渋谷スクランブルスクエアから考える“街を面白くする”再開発【前編】

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2019年11月、渋谷の新たなランドマークとして開業を迎えた、渋谷スクランブルスクエア。渋谷エリアでもっとも高い大規模複合施設のデザインは、関係者のディスカッションから方向性を導くプロセス型で行われた。隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈事務所)にて渋谷スクランブルスクエアの設計チーフを務めていた建築家の藤原徹平さん、SANAAのパートナーの山本力矢さん、日建設計の勝矢武之が、他の都市に類を見ないそのプロセスについて、さらに中央棟、西棟へと続いていくプロジェクトの今後や、未来の渋谷についても語り合った。ファシリーテーターは、日建設計都市開発部の金行美佳。(座談会実施:2019年9月)

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提供:渋谷スクランブルスクエア 写真|提供:渋谷スクランブルスクエア

自在にクロスし合う、ユニークなコラボ関係

金行:まずは、このプロジェクトへの関わり方を、おひとりずつ教えていただけますか?

藤原:2015年まで、僕は隈事務所で渋谷の設計チーフをしていて、渋谷スクランブルスクエアには基本計画から実施設計の途中まで関わったことになります。計画当初はほとんど手探りで、隈事務所とSANAAと日建設計でまずはどう分担するかを話し合ったのですが、このビルは誰がやる、あのビルは誰がやる、ではなくて、みんなでつくるとはどういうことなのか、どういうやり方がいいのかということを議論したのをよく覚えています。

勝矢:日建設計は、建物全体の設計から監理までを担当しています。僕が関わった範囲の話をすると、まず基本設計の段階では、初めは妹島さんも隈さんもデザインアーキテクトではなくデザインアドバイザーという立場で、まだ関わり方が決まっていない状態でした。そこで、事業者も含めて皆で議論をしながら進めていくワークショップという場をつくりました。その場にプロジェクトの問題点や可能性を提示しながら、どうやってみんなの議論を引き出して、渋谷スクランブルスクエア全体の目指すべき方向性を定めていくことに注力していました。

山本:僕はSANAAのメンバーとして、妹島と一緒にそれらの議論の場に参加していました。そのとき私たちは、動線空間に関して、ずいぶんと多くのコメントをした覚えがあります。渋谷駅ハチ公広場を中心に東西南北をつなぐことや、電車の流れを見せること、街とどうつながっていくかなど、渋谷の街から生まれる全体的な動線についてすごく興味を持っていたのだと思います。

勝矢:そのあと具体的なデザインの段階になってからは、我々は高層棟の部分をメインにデザインを固めていきました。さらに、工事に入った段階で最上部に展望施設「SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)」が併設されることになったので、そのデザインも手がけました。

藤原:最終的に、隈事務所は東棟低層部の前面と低層棟の南端側を担当することになったのですが、それは「広場を中心に考えていくのがいいんじゃないか」という発想から始まったものです。渋谷駅ハチ公広場をとりまく環境はSANAA、宮益側の広場と明治通りをとりまく環境は隈事務所の担当で、接点をどうするかは議論としてまだ残っていましたが、それはやりながら考えようということで。

山本:アドバイザーからデザインアーキテクトに立場が変わってからも、私たちは西側の中層棟のファサード、街と各線のホームをつなぐ動線、それを覆う大屋根など、渋谷駅ハチ公広場まわりの西口全体を担当することになったので、引き続き動線の部分を中心に考えていくことになりました。

金行:三者が上下に関わり合ったり、平面的にクロスしたり。こういうコラボレーションって、なかなかないですよね。

交錯するダイナミズム、渋谷という街の独自性

金行:役割が決まったあとは、渋谷の街をどう捉えてどうデザインに落とし込んでいったんでしょうか。通りからの見え方や、広場を中心に考えるといったことなど、訪れる人の目線というものを意識されていたように感じますが、そのあたりのコンセプトやデザインへのつなげ方についてはどう考えっていったのですか?

藤原:日建設計の若い人たちが、たくさんリサーチをしてくれたのが印象的でした。

勝矢:初めはわざと形をつくらず、渋谷の街の特性や建物の見え方など、とにかくリサーチした資料だけを提示しました。そのときの説明の対比で、よく話に出していたのが大手町。あちらは道路がグリット状に敷かれた街で、整然とした見通しのよいストリートがあって、そこにブロックとして超高層が面を揃えて並んでいる。一方、渋谷は谷地なので、すべての道路が谷底から放射状に広がり、どんどん枝分かれしていて見通しが悪い。その谷底に渋谷駅があります。

藤原:谷底から放射状に道が伸びているから、駅に向かう視線が角に当たるという話でしたね。

勝矢:はい。実際に周囲の街から見てみると、四角い渋谷スクランブルスクエアの大きな壁面が道路に面しているというよりは、建物の角のところに道が当たる形になっています。そうした建物の立地に由来するコーナーの話と、人の流れに由来するアーバン・コアの話が絡み合っていった点は、非常によかったと思います。

写真|エスエス

藤原:渋谷駅中心地区デザイン会議※(以下、デザイン会議)で、隈事務所やSANAAや日建設計の面々が、事業者に向けてプレゼンする様子が、学会や大学の講義のようなアカデミックな雰囲気があって非常に面白かった。この会議での議論を通じて、アーバン・コアという渋谷の都市計画独特の考え方が、このとき実感できました。

※渋谷駅中心地区デザイン会議
地域の個性を生かした景観誘導を実施するために、まちづくり指針2010に基づく景観形成の考え方を渋谷駅中心地区大規模建築物等に係る特定区域景観形成指針として東京都景観計画の認定を受け、デザイン調整を行う機関。

勝矢:面白くもあり難しくもあったのは、アーバン・コアという概念の捉え方。“コア”という単語は、どちらかというとギュッとした塊をイメージさせます。実際渋谷ヒカリエの場合は、まさに塊のコアとしてデザインされました。でも渋谷スクランブルスクエアは渋谷のすべての駅の中心にあって人がどんどん流れ込んでくる場所なので、コアとしてシンボリックに閉じた形をつくってしまうと、その機能や人の流れと合わない。だから、核となるという意味ではコアなんだけれど、形としてはコアにせず、どうやって開かれたパブリック空間をつくるかというのを議論していました。

藤原:この“あたため期間”は、けっこう重要でしたよね。

勝矢:そうですね。たとえば、東側は地下の東急の駅から人が上がってくるから、コアではなくむしろヴォイドで、垂直方向に抜いていこうとか。西側は複数の駅をつなぐ空中デッキが必要なので、ここに屋根をかけて広場とつないでいこうとか、そういう議論が何度もされました。結果として東も西もどちらも、コアという言葉がイメージさせる塊ではない形になりました。こうしたアイデアによって、超高層の施設に、さまざまな開かれたパブリックなスペースを入れ込んでいくことになりました。

写真|エスエス 写真|エスエス

山本:東京駅や新宿駅もそうですが、大きな駅というのは通常、駅ビルがあって、街と1回切れている印象が強い。でも現在の渋谷駅の場合、街のいろんなところに立体的に駅があるので、駅とその界隈がなんとなくつながっているのが面白いんですよね。谷の地形からできたヒューマンスケールの道を通り、街なかから立体的に歩いて行き、そのままホームまでシークエンスが続いている。

勝矢:この建物で議論されていたのは、硬い建物が足元に下りていくにつれて、渋谷のエネルギーとか人の流れとか街との関係を受け止めて、柔らかくなっていくようなイメージだと思います。それがヴォイドだったり、外に伸びていく屋根だったりにつながっていったのかなと思いますね。

山本:最初はヨーロッパの駅のように、広場の中にシンボリックな駅を感じられるようなアイデアもあったのですが、手を動かすうちに、街から駅のホームまでいかに連続的につなげるかを中心に考えるようになりました。今の渋谷が持っている面白さを、有機的な形のシンボリックな大屋根とともに、回遊性のある動線や立体的な広場のような空間を展開していくことで継承していければ、と思ったのです。

渋谷駅周辺完成イメージ(提供:渋谷駅前エリアマネジメント) ハチ公広場側(西側)にシンボリックな大屋根を計画 渋谷駅周辺完成イメージ(提供:渋谷駅前エリアマネジメント)
ハチ公広場側(西側)にシンボリックな大屋根を計画

勝矢:渋谷は、ターミナルではなくトランジットの駅なんですね。終着点ではなく、常に人が一瞬だけ交差して、去っていく。だから止まる場所ではなくて、流れていく動きが一番大事。その交錯するダイナミズムみたいなものをどうやってつくっていくかが面白いところでしたね。

山本:それに加えて、渋谷の街の独特のスケール感ってありますよね。道幅やお店の間口がヒューマンスケールで、界隈が立体的に展開していて、人がいろんなところで待ち合わせしていたり、飲み食いしていたり。ああいうムードをそのまま駅や広場まで引き込めるといいなと思います。

ひとつの建物としてではなく、街全体としてのあり方を考える

藤原:このグニュっとしたバナナのような形の屋根の案が出てきたときに、渋谷のプロジェクトが普通の再開発プロジェクトとは違ってきたなという印象を持ちました。事業者がたくさんいるうえに敷地区分が複雑だと、どうしても表層をデザインするということになりがち。あるいは、分かれているものが単位になって、それを合体させていくスタイルになりがちです。

山本:でも、そうではなかった。

藤原:ええ。分節ではなく、プロジェクト全体が一体でありながら、ひしゃげたりくぼんだりしているというのが今回のデザインの新しさのひとつです。妹島さんが大胆な屋根と曲面壁の案を出してきて、だとしたら、隈事務所としては対比的にえぐるだけで、歪ませるだけでやろうか、みたいなセッションのようなやりとりで、全体の骨格が決まった感じがしましたね。

勝矢:隈事務所の側は、ちょうど建物の低層に商業施設のボリュームと、その手前にアーバン・コアというパブリックスペースがある状態でした。この場合、普通だったら2つのボリュームをどう組み合わせるかという話になるのですが、商業施設はボリュームとして残しつつ、パブリックの側はネガのようにこれを削り込んでつくるっていうのが、非常にうまくフィットしている気がします。

藤原:超高層ビルってどうしても、セキュリティゲートがあって、中に入ってシャトルエレベーターで上がって……という感じになってしまいますよね。だけどここは、空間の形式が非常に超高層らしくないといいますか、ぬるっとつながる不思議な足元の存在になっている。

金行:そうですね。東棟は垂直方向への上昇感を、足元と高層部で表現するんだと、よくおっしゃっていました。

山本:そのえぐるような形のアーバン・コアが西口からも見えて、東側は東側で西口のダイナミックなアーバン・コアの屋根が見えてという、東西の両方をつなぐような連続性を生み出す都市スケールを大事にしていました。

写真|エスエス 写真|エスエス

藤原:何しろ手前に銀座線があるので、ビルが見えないんですよね。あるときそれに気づいて、どうしようって。逆に、銀座線をくぐるという体験があるから、くぐってビルの足元にスッと入っていくのも面白いかなと。あとは渋谷ヒカリエや渋谷ストリームといった周辺開発との連動ですね。動線がいろいろつながってくるから、ひとつのビルというよりは街全体として考えないといけない、ということにさらに意識的になったのもこの頃です。

渋谷の真ん中が、もっと広くなっていく

金行:高層部分についてはいかがですか?

勝矢:渋谷という街とつながる超高層をつくりたい、というのが大きなポイントでした。本来、超高層の内部の機能は街と直接つながってはいません。そのため、中のロジックだけで超高層をつくってしまうと、機能的で美しいかもしれないけれど、渋谷の街の賑わいから切り離された建物になってしまう可能性がありました。渋谷スクランブルスクエアは、冒頭で話したように、視線が常にコーナーへと流れていく建物であると同時に、街からコーナーに向かう人の流れがありました。そこで、その流れが低層で終わってしまうのではなく上までつながっていくようにすることで、街とつながる超高層ができないかと考えていたわけです。一方で、単に超高層の形が街につながっているだけではなくて、その頂部でも何か人々の動きが起きてほしいという想いも当然ありました。

金行:そして「SHIBUYA SKY」をつくることになった。

勝矢: もともと、四方のコーナーに向けて収斂していくデザインをしていたのですが、展望施設の形状も北西のスクランブル交差点側の角に向かって集中させていくデザインとし、下からの流れが上でもう一度大きく広がっていくようにすることで、頂部のパブリックな場所を街とつないでいこうと考えました。

藤原:角を気にするっていうのは、超高層ではあまりやらないことで面白いですよね。

写真|(上)提供:渋谷スクランブルスクエア、(左下)エスエス、(右下)鈴木研一

勝矢:そうですね。隈さんや妹島さんが低層で取り入れているフォールド(折りたたむ)していくようなアプローチで、コーナーに向けて形を少し変化させてポイントをつくっています。ガラスにセラミックプリントが入っていたり、真ん中に縦の換気スリットが入っているのも、コーナーに向かって透明度が上がっていくようなデザインにしたかったからなんです。

藤原:これまでは立体的に線路があって、中層は遮断されていた。駅のデザインはそれを受け止めるようにファサードがあったんだけれど、今回は線路を乗り越えたり、くぐったりするような感じで、シークエンスを重視して設計されている。実際出来上がってくるのを見ていると、渋谷の人の流れがアメーバのようにつながって、その領域が大きくなりつつあるのを感じられます。すべて完成したら、相当不思議な都市空間になるだろうなと思います。

勝矢:自分だけで固めるような閉じたデザインではなくて、外に広がっていくような開かれたデザインですね。

藤原:外の歩道橋もよくなっているし、内部空間もよくなっていくから、妹島さんのハチ公側の大屋根の立体広場ができると、ほんとに内外を自由に移動できるようになりますね。

勝矢:街の流れが大きくつながってきますよね。

金行:今でこそ、訪れる人のアクティビティをどうデザインするかといったパブリック性を意識して検討していくことがスタンダードになっていますけど、10年くらい前からそれを意識していたんですね。

勝矢:渋谷はあらゆるものが混ざり合って煮えたぎる坩堝のような、そういう計画しえないエネルギーがまちの力をつくっています。それを枠にはめて力を弱めてしまうようなものをつくってしまったら、この街に建っている意味がないとは最初から思っていました。なので、駅だけではなく、渋谷という街全体の特性も、この建物の成り立ちにすごく寄与してる気がするんですよね。

山本:渋谷だから特にうまくいっているっていうのは、きっとありますよね。街自体にそもそもそういう要素があったから、うまく連結しやすかった。

勝矢:超高層のスケール感と、足元のどちらかというと小さなスケールの渋谷の街とのバランスをどうするかという操作は、このプロジェクトの中では、けっこう重要なポイント。渋谷のゴチャゴチャとしたスケールの中に超高層がドカーンときちゃうと、街が2つに完全に分かれてしまうので。

藤原:そうですね。前例主義は感じないし、このプロジェクトのためにクリエイターが考えたことが実現している。それが非常に面白いところだし、非常に重要なトライアルになっていると思います。

藤原徹平

建築家 フジワラテッペイアーキテクツラボ主宰、一般社団法人ドリフターズインターナショナル理事、横浜国立大学大学院Y-GSA 准教授 隈研吾建築都市設計事務所元パートナー・設計室長

 横浜国立大学大学院修了、2001年より2015年まで隈研吾建築都市設計事務所 国内外の多くのプロジェクトの設計チーフを務める 2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA 准教授 フジワラテッペイアーキテクツラボ主宰
フジワラテッペイアーキテクツラボの主な作品に「クルックフィールズ(2020)」「那須塩原市交流センターくるる(2019)」「稲村の森の家(2017)」「代々木テラス(2016)」など。隈研吾建築都市設計事務所の主な担当作に「渋谷スクランブルスクエア(2019)」「V&A at Dundee(2018)」「杭州美術館(2015)」「飯山市文化交流館なちゅら(2015)」「十和田市市民交流プラザ(2014)」「Naver Connect One(2014)」「アリババグループ Taobao city(2013)」「九州芸文館(2013)」「浅草文化観光センター(2012)」「下関市川棚温泉交流センター(2009)」「ティファニー銀座(2008)」「朝日放送(2008)」「JR渋谷駅改修(2003)」「ONE表参道(2003)」など。

山本力矢

山本 力矢
KAZUYO SEJIMA + RYUE NISHIZAWA / SANAA パートナー

東京理科大学工学部建築学科卒業、横浜国立大学大学院修了。2002年SANAA/妹島和世建築設計事務所入所。2013年よりSANAAパートナー。「海の駅なおしま(2006)」「ROLEX ラーニングセンター(2010)」「ルーヴル・ランス(2013)」「荘銀タクト鶴岡(2017)」「日立市役所(2019)」などを担当。

勝矢武之 日建設計 設計部門 ダイレクター

勝矢 武之
日建設計 設計部門 ダイレクター

京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修了後、2000年に日建設計へ入社。「桐朋学園大学アネックス(2004)」「乃村工藝社本社ビル(2008)」「木材会館(2009)」「港区白金の丘学園(2014)」「東亜道路工業本社ビル(2015)」「マギーズ東京(2016)」「上智大学 SOPHIA TOWER(2017)」「有明体操競技場(2019)」など幅広い分野の設計を担当。これまで手掛けてきたプロジェクトはMIPIM ASIAやWorld Architecture Festival などの国際的なコンテストにおいて、高い評価を得てきた。2016年、FCバルセロナのホームスタジアムである、カンプ・ノウスタジアム国際コンペで一等を獲得し話題に。一級建築士、日本建築学会会員、日本建築家協会会員。

プロフィール

金行美佳 日建設計 都市部門 都市開発部 ダイレクター

金行 美佳
日建設計
都市部門 都市開発部 ダイレクター

日建設計に入社後、エリアビジョンづくりや規制緩和などの政策立案から、複合的な都市開発事業の都市計画コンサルティングまで幅広く従事。最近では、渋谷駅や東京駅周辺エリアの駅まち一体型開発に携わる。また、渋谷未来デザインの設立から参画し、プロジェクトデザイナーとして規制緩和やエリアマネジメントの仕組みづくりを推進している。

プロフィール

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