多様性に富む渋谷というフィールドが、グループの可能性を広げていく。【後編】

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2019年11月1日、渋谷の新たなランドマークとして「渋谷スクランブルスクエア」が開業し、大きな節目を迎えた渋谷再開発。そこで、これまでさまざまなフェーズで同プロジェクトに関わってきた日建グループ各社のメンバーによる座談会を行った。集まったのは、元北海道日建設計で現在は渋谷区に所属する林匡宏さん、日建設計から奥森清喜、都市政策立案を担う日建設計総合研究所から渡部裕樹、インテリアデザインを手がける日建スペースデザインから片山賢、集合住宅を専門とする日建ハウジングシステムから横手和宏、土木部門を担う日建設計シビルからは正垣隆祥、日建設計コンストラクション・マネジメントからは上ノ町圭一。7名がそれぞれの業務・立場から語る渋谷の街、そして日建グループの姿とは。ファシリテーターは、日建設計プロジェクト開発部門の姜忍耐。

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「人」と「場」のポテンシャルを生かし、街に奥行きを生み出す

:渡部さんは渋谷区まちづくりマスタープランを通じて、渋谷区全体を見てきましたよね。これまでの仕事で印象に残っていることはなんですか?

渡部:やはり渋谷区の次世代型まちづくりを推進する組織「一般社団法人 渋谷未来デザイン」の設立でしょうか。新しい組織をつくるにあたって、どういう人材を集めるのか、そのリストをつくったり、資金を集めるための企業をリストアップしたり。そのあとは、具体的にどういう事業をやっていくのかを2年間かけて検討していきました。つまり、体制と事業とお金を整えていったんです。

奥森:渋谷未来デザインには、日建設計も参画していますね。

渡部:はい。渋谷未来デザインの設立にあたって意識したのは、渋谷に住む人、働く人、遊びに来る人、いろんな人がいる中で、彼らの力をどう引き出すかということ。渋谷に関わる人を巻き込んで新しいプロジェクトを進めていく、その役割を渋谷未来デザインが担っていこうということで、まさに今動き出しています。

:まちづくりマスタープランについてはどうでしたか?

渡部:マスタープランって、建築のずっと手前の話で、都市計画のベースになるまちづくりの大きなビジョンをつくりますよね。実際に渋谷で暮らす人たちのアイデアも入れたくて、ワークショップを重ねて提案を絵にしていったんですが、やっぱりクリエイティビティがすごく高くて。そういう人たちがいること自体が、渋谷という街の面白さだなと感じましたね。もうひとつ重要なのは、マスタープランは渋谷区全体が対象だということ。どうしても駅周辺が着目されがちですが、「渋谷区」としては代官山も原宿も代々木もある。

『渋谷区まちづくりマスタープラン』の表紙(左)と、中面に掲載された「渋谷民が描く未来像」(右)

奥森:新宿に近い笹塚とか幡ヶ谷、初台も渋谷区ですからね。

渡部:なんていうか、渋谷区はエリアのタレント性がすごくあって、人と場所のクリエイティビティは日本一。そんな渋谷で林さんがこれから仕事をするということで……。

:うまく話をつなげていただきましたね(笑)。

:無茶振りは、やめてください(笑)。とりあえず今日は、最初にお話したバオバブの木をイメージした絵を持ってきました。

:すごくエネルギーを感じます。

片山:エネルギーは感じるけど、何を描いているのかわからない(笑)。

正垣:よくこれを載せましたね(笑)。

:まだ入社したての頃で……やばいですよね。

渡部:でも、今は立場が変わって。

:はい。僕が渋谷区で何をやっているかというと、ビジョンやイメージの共有なんです。絵とパワーポイントをつくってみんなに共有して、どう進めるか、誰に相談するかを決めます。今、渋谷駅周辺はどんどんブランディングされていますが、周りの公園や川はまだまだ。河川法も道路法も公園法も改正されて、民間企業が事業をできる状況なのに踏み出せていない。僕は北海道日建設計でまさにそういうチャレンジをしていたので、今度は渋谷で、という流れですね。

渡部:パブリックスペースの話はマスタープランの中にも入っています。

:先ほど片山さんからオフィスの話がありましたが、今は駅から離れたところにもシェアオフィスやコーワーキングスペースができていて、外国人が普通に仕事をしているんですね。聞いてみると「駅から離れた静かなところで、緑を感じながら世界とつながるのがかっこいい」という感じらしいんですよ。 街の中心があって、周りにはまた違った面白さがあって、それが全体でブランディングされることで奥行きが生まれ、渋谷が次のステージに進んでいくのかなと。渡部さんは外から広い視野で街を見ていますが、僕はその中に入って、行政と企業と地域の人をつなぐコーディネーションができればいいなと思っています。

渡部:渋谷は、エンターテインメント、クリエイティブ、ビジネス、文化が盛り上がっていく場所なんですが、それは主に駅周辺の話。渋谷区全体で見ると、林さんが言ったように公園や川があって、住宅地もあって、すごく多様。その中で、どうやってパブリックスペースを豊かにしていくか、その方法も駅周辺とそれ以外のエリアではまったく違いますよね。

街の中心から周辺へ、組織の内側から外側へ

:駅から始まって、だんだん外側がフォーカスされていっているんですね。奥森さんはそういう流れを長年見てきたわけですが、いかがですか?

奥森:話を聞いていてあらためて感じたのは、日建グループが渋谷で行っている仕事はインフラから建物の中身、コーディネーションまで、バリエーションや広がりがあるということ。そして、それを展開する場としての渋谷の面白さ。片山さんが渋谷を白いキャンバスに見立てていましたが、そういう発想って、他の街ではなかなか出てこない。この街にはすごく多様性があるので、それぞれのアイデアを具現化できるフィールドになったんだと思うし、寛容だからこそ幅広い提案ができた。もちろん、実際にやるとなったら大変なことはたくさんあったでしょうけれど。

上ノ町:見失いそうになったこともありましたが、そういう土壌があったからこそ、最終的にいい答えが出せたのかもしれません。事業者ごとのブランドにあわせるというやり方もありますが、それとは違った面白さがあったと思います。私は前向きなので(笑)。

奥森:谷底という地形もやりづらさがあったでしょうし。でも、そこを前向きに捉えると面白くなる。

上ノ町:そうなんです。地形的なものもありますし、パルコができて、109ができて、そこから回遊性が生まれて人が集まったという、自然発生的な連鎖でできたというのも渋谷という街の魅力。さらに、さまざまな関係者がいる中で、コンストラクション・マネジメントという中立的な立場で調整していくのが、我々がいる意義なのかなと感じています。

奥森:いいことを言いますね(笑)。

上ノ町:私たちは、ふだん日建設計シビルと関わることがあまり多くないのですが、建築と土木の文化も違いはありつつも、今回はそこが一体にならないと解けないところがあったので、グループの総合力も感じました。

正垣:地下、地上、建物と、トータルで見ないとうまくいかないんですよね。あとは、工事中の渋谷の姿を一般の方に楽しく見てもらうという目標もありましたが、それも建築や土木だけでは実現できないことでした。

奥森:以前、渋谷ヒカリエの連絡通路に、工事中の状況を見せるビジョンを置いていたんですよね。渋谷というフィールドで、みんなが重なり合ってやっていくのは、とても面白いですよね。

横手:私たち日建ハウジングシステムにとっても、すごくいい経験になりました。そもそも渋谷のような、都心にある大きな駅近くで行われる再開発では、マンションが入ることってそんなにないんじゃないでしょうか。

奥森:まわりに上質な住宅街があるターミナル駅って、あまりないんですよね。渋谷には、南平台や松涛という住宅街があるからこそ、桜丘にも住宅を入れることができたのかもしれない。ただの偶然ではないんでしょうね。

横手:たしかにそうですね。こうやって話していると、いろいろなことを再認識できますね。

:最後に、これから日建グループとして挑戦していきたいことがあれば教えてください。

渡部:私が渋谷未来デザインの立ち上げでやっていたのは「組織のデザイン」で、建築でも都市でもないものにチャレンジできたという実感があります。北谷公園のマネジメントを日建設計が担うというようなことも含めて、渋谷は私たちのデザインの幅を広げてくれるフィールド。渋谷未来デザインの参画企業も、まず渋谷で試して、それを世界に発信しようとしています。なんといっても日本で一番発信力がある街ですから。

奥森:日建グループとしても、この再開発プロジェクトを発信していこうとしていますよね。さらに渋谷の周りでもたくさんのプロジェクトが動き出していて、新しいことにチャレンジしやすい環境になっている。そういう意味では、個々の挑戦はもちろんあるだろうし、コラボレーションすることもあるだろうし、もっといえばグループの内側だけではなく、外部との取り組みも増えていくんじゃないかな。

横手:我々設計の会社としては、建築という形を通して、渋谷にとってコラボレーションの入口・基盤・場所を提供できているのかなと思いたい。

:渋谷区もパートナーシップをすごく意識していると思います。多様性を重視して、縦割りではなく横断型で取り組み始めているからこそ、次の渋谷を描きやすい。

片山:渋谷スクランブルスクエアのオフィスにも、IT企業を中心に多様な企業が入っています。15階には共創施設のSHIBUYA QWS(キューズ)もあって、いよいよ本格的に渋谷から新しい何かが生まれる気配を感じますね。最後に、私たち自身のことをいえば、たとえば日建スペースデザインがインテリアだけじゃなく、公園のデザインをやったっていいんじゃないか、と。

奥森:お互いの境目を曖昧にしながら外部と交じり合うことで、より組織は強くなるし、より良いものができる。これからさらに、渋谷というフィールドで組織間の境目を埋めていくような議論ができるといいですね。

元北海道日建設計 林匡宏

元北海道日建設計 林匡宏
渋谷区公園等整備アドバイザー、博士(デザイン学)

2008年、筑波大学大学院芸術研究科を修了後、北海道日建設計に入社。2018年8月に独立し、まちづくりコーディネーターとして各地で街のビジョニングや事業化支援、エリアマネジメントの仕組みづくりを手掛ける。商店街振興の一環として北海道江別市でゲストハウスを経営。Commons fun代表、loki 代表、 ESCS代表理事、ミズベリング江別代表、JMLプロジェクトマネージャー。

日建設計 奥森清喜
日建設計 執行役員
都市部門 都市開発グループ プリンシパル

1992年、東京工業大学大学院総合理工学研究科を修了後、日建設計に入社。専門は都市プランナー。東京駅、渋谷駅に代表される駅まち一体型開発(Transit Oriented Development : TOD)に携わり、中国、ロシアなど多くの海外TODプロジェクトにも参画。主な受賞に、土木学会デザイン賞、鉄道建築協会賞、日本不動産学会著作賞など。

日建設計総合研究所 渡部裕樹

日建設計総合研究所 渡部裕樹
日建設計総合研究所 都市部門 主任研究員

2005年、東京工業大学社会工学専攻を修了後、日建設計に入社。2012年に日建設計総合研究所に転籍し、国や地方自治体の政策立案支援等に従事。渋谷では、「一般社団法人渋谷未来デザイン』の設立や「渋谷区まちづくりマスタープラン』の改定を支援。

日建スペースデザイン 片山賢

日建スペースデザイン 片山賢
日建スペースデザイン チーフディレクター

1989年、京都工芸繊維大学を卒業後、日建設計入社。1996年より日建スペースデザインに移籍し、現在は同社ホスピタリティ部門のチーフディフレクター。内装から商品開発まで広く手掛けてきたが、近年はほぼホテル案件に携わっており、現在もアフターオリンピックに向けての新規ホテルを多数担っている。本件ではオフィス共用部のインテリアデザインを担当。

日建ハウジングシステム 横手和宏
日建ハウジングシステム CR企画部次長
設計監理部 アソシエイト アーキテクト

2007年、工学院大学大学院を修了後、日建ハウジングシステムに入社。専門は建築意匠設計。入社以来、中低層高級分譲住宅のほか、シニア住宅、海外プロジェクト、再開発プロジェクトなど幅広いジャンルの設計を担当。現在は大規模住宅再開発プロジェクトにおいて、シニア住宅+シェアハウス+賃貸住宅の複合用途の設計を担当。2018年グッドデザイン賞受賞(ザ・パークハウス新宿御苑)。 

https://www.nikken-hs.co.jp/ja/people/post/kazuhiro-yokote

日建設計シビル 正垣隆祥

日建設計シビル 正垣隆祥
日建設計シビル

1982年、日建土木工務所に入所、2001年、日建設計シビル設立と同時に転籍。再開発事業や駅周辺開発に係る基盤計画、駅前広場計画など都市部における基盤計画に従事。2011年から2015年まで桜丘口地区の道路計画・交差点処理計画、警視庁協議に従事。

日建設計コンストラクション・マネジメント 上ノ町圭一

日建設計コンストラクション・マネジメント 上ノ町圭一
日建設計コンストラクション・マネジメント

2003年、明治大学理工学部建築学科を卒業後、清水建設に入社し約10年間にわたり東京や海外で施工管理に従事。2013年、日建設計コンストラクション・マネジメントに入社。渋谷駅周辺事業ではCM会議(渋谷駅中心地区工事・工程協議会)からオフィス内装監理まで幅広い範囲でさまざまなマネジメント業務に関わる。

日建設計都市部門 姜忍耐
日建設計 都市開発部門 都市開発部
パブリックアセットラボ

2010年、九州大学大学院人間環境学府都市共生デザイン専攻を修了後、日建設計に入社。入社後3年間、渋谷の駅周辺開発の都市計画担当。その後、東京都内だけでなく、地方都市や中国をフィールドとした開発プロジェクト、都市計画・まちづくりコンサルティングなどに幅広く従事しながら、最近では、公共空間の利活用に向けたスキーム・仕組みづくりにも携わっている。

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