新型コロナウィルスによりもたらされる新しい社会に向けて
~豊かな出会いや交流、新たなイノベーションを生み出す〝ルーズなデザイン″~

日建設計 代表取締役副社長 クライアント・リレーション&ソリューション部門統括
川島 克也
(役職は公開時のものです)

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 ヒトは原始の時代から、集まり、出会い、刺激しあうなど、ヒトの身体と五感を通じて信頼、共感、共鳴を交感し、さまざまなレベルのイノベーションを生み出してきました。
 ポストコロナ期、私たちはその意味を今一度深く問い直すべきではないでしょうか。
〝ルーズをデザインする″ という視点が、ひとつのヒントになりそうです。

日建設計 代表取締役副社長 クライアント・リレーション&ソリューション部門統括
川島 克也
(役職は公開時のものです)

Stay Home で感じたこと

 新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により、ここ数か月、私たちの生活スタイルは大変大きな制約を受けました。しかし、今までできないと思い込んできたことが一気に実現もしました。
 もともと “Society5.0” というコンセプトで国が推進しようとしていたテレワークやオンライン診療、遠隔授業など、人と人が直接対面することなくコミュニケートできる未来の生活スタイルをコロナ対策が加速しました。そして多くの人が “Stay Home” 自宅でほとんどの生活を完結させることになりました。
 ITの進化がこれを支え、これから飛躍的に人と人との距離は克服されていくでしょう。
 しかしながら、この進化した生活スタイルには何かとても大切なものが欠落しているように感じてなりません。

 原始の時代より、ヒトは ”集まる” ことによって進化してきました。ヒトは一人では存在しえず、なんらかの集団をつくって文明、文化を生み出してきたのです。集まり、出会い、刺激しあうなど、ヒトの身体と五感を通じて信頼、共感、共鳴を互いに交感し、さまざまなレベルのイノベーションを生み出してきたようです。
 そして今もその遺伝子を脈々と受け継いでいるのです。
 ヒトとAIの最も大きな違い、埋め切れないギャップも、こうした信頼・共感・共鳴という根幹的な感性の有無によるのではないでしょうか。
 これを忘れるわけにはいきません。

 これからは間違いなく、リモートワークや子連れ出勤など、その日、その時間によって自由に生活スタイルを選択できるようになるでしょう。今までのように、単純に同じ時間に同じ場所に集まって、決まった活動をするという生活とは決別です。選択の幅が画期的に広がります。
 目的に応じて自由に ”場“ を選択し、楽しむことのできる都市生活のフィールドとして、特有の個性や文化を持つ複数の “まち” がモザイク状に連鎖するという、“30分都市圏” も構想され始めています。

“ルーズをデザインする”

 一方、これからのオフィスや学校は、集まること、直接交わることによって、そこでしか経験できないことを実現する、ホンモノの価値を生み出す貴重な空間として生まれ変わっていくと思います。
 特別な目的がなくともそこへ行くことによって、何か豊かな共感や共鳴を得ることができる “場” の出現です。リモートワークやテレワークなどによって生み出される空間の “ゆとり” や “あそび“ がこれを可能にするでしょう。
 オフィスでありながらも、住宅のようでもあり、学校でもあり、レストランでもある、言い換えれば、そのどれにでも変容できる少し “ルーズ” な空間。私たちがおぼろげに夢想していた、こんな理想のワークプレイスや学校が出現しても決しておかしくないでしょう。
 これからは “ルーズをデザインする” 時代が来るのではないでしょうか。

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  • ©www.useproof.com

 ところで、人がどのように感じ、どう行動するかを中心に据えながらデザインしていくことを私たちはActivity デザインと呼んでいます。真に豊かな出会いや交流そしてイノベーションを生み出すためには、このようなデザイン手法の実現が極めて重要になると考え、現在さまざまな領域で取り組み始めています。
 

基軸となるコンセプトは、安全・安心・健康

 話題を少し変えますが、通常、都市や建築を計画する際には、何がしかの前提条件を設定します。そして、その範囲内であればきわめて効率的に機能するよう、さまざま計算づくでつくり上げていきます。
 しかし今回のコロナ禍では、前提条件が大いに覆ってしまいました。昨今よく耳にする、”想定外な自然災害” も同様な事象といえそうです。しかし、こうした事象を常に想定外と言って片づけるわけにはいきません。かといって、常に最大のリスクや条件を追求して組み立てるわけにもいかないのが現実です。
 計画そのものにおいて、唯一解だけを限りなく追求するのではない “ルーズ”な計画。言い換えればある種の “弾力性“ や ”あそび“ を持たせることはできないものでしょうか。
 都市や建築に、ノーマルモードからエマージェンシーモードまで、さらにその間に何段階かの中間的なモードを設定して、その状況に応じて安全・安心・健康を基軸とした運用の可変性を持たせることはできないでしょうか。
 人の密度感や自然との親和感などを緩やかに制御して、安心して生活することはできないでしょうか。多様に複合した機能を備えたうえで、進化したセンシングによって状況に応じたモード切替えを行なう、そんな “ルーズ”な計画 もこれからの都市、建築、空間づくりに求められると思います。

自然と人間の共生を

 そもそも私たち人類の歴史は、ウイルスとの闘いであるとも言われています。遡れば、人類が原野を開墾して農業を始めるといった文明の進化が、結果として自然界を大きく攪乱してウイルスを呼び、グローバル化が加速度的な感染拡大をもたらしてきたということのようです。
 今回のコロナ禍は、自然と人類の関わりの歴史という視点からみれば、決して突発的な事象ではなく連続したものとして捉えなければなりません。コロナウイルスとの戦いはまだまだ続きます。
 しかし、ここで大きく進化するチャンスでもあります。
 ウイルスなども含めた自然総体を完全に克服しようとするのではなく、ある時は受け入れ、ある時は受け流し、ある時は遮断する。優しい自然とも厳しい自然とも共に生きていく柔軟な姿勢を表出する “ルーズなデザイン”。これらこそがこれからのサスティナビリティの基本になるのではないでしょうか。

※「Beyond Covid-19 社会・都市・建築」は連載です。今後は、建築家、プランナー、エンジニア、コンサルタント等が各専門の立場でビジョンを定期的に発信していきます。

  • 川島 克也

    川島 克也

    相談役

    1981年、京都大学修士課程を経て、日建設計入社。専門は建築意匠設計。1997年よりチーフアーキテクトとして、様々なプロジェクトをリードしてきており、日本建築学会作品選奨をはじめとする多くの賞を受賞している。これまで、滋賀県立琵琶湖博物館(1996)、神戸税関本関(1999)、奄美病院(2003年)、武庫川女子大学建築学科建築スタジオ(2007)、出雲市役所(2009)、中之島ダイビル(2009)、グランフロント大阪(2013)、ダイビル本館(2013)、あかがねミュージアム(2015)、ダイヤゲート池袋(2019)などを担当。現在も、京都市役所など多くのプロジェクトに携わっている。一級建築士、日本建築学会会員。

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