学生の居場所を生み出すランドスケープデザイン
城西大学坂戸キャンパス整備

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少子化やさまざまな社会変化に伴い、大学には、学びの場であることはもちろん、学生が日々過ごす生活の場として、いかに魅力的な環境をつくるかが問われています。城西大学では、坂戸キャンパスの緑豊かな立地や自然環境を生かし、都心部の大学にはない新たな価値を発信しようとしています。利便性や機能性、環境性能はもちろん、ランドスケープデザインを通していかに「学生が心地よく過ごせるか」を徹底的に追求したプロジェクトです。

大学キャンパスの魅力を高めたい

城西大学は1965年に設立された私立の総合大学で、建学の精神に「学問による人間形成」を掲げ、実社会につながる教育に力を入れています。約12ヘクタールの坂戸キャンパス(埼玉県坂戸市)には約7,000人の学生が学んでいます。都心から1〜2時間かけて通学し、キャンパスで1日の大半を過ごす学生も少なくありません。

一方、周辺には高麗丘陵や高麗川から続く豊かな自然環境が広がっており、その魅力を学生の活動の場として、さらに生かしていくことが期待されていました。少子化に伴う18歳人口の減少や、学生の価値観・学び方の変化を背景に、キャンパスの魅力を高める整備が求められていました。

学生にとって「居心地のいい場所」とは

そこで日建設計はキャンパス整備のテーマのひとつに「レジデンシャル・キャンパス」を掲げ、新たな複合棟のプロジェクトをきっかけにキャンパス全体の再編に取り組みました。これまでのように軸線上に建物や人の流れ(動線)が秩序づけられていた線的な構成ではなく、学生の活動領域を面としてとらえ、それぞれの領域が重なり合いながらつながる構成へと転換。人の流れと活動が自然に交差する、交流や滞在が生まれやすいキャンパスネットワークをつくりました。また、建築とランドスケープを一体的に計画することで、学生が屋内外をシームレスに利用できるキャンパス環境を目指しました。

軸線に沿った構成から、学生の活動領域(面)が重なる構成へ

歩行者と車両の動線を分離し、文系学部と理系学部の学生の動線が交わるように整理

ランドスケープチームリーダーの倉本明典は、「建築意匠チームとも密に連携し、屋内外の境界をできるだけ感じさせない中間領域を庇や回廊、樹木の天蓋空間などを組み合わせながら創出することで、どこにいても居心地のいい空間を見つけられるようなキャンパスをテーマにしました」と説明します。それを実現するために重視したのは、動線と滞留のバランスです。大学は授業の前後や昼休みなど、1日のなかで人の往来が集中する時間帯が何度も訪れる特徴があります。大勢が往来する動線上にベンチを置いても、落ち着いて過ごせる場所にはなりません。そこで主要な動線とゆるやかにつながりながらも、少しだけ距離を感じられるよう、既存樹木や地形の高低差を生かしたステップ状のデッキを滞留空間として設えたり、異なる舗装材の切り替えやベンチの配置によって、心地よいパーソナルスペースを感じられる空間をつくりました。また木陰をつくる植栽や保水性・透水性を備えた舗装によってクールスポットを生み出し、夏場でも学生が立ち寄りたくなるような屋外空間を整えました。室内で家具の足元にラグを敷くように、屋外空間にも、素材やレベル差、植栽を丁寧に組み合わせることで、「ここは過ごす場所だ」と自然に感じられる居場所をいくつもつくりました。

学生の新たな交流拠点「JOSAI HUB」。教室に加え、誰もが自由に利用できるラウンジ空間を設けることで、文系・理系の学生が自然に集い、交流できる居場所になった。
©㈱エスエス

キャンパス全体をひとつのランドスケープとして編集する

全体計画では、キャンパス全体のランドスケープを特徴づける「3つのフォレスト」を計画しました。正門近くでは、既存のケヤキを生かしたシンボリックな緑陰空間「キャンパスゲートフォレスト」が学生を迎え、キャンパスの顔となる景観を形成しました。その先には、旧校舎3棟を集約して整備した新しい交流拠点「JOSAI HUB(複合棟)」と、それを既存施設へとゆるやかにつなぐ回廊「JOSAI RING」を配置し、学生の活動領域をキャンパス全体へと広げる骨格としました。

全体計画平面図。ふたつの新施設「JOSAI HUB」「JOSAI RING」を起点に学生の活動領域が広がっていくイメージを描く

倉本は「正門からキャンパスを一望したときに、みどりが途切れることなく連続して見える風景を意識しました」と話します。建築の高い透過性を生かしながら、建物の内外を問わず、視線の先にみどりが連続するよう、「キャンパスゲートフォレスト」「インナーフォレスト」「センターフォレスト」の3つのフォレストを視覚的にもつなげています。それは正門からの眺めだけではなく、建築内外のどこにいても視線の先にみどりと人の居場所が連続するキャンパス風景へとつながっています。

既存のケヤキの大径木を中心としたキャンパスゲートフォレストではいきいきとした学生の姿とみどりが「キャンパスの顔」となる
©㈱エスエス

インナーフォレスト。にぎわいとみどりが内外を越えて連続する
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「JOSAI HUB」の内部には、建築と一体となった中庭空間「インナーフォレスト」を設けています。一方、「JOSAI RING」の内側には、既存樹木とテラスを組み合わせた「センターフォレスト」を配置し、もともとの地形の高低差を生かしたアンジュレーション(微地形)によって、自然に腰掛けたり滞在したりできる居場所を生み出しました。「インナーフォレスト」と「センターフォレスト」は、建築の内外に呼応するふたつのフォレストとして計画しています。いずれも薬学部や薬用植物園とのつながりを意識し、足元には薬効をもつ和ハーブを主体とした植栽を採用することで、「ウェルネス」という大学の特色をランドスケープへと展開しました。季節ごとに表情を変える植栽に囲まれながら、学生が散策し、学び、思い思いの時間を過ごせる環境を整えています。

雨水の大地への涵養を促すセンターフォレスト。既存樹を守るため樹木周辺の地盤を維持しながら、周囲にアンジュレーションを形成。3Dや模型で起伏やレベル差を検討し、自然な滞在を促す空間を実現
©㈱エスエス

こうした計画の根底にあるのが、その土地に潜む固有の特性を引き出し、「人と自然の関係性を結び直す」という考え方です。キャンパスには以前から地域由来の豊かな自然がありました。しかし、そのみどりは学生にとって“背景”に留まり、人との関わりは決して深いものではありませんでした。倉本らは、キャンパスがもつ自然環境という資産を、人が日常のなかで身体的に感じられる環境へと生かしました。既存樹木や地形、その土地由来の素材を生かしながら、人の居場所とみどりを重ね合わせ、キャンパス全体に心地よい半屋外の居場所を点在させています。目指したのは、「学生がいることで風景が完成するキャンパス」です。歩き、座り、語らい、それぞれの時間を過ごす学生の姿そのものが、新しいキャンパスランドスケープを形づくっています

回廊と庇。日射や雨を適度に調整する半屋外空間、屋内外の活動をゆるやかにつなぐ中間領域として機能
©㈱エスエス

移動する空間から生活の場へ

工事は第一期の「JOSAI HUB」と第二期の「JOSAI RING」に分かれ、足かけ5年にわたりました。2025年春の竣工後、学生が屋外で昼食を取ったり、読書をしたり、友人と語らったりする姿が日常的に見られるようになりました。建物の間を移動するための空間だったキャンパスは、今では学生が思い思いの時間を過ごす生活の場へと変化しています。

倉本らランドスケープチームが目指したのは、ランドスケープそのものを主役にすることではなく、学生一人ひとりの日常が風景をつくるキャンパスです。学生の営みによって風景が完成する——。そんなランドスケープの考え方が、城西大学坂戸キャンパスの新しい日常のなかに息づいています。

既存のみどりを活かした天然のキャノピーによって、緑陰に包まれた心地よい居場所を創出
©㈱エスエス

段床空間に回廊が交差することで学⽣がさまざまに関わることのできる活動の舞台が拡がる
©㈱エスエス

キャンパス全体に、角を丸めた四角形を共通のデザインコードとして採用。舗装や植栽、ベンチ、テラスなどに同じモチーフを展開し、ゆるやかなつながりを生み出す
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