新型コロナウイルスによりもたらされる新しい社会に向けて
~ネットワークハブとしての駅まち一体開発~

日建設計 執行役員 都市部門都市開発グループ プリンシパル
奥森 清喜
(役職は公開時のものです)

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 新型コロナウィルス禍においては、世界各都市で大幅な移動制限が行われました。
 移動制限を伴った生活はリモートワークといった新たな価値の発見とともに、これまでの都市や移動の在り方への問いが生まれたことも事実だと感じています。そこでここでは、これからの都市や移動の将来像について考えていきたいと思います。

日建設計 執行役員 都市部門都市開発グループ プリンシパル 奥森清喜 日建設計 執行役員 都市部門都市開発グループ プリンシパル
奥森 清喜
(役職は公開時のものです)

集中型から分散型の移動へ

 働く場所の選択肢は大きく増え、住宅から都心のオフィスへの一方向の移動だけでなく、複数のワークプレイスや交流の場を、その日の目的に応じて選択するライフスタイルへ移行していくと考えられます。ある日は在宅、自宅近くのワークプレイス、都心のオフィス、打ち合わせ後にはその近くのワークプレイスといったように、移動はこれまでの集中型から分散型へ移行していくでしょう。
 東京をはじめ、ロンドン、ニューヨーク、パリ、上海など、世界の大都市には地下鉄ネットワークが張り巡らされています。東京を例に挙げると、東京メトロだけでも9路線、約195㎞にも上ります。地下鉄駅は世界の都市に網の目のように張り巡らされており、コロナウィルス後の都市の分散型社会を支えるインフラとしては最適であると考えます。これからの都市、移動を考えるうえで、世界の都市に張り巡らされている地下鉄駅のネットワークを、新しい生活スタイルにどのように適合させていくかが重要になります。

集中型と分散型の模式図 集中型と分散型の模式図

駅周辺のウォーカブルな空間のネットワークハブとしての役割

 東京メトロは、改札口を出て乗り換える必要がある場合の乗り換え制限時間を30分から60分に延長するとともに、地下でつながっていない銀座と銀座一丁目駅の間を乗り換えが可能な駅としました。これからは、乗り換えの間に街歩きを楽しむということも生まれるかもしれません。世界の都市の都心部には、このような歩ける距離に複数の駅がある場所が数多くあります。一つ一つの駅がまちと一体化した駅まち空間を作ることは、これまでも取り組まれてきましたが、複数の駅間を結ぶ歩行者空間を拡充することにより、ウォーカブルで多様な都市活動が育まれるネットワークハブとしての駅まち一体空間が生まれます。駅から、バス、シェアカー、シェアサイクルなどパーソナルな交通手段に接続していくことで、多様なアクティビティ、場所にスムーズにアクセスすることができるようになります。駅まち一体のエリアには、広場や商業施設、ワークプレイス、エンターテイメントなどの多様な機能が連なる空間となることが期待されます。そのためには、街路空間を車道から歩行者や他のモビリティの空間へと転換していくことも必要です。新たに生まれた空間はエリアマネージメントによって、地域にとっての貴重な賑わい空間として活用することができます。街路空間を含めてエリア全体が賑わいを生み出す空間となることで、今後価値が高まると思われるリアルなコミュニケーションを支えるインフラとなります。
 これらのウォーカブルなエリア戦略は、鉄道事業者だけでは実現できないため、自治体、周辺事業者と連携したエリアのビジョンづくりが重要になります。

ネットワークハブとしての駅まち一体空間 ネットワークハブとしての駅まち一体空間

多様な交通モード選択への積極的な対応

MaaSの概念図

 MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は、すでに世界的な取組みですが、新型コロナウィルス後の社会では、この取組みはより加速すると考えられます。何故なら、分散型の移動への移行に伴い、ネットワークインフラである地下鉄駅と他の交通モードの連携がより重要になるからです。自宅からオフィスへといった一方向からの移動から解放され、その日の目的にあった最適な移動手段と場所の選択が可能になるでしょう。ワークプレイスの分散化により移動行為が多様化することに加え、ICT(=MaaS)の活用によって、ピークオフや混雑度に対応したクラウドコントロールが可能となり、輸送力のスマートな利用が実現すると考えます。TIMEとPLACEの選択をMaaSによりスマート化する都市モデルが実現されることで、パンデミックにも強い都市となることが期待できます。

光と風が感じられる駅まち一体空間へ

  今後、移動に関しての快適性や安全性の確保がより求められることは間違いないでしょう。モスクワのメトロで既に導入されている自動消毒器や、オフィスエントランスでよく見かけるようになった体温測定器などの機器による安全対策を視野に入れ、これらのような安全対策スペースを駅空間で確保することが求められると考えます。
 より積極的な対応としては、より開放性の高い駅空間づくりが重要になります。自然の光が豊かにあふれる、自然の風の流れが感じられる駅が増えていくことで、移動における快適性が高まるだけでなく、安全性の確保にもつながります。
 出入口のわかりやすさや、地上とつながる空間の拡充も必要になりますが、これらの取組みは、新型コロナウィルス対策にとってだけでなく、災害時のBCP対策にとっても重要な取組みです。

自然光と自然の風が感じられる駅まち一体空間のイメージ 自然光と自然の風が感じられる駅まち一体空間のイメージ

 都市におけるリアルなコミュニケーションの価値は、変わらず高いものになると考えます。ネットワークハブとしての駅まち一体開発が、これらのコミュニケーションを支えるインフラとなることで、これまで以上に多様な選択が可能になるとともに、快適性と安全性の両立を高める取組みが広がっていくことでしょう。(2020年7月10日)
トップ画像: 地下鉄京橋駅・東京スクエアガーデン:©フォワードストローク
※「Beyond Covid-19 社会・都市・建築」は連載です。今後は、建築家、プランナー、エンジニア、コンサルタント等が各専門の立場でビジョンを定期的に発信していきます。

  • 奥森 清喜

    奥森 清喜

    取締役 常務執行役員
    都市・社会基盤部門統括

    1992年、東京工業大学大学院総合理工学研究科を修了後、日建設計に入社。以来、国内外の都市マスタープラン、都市開発プロジェクトを数多く経験している。最近では、東京駅(東京駅八重洲口開発 グランルーフ)、渋谷駅、新宿駅、品川駅などに代表される駅まち一体型開発(Transit Oriented Development : TOD)に携わり、中国など多くの海外TODプロジェクトを経験している。都市計画、交通計画、基盤施設計画、建築計画にわたる幅広い知識と経験を有しており、TODを初めとした広範囲にわたる複合的なプロジェクトに対して、適切なソリューションを提供している。日本土木学会デザイン賞、日本不動産学会著作賞他。一級建築士、技術士(都市及び地方計画)、日本建築学会会員、日本建築家協会会員。

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