンガポール「レールコリドー国際設計コンペ」(マスタープラン最優秀賞受賞)など。
    京都芸術大学大学院 特任教授、千葉大学非常勤講師。英国登録ランドスケープアーキテクト(CMLI)。

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