未来への知られざる提案——日建設計のプロフェッショナル・サービス
第2回 ファサードエンジニアリングによる新たな社会的価値創造(前篇)  

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最先端のデジタル技術を駆使して、より高い解像度で新しい建築のあり方を提案する——。そうした時代のニーズを受けて日建設計は2022年、豊富な設計経験と高い専門性を活かし技術提案や設計支援を行う技術者集団Digital Engineering Lab(DEL)を発足しました。

DELでは、現代の建築設計・都市計画に求められる新規領域・領域横断の設計技術について、5つの専門チームが技術提案や設計支援を行っている

そのDELが行うサービスの1つが高度な解析技術を基にした建築のファサードデザインです。ファサードは、外部と内部の環境をコントロールする装置でもあり、そのつくり方によって温度や照度、そして眺望など内部空間の環境が変化します。さらにファサードの形状は、景観や周辺環境に大きな影響を与えます。環境負荷を抑え、デザイン性の高いファサードをつくるため、DELは意匠や構造、設備、環境、施工などの領域を横断した創意工夫を積み重ねています。
DELで、ファサードエンジニアリングや環境コンピュテーショナルシミュレーションを率いる舘 景士郎(設計技術部門テックデザイングループダイレクター)に、日建設計のファサードデザインの独創性と、それがもたらす社会的価値について話を聞きました。 

空と緑の眺望を最適化し、場所の最大価値を生む——天空・緑視率という新発想

🄫Akira Ito [aifoto]

大阪の中心部に2024年に竣工した「御堂筋ダイビル」では、高い環境性能はもちろんのこと、利用者にとっての付加価値が求められました。そこで日建設計が提案したのが、豊かな眺望が得られる敷地条件を生かした外皮のあり方でした。南側に緑豊かな難波神社、東側に美しい銀杏並木の御堂筋を臨む場所で、日射の負荷を抑えながら最高の眺望を得るための方策とは——?

DELのファサードエンジニアリング・チームはここで、「天空・緑視率」という新しい手法を開発しました。この聞き慣れない「天空・緑視率」とは、人間の視野に入る「空」と「緑」の面積比率を数値化したものです。建築設計では一般的な天空率という考え方を、DELが応用し発展させました。解析に使うのはライノセラス、グラスホッパーという汎用ソフトですが、DELの独自のプログラミングによって場所固有の「眺望」を定量化することができます。

このオリジナル技術を使って「御堂筋ダイビル」では、以下のようにファサードデザインを展開していきました。

空と緑の面積を数値化して示す「天空・緑視率」 右下:🄫Akira Ito [aifoto]

同じ建物内でも方角や高さによって眺望は異なります。そこで、まずはビル内のあらゆる場所から見える空と緑の割合を数値化し、「ビューポテンシャル」として壁面にマッピングします。

空と緑の面積を数値化し、各窓面の「ビューポテンシャル」を色分けして示す「天空・緑視率」

通常、眺望を得るためには日射を遮りきれないというジレンマがファサードデザインには伴います。熱負荷を少なくするためには窓が少ない方がよく、眺望のためにはガラス面を大きくする方が有利だからです。
そこで「ビューポテンシャル」を基準に、日射遮蔽のためのルーバー(フィン)の深さや角度についてコンピュータ・シミュレーションを使って検討しました。その結果、もともと眺望があまり良くない(ビューポテンシャルが低い)場所ではルーバーの数を増やし奥行きを深くし、環境負荷を抑えました。一方、ビューポテンシャルの高い場所ではルーバーを少なく奥行きを浅くし、眺めのよい室内空間としました。

ビューポテンシャルと日射遮蔽のフィン(ルーバ−)を掛け合わせ、環境性能と眺望という矛盾したニーズを外装に反映するデザイン手法

DELは、この複雑なシミュレーションを何度も繰り返し、設計者と共にファサードを吟味。それでも「最適解はコンピュータだけでは得られない」というのが舘の見解です。
そのため、さらにCGで外部からの見え方や内部からの眺望を確認。最終的には、デザイン的な観点に加え、建築資材を少なくしてコスト調整するなど、総合的な観点から案を絞り込んで行きました。

水平のフィンと傾斜したフィンを織り交ぜて、方位や高さによって適正配置し、建物全体で目標とする環境性能を確保 🄫Akira Ito [aifoto]

天空・緑視率に基づく検討の結果、近代建築のような均質空間ではなく、それぞれの場所の快適さを最大化し、多様性のあるファサードとオフィスの執務空間が完成しました。

この天空・緑視率は、都市のパブリック・スペースにも応用できるツールです。空や緑の見え方を評価することで、より快適な場づくりに寄与できます。御堂筋ダイビルでも、御堂筋に面する下層階の眺望の評価に天空・緑視率を活用。気持ちよく感じられる緑の多いテラスをつくりました。

天空・緑視率をもとに、歩行者やテラスからのビューを可視化。天空率の低い低層部の緑視率を高めて、都市空間の価値向上にもつなげた 🄫Akira Ito [aifoto]

  • 舘 景士郎

    舘 景士郎

    設計技術部門 テックデザイングループ
    ダイレクター

    東京大学大学院 前研究室を修了後、2009年日建設計に入社。
    専門は環境エンジニアリング。入社から2016年まで設備設計部門に在籍し、京橋エドグラン(2016)、東亜道路工業本社(2015)など、オフィスビルを中心に機械設備設計を担当。
    2017年よりファサードエンジニアリング部にて、国内外の建物やパブリックスペースのファサードの環境エンジニアリングを行っている。

    デジタルツールを活用し、地域や敷地ごとの気候・環境を丁寧に読み解き、見る人にも使う人にも心地よく魅力ある空間を形作るファサードの提案を心がけている。

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