オフィスビルの屋上でたわわに実る

サツマイモの意外な環境効果

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温暖化の一途を辿る東京都心部で、意外な植物が省エネ効果を発揮しています。東京都千代田区神田にある「住友商事美土代ビル」の屋上では、空調設備の室外機を覆うようにサツマイモの苗が育てられているのです。サツマイモの葉の蒸散作用によって室外機が吸い込む空気を冷やすことにより、空調機の運転エネルギーを夏の一番暑い時期で10%も下げることに成功、省エネ効果が実証されました。サツマイモの葉の蒸散作用による省エネ効果については以前から研究されてきましたが、実際の建物に取り入れられたのは、このケースがはじめてです。

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嬉しい副産物・サツマイモ

地を這って土中に芋をつけるサツマイモですが、この事例では、土と緑による断熱効果ではなく、室外機周辺の空気を冷却することが目的ですので、畑をつくることはせず、苗と土が入ったバケツサイズの布袋を架台から釣り下げて、そこから葉を茂らせていく仕組み。収穫もビニールシートの上で、袋をはさみで切って芋を取り出すだけなので簡単です。ネクタイのままでもパンプスのままでも気楽に収穫できます。気になる収穫量は、屋外室外機置場の面積450平米あたりで、なんと250〜350キログラム! ビルの入居テナントへ配布されたり、地下食堂で蒸かしてみんなで食すなど、コミュニティ形成の一助とも言える副産物となりました。


サツマイモという身近な植物を利用したこの事例は、正式には「室外機芋緑化システム」(以下、芋緑化システム)といい、住友商事と日建設計で共同開発を行ったものです。本件を担当した若手設備設計者鈴木聡と本郷太郎のふたりがアイディアを持ち込んで、住友商事とともに実現しました。
      
      
      
      
      
      
芋緑化システムは、さまざまな応用を想起させます。たとえば住宅でのグリーンカーテンづくりでは、よくゴーヤやヘチマといった、夏に収穫される植物の利用が例示されますが、初夏から袋に入ったサツマイモの苗を釣り下げて育て、盛夏には葉を室外機周辺に這わせて省エネ効果を得、そして秋には収穫を楽しみ、しかも美味しいお芋が食べられるといった個人レベルでの利用も考えられます。

さらなる価値を生み出す芋緑化

外機芋緑化システムの実施は、実験段階も含めて2018年で6年目。現在、昨年獲れたサツマイモを使い、熊本の造り酒屋で芋焼酎を醸造中です。今回は熊本のサツマイモとのブレンドで作りますが、もっともっと芋緑化システムが周辺のオフィスビルに広がれば、100%「オフィスメイドの焼酎」が作れるようになり、「神田と言えば焼酎」と言われる日が来るかもしれません。
このように、芋緑化システムは、省エネだけでなく、さらなる価値を産み出す可能性を秘めています。
日建設計では、このような、前例のない新たな試みにも、積極的に挑んでいます。
      
      
      
      
      
      
      

  • 鈴木 聡

    鈴木 聡

    エンジニアリング部門サスティナブルデザイングループ
    ダイレクター

    設備設計事務所勤務を経て2007年、日建設計に入社、設備設計部門と設計部門にて、高層オフィス、高層集合住宅、電算センターなど様々な建物の設備設計や保全計画の立案等を担当する。2021年より新領域開拓部門に所属し、建物のLCD(Life Cycle Design)における様々な業務の開発と推進に取り組み、建物調査や戦略的な保全計画策定のプロフェッショナルとしてビルのロングライフ化を推進している。また、ビルの屋上で環境負荷低減に寄与する室外機の芋緑化システムの普及にも力を入れている。一級建築士、設備設計一級建築士、建築設備士。

  • 本郷 太郎

    本郷 太郎

    企画開発部門 プロジェクトマネジメントグループ

    2007年早稲田大学修士課程(石山修武研究室)を経て日建設計に入社。
    専門は機械設備設計。
    見て楽しい、使って楽しい、皆から愛される建築提案を心掛けている。
    押上駅前自転車駐車場(2012)、成都銀行本店(計画中)、エビススバルビル(2014)、国立西洋美術館設備等改修、住友商事次世代オフィス(室外機芋緑化)、中部電力千代田ビル設備等改修(2014)、YKK80ビル(2015)などを担当。
    なお、室外機芋緑化はライフワークとしている。

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