渋谷スクランブルスクエアから考える“街を面白くする”再開発【後編】

Scroll Down

2019年11月、渋谷の新たなランドマークとして開業を迎えた、渋谷スクランブルスクエア。渋谷エリアでもっとも高い大規模複合施設のデザインは、関係者のディスカッションから方向性を導くプロセス型で行われた。隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈事務所)にて渋谷スクランブルスクエアの設計チーフを務めていた建築家の藤原徹平さん、SANAAのパートナーの山本力矢さん、日建設計の勝矢武之が、他の都市に類を見ないそのプロセスについて、さらに中央棟、西棟へと続いていくプロジェクトの今後や、未来の渋谷についても語り合った。ファシリーテーターは、日建設計都市開発部の金行美佳。(座談会実施:2019年9月)

TAG

プロセス型で共有しながら進行するプロジェクト

藤原:全体竣工まであと約8年、ちょうど折り返し地点なんですね。僕はあとはもう、妹島さんの大屋根の立体広場を楽しみに待っていればいいだけなので、気楽な立場で(笑)。

金行:そうですね。ということは、完成する頃には、実は20年前のデザインをどういうふうに実現したかということになりますよね。東棟が竣工して、中央棟や西棟を検討していくうえでのキーワードは何かありますか?

山本:やはり、こういう都市的なプロジェクトだからこそ、人間に寄り添うスケールというのはすごく重要だと考えています。アーバン・コアはただの動線としてだけでなく広場を囲ったりしながら街の回遊性に参加して、大屋根も有機的に形が変化して多様な見え方をする。また、中央棟と西棟は、街の小さな単位になじむようにファサードを分節化しています。東棟の低層部でファサードを透けさせているのと同じように、内部の商業部分を見せつつ、アーバン・コアを通して、特にハチ公広場、スクランブル交差点から街へと広がっていきます。

勝矢:西棟と中央棟ができると、低層部に人のレベルがいくつかできるんですね。今まではほとんど地面レベルでしたが、それがデッキのレベル、その上の4階のレベル、というように層をなしていく。

山本:立体的な回遊性によって、連続的に視界が変化しながら、気がつくとそれらのレベルに自然と上がっていけるようなことを考えています。そして、それらを視覚的につなぐように、大屋根が東側や街のいたるところからからも見えて、という感じで、全体で街の中の立体的な広場となるようなイメージです。

勝矢:全部ができたときに、アクティビティに立体感が出るのが楽しみですよね。

山本:それらをいかに自然につなげるか、注意深く設計していきたいです。

金行:駅の見せ方もダイナミックですよね。

山本:駅も街の中にあるような感じにしたいというのが、最初から思っていたイメージのひとつでした。知らない間に駅に吸い込まれていくような、周辺まで含めた全体がなんとなく駅で、かつ街で、みたいな。そういう境界がないような全体像をつくりたい。

藤原:こういう立体的な駅や街というのは、他では見たことがない。だって、宮益坂の途中から銀座線の屋根の上にのぼって街を横断して、ビルの中に突入して、そこから大屋根の下を降りてハチ公口に下っていくなんて、素晴らしく意味不明じゃないですか(笑)。そんな街、世界的にもありませんから。最初に描いたとおりにプロジェクトが進んでいるのもびっくりしますね。

勝矢:内藤先生と岸井先生が主導した「渋谷駅中心地区デザイン会議※(以下、デザイン会議)」という、さまざまな関係者が集まって議論する行政側の意思決定システムがよかったんじゃないかなと思います。よくある開発だと先にトップダウンでルールが決められていて、その枠の中でデザインをしますが、そうすると中身が練られてるわけではないから、あとでいくらでも変わってしまう可能性がある。要はルールさえ守ればいいんでしょ、ということになってしまう危険性がありますが、このプロジェクトはプロセス型で何度も話をしながらデザインを固めていくというやり方でした。

※渋谷駅中心地区デザイン会議
地域の個性を生かした景観誘導を実施するために、まちづくり指針2010に基づく景観形成の考え方を渋谷駅中心地区大規模建築物等に係る特定区域景観形成指針として東京都景観計画の認定を受け、デザイン調整を行う機関。

金行:デザイン会議には、これまで約10年間で、およそ20回提案して、議論を尽くしています。おそらくこの先も、回数を重ねていくと思いますが。

藤原:すごいことですよね。毎回地元の方や先生方の鋭い意見が出てきて、デザイン会議を通して大きく案が変わっていきました。

勝矢:それだけ熱意があるんですよね。価値基準みたいなものを行政側ともしっかり話し合えたし、それを共有したうえでのデザイン提案だから、土台がしっかりしていて崩れにくい。まあ、そのぶんゴールが見えづらいというのもあったのですが(笑)。

金行:行政や学識者とここまで議論を尽くしてデザインを誘導した例はそれほどありません。この誘導の仕組みを他のエリアで展開したいといわれることもありますし、今後、官民が一体で計画やデザインを導きながら、本質的な意味での人や街に開かれた面白い開発が増えていくのではないかと期待しています。

街が有機的に増築していく、再開発の新しい形

金行:渋谷駅のまわりには、まだまだたくさんのプロジェクトが予定されています。そういったことも踏まえて、デザイン面でも都市的な視点でも、これからの街づくりに期待することがあればお聞かせください。

勝矢:事業者の方たちと話していると、もはや東京の中での渋谷にとどまらず、香港など最先端の街と争う街として、いわば世界の中での渋谷を育てていきたいという想いを何度も聞きました。その壮大な想いを、建築でどうやったら実現できるんだろうというのを、すごく考えさせられたプロジェクトでした。

金行:みなさん、そうした想いは強いですね。

勝矢:かつて80年代の渋谷はファッションと若者の街であり、先進的な文化を創り出していました。そういった渋谷のもともと持っていた力はまだなくなってはいないけれど、さらに発展するためにも新しいものを足していかないといけない時期に来ています。今回の一連の開発事業は、そのタイミングと重なっていたわけです。

金行:その「新しいもの」とは?

勝矢:ひとつは多くの人が集まる、最新の消費文化の世界的な発信地というポジション。もうひとつは、80年代の渋谷とは違うタイプのクリエイションが生まれる街、つまり情報産業の創造拠点というポジションです。渋谷はもともとはオフィスワーカーの街ではなかったわけですが、ビットバレー構想などでも知られるように、一連の変化の中でいつしか東京の情報産業の中枢になりつつあります。巨大な商業施設と巨大なオフィスを抱えるこの建物は、そうした渋谷の変化をさらに加速させていくでしょう。

藤原:実際、IT企業もたくさん入居してきていて、渋谷の街が新しい働き方ができる街へと変わっていくのを感じます。

勝矢:そうですね。最近では、大手町とはタイプの違うワーカーの姿を数多く見かけるようになりました。今回の開発では、事業者や行政や計画者が確たるビジョンを持って街をつくることで、人の流れが変わり、人の意識が変わり、新しい人やものが集まるようになった。そこに大規模な開発の力を感じました。

山本:そうですね。プロセスも含めて開かれているという意味でも、このプロジェクトは再開発の新しいスタイルを提示できているのではないかと思います。高層ビルや商業施設といったビルディングタイプも、従来のものを崩しながら、なんというか輪郭がないような感じにしようとしている点からも、そういえますね。

金行:境界を曖昧にしたいというのは、妹島さんも当初からおっしゃっていましたね。プロジェクトの初期に、官民境界をはみ出した案を提案されたのを思い出します(笑)。

山本:今もまだ、取りかかっている新しいフェーズで、はみ出そう、はみ出そうと必死でやっています(笑)。大屋根は東側にちょっとでも顔を出そうとしていますし、東側のアーバン・コアも西側に顔を出そうとしているし。

金行:お互いがお互いのゾーンに顔を出し合って(笑)。

山本:街に対しても少しでもはみ出そう、広がろう、という感覚は持ち続けていますし、足元からタワーのてっぺんまで、普通の駅ビルとは全然違うと感じています。境界をつくってドンと建てるのではなく、いろんな建物や場所が集まって構成されているような感じで、街に自然と増築されていっているように、この再開発はできている。そういう新しい挑戦ができるのも、街としての懐の深さがあるからでしょう。

藤原:すごく人間くささを感じますよね。

渋谷を好きな人たちがつくる、新しい渋谷

藤原:MIYASHITA PARKもできたし、奥渋谷の盛り上がりなど、駅につながる道もどんどん面白くなってきていて、渋谷はますます「人々がよく歩く街」になると思うんです。そうなると、街での過ごし方も変わってくる。消費の街としての役割はこれからも続くと思うけれど、何かを考えたり、実験したり、人と出会って新しいものを生み出したり、いろいろな使い方がされていくんじゃないかな。

山本:渋谷に集まってくるような人たちだからこそ、新しいこの街を使いこなせる、使い倒してくれる。自然とそういう期待を持てますよね。

藤原:最近、東京がつまらなくなったとよく言われますが、それは街がつまらなくなったのではなくて、みんな忙しくて、僕たちの時間の使い方がつまらなくなった、生活から遊びの要素が減っていってたことも大きいと思うんですよね。街の使い方を創造していくことが重要で、遊びをどう回復していくか。みんなもっと遊べばいいのにって。

金行:なるほど、キーワードは「渋谷で遊ぼう」(笑)。

藤原:このプロジェクトを通じて感じたのは、建物をつくっているというより、街をつくっているんだということでした。これからエリアマネジメントなど、できたものを運営していく人たちがどんどん参加してくると、どう使いこなして遊んでいくかという、使い方の創造性が重視される展開になっていくはずなので、そこを頑張りたいなと思います。

勝矢:この街が、そんな遊びのような、型を超えていくような人間の創造的な部分を受け入れる場所としてあり続けてほしいですね。

山本:そうですね。駅前の動線空間も、普通のケースだとただの移動空間になってしまうところですが、渋谷では小さな広場の連続のような空間になって、そこで人々がさまざまなアクティビティを生み出してくれるという期待を持っています。

藤原:もちろんデザイナーが頑張ったというのもありますが、事業者側がデザイナーを挑発した側面もあると思うんですよね。渋谷だからこういうことをやってやろうっていうふうに、東急やJR東日本、東京メトロをはじめ渋谷スクランブルスクエアの関係者みんなにそれぞれ個人的な想いがあって、それがじわじわ出ている感じがしてすごくいい。

山本:渋谷をつくってきたという、街に対するプライドみたいなものですね。世界中でも渋谷にしかない、唯一のものをつくりたいっていう想いを常に感じます。

金行:たしかに、「ただのビルはつくりたくない」っていうのは、みなさんおっしゃいます。

藤原:会議に出ていても、肝が据わっている人が多くて頼もしい。渋谷の街をつくってきたプライドというか文化があって、それぞれ渋谷が好きでプロジェクトの担当になっているという経緯があったりするんです。街づくりや再開発に、そういう個人史が絡んでくるのはすばらしい。その街が好きな人が開発の担当になるというのが、これからの常識になるといいですね。

写真|エスエス 写真|エスエス

藤原徹平

藤原 徹平
建築家 フジワラテッペイアーキテクツラボ主宰、一般社団法人ドリフターズインターナショナル理事、横浜国立大学大学院Y-GSA 准教授 隈研吾建築都市設計事務所元パートナー・設計室長

横浜国立大学大学院修了、2001年より2015年まで隈研吾建築都市設計事務所 国内外の多くのプロジェクトの設計チーフを務める 2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA 准教授 フジワラテッペイアーキテクツラボ主宰
フジワラテッペイアーキテクツラボの主な作品に「クルックフィールズ(2020)」「那須塩原市交流センターくるる(2019)」「稲村の森の家(2017)」「代々木テラス(2016)」など。隈研吾建築都市設計事務所の主な担当作に「渋谷スクランブルスクエア(2019)」「V&A at Dundee(2018)」「杭州美術館(2015)」「飯山市文化交流館なちゅら(2015)」「十和田市市民交流プラザ(2014)」「Naver Connect One(2014)」「アリババグループ Taobao city(2013)」「九州芸文館(2013)」「浅草文化観光センター(2012)」「下関市川棚温泉交流センター(2009)」「ティファニー銀座(2008)」「朝日放送(2008)」「JR渋谷駅改修(2003)」「ONE表参道(2003)」など。 

山本力矢

山本 力矢
KAZUYO SEJIMA + RYUE NISHIZAWA / SANAA パートナー

東京理科大学工学部建築学科卒業、横浜国立大学大学院修了。2002年SANAA/妹島和世建築設計事務所入所。2013年よりSANAAパートナー。「海の駅なおしま(2006)」「ROLEX ラーニングセンター(2010)」「ルーヴル・ランス(2013)」「荘銀タクト鶴岡(2017)」「日立市役所(2019)」などを担当。

勝矢武之 日建設計 設計部門 ダイレクター

勝矢 武之
日建設計 設計部門 ダイレクター

京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修了後、2000年に日建設計へ入社。「桐朋学園大学アネックス(2004)」「乃村工藝社本社ビル(2008)」「木材会館(2009)」「港区白金の丘学園(2014)」「東亜道路工業本社ビル(2015)」「マギーズ東京(2016)」「上智大学 SOPHIA TOWER(2017)」「有明体操競技場(2019)」など幅広い分野の設計を担当。これまで手掛けてきたプロジェクトはMIPIM ASIAやWorld Architecture Festival などの国際的なコンテストにおいて、高い評価を得てきた。2016年、FCバルセロナのホームスタジアムである、カンプ・ノウスタジアム国際コンペで一等を獲得し話題に。一級建築士、日本建築学会会員、日本建築家協会会員。

プロフィール

金行美佳 日建設計 都市部門 都市開発部 ダイレクター

金行 美佳
日建設計
都市部門 都市開発部 ダイレクター

日建設計に入社後、エリアビジョンづくりや規制緩和などの政策立案から、複合的な都市開発事業の都市計画コンサルティングまで幅広く従事。最近では、渋谷駅や東京駅周辺エリアの駅まち一体型開発に携わる。また、渋谷未来デザインの設立から参画し、プロジェクトデザイナーとして規制緩和やエリアマネジメントの仕組みづくりを推進している。

プロフィール

当サイトでは、クッキー(Cookie)を使用しています。このウェブサイトを引き続き使用することにより、お客様はクッキーの使用に同意するものとします。Our policy.