都市のヒートアイランドを冷やすファサードシステム“BIO SKIN”

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気温が35℃以上であることを表す「猛暑日」。もはや夏の定番となりつつある言葉ですが、実は2007年から気象庁が定義したことから使われ始めました。過去100年間において地球温暖化の上昇は0.6℃程度にも関わらず、東京の気温は3℃も上昇しています。この原因の大半はヒートアイランド現象によるものと考えられています。

このヒートアイランド現象の対策として、屋上や壁面など建築地の一部を緑化することが国土交通省を中心に推進されています。クールスポットを生み出すよい対策ではありますが、容積を最大限に使おうとするとそれも難しくなってきます。

このようにヒートアイランド現象については、建築業界が中心となって有効的な対策がないか模索中です。対策が急がれる中、日建設計では木や森のような機能を持ち、都市を冷やす建築をつくる先進的な試みがされています。増やせば増やすほど都市を熱くする建築から、増やせば増やすほど都市を冷やす建築へ。自然現象を利用した「打ち水」から着想を得た、ヒートアイランド現象に歯止めをかける技術「バイオスキン」を、事例と共に紹介します。

ヒートアイランド現象の要因のひとつである建築

ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が郊外に比べて上昇する現象です。主な原因としては、都市を構成する建築や道路などが、昼間に蓄えた熱を夜間に放射することが挙げられます。しかも建築材料は蓄熱量が高いものが多用されているため、放射量もその分増えています。そのほかにも、構造物が地表面を覆っているために土壌や植物の蒸散が減少したり、建築が沿岸部や河川からの冷風流入を遮ったりすることなども、都市部の気温上昇の原因のひとつです。

建築を増やせば増やすほど、ヒートアイランド現象には拍車がかかります。そのため、建築側でヒートアイランド現象を緩和するため対策を立てることが求められています。

バイオスキンが日本の風物詩から得た発想とは

ヒートアイランド現象を止めると期待されている技術「バイオスキン」。このバイオスキンが生み出されたきっかけは、日本の夏の風物詩である「打ち水」でした。打ち水は夏の涼をとる昔ながらの風習のひとつですが、近年気温上昇を抑制する効果が注目されており、東京都では雨水や2次利用水を利用した打ち水を行い、夏の暑さを軽減するよう推進しています。

打ち水が周囲の温度を下げる仕組みのポイントは、「気化熱」という現象です。気化熱とは、水が蒸発する際に周囲から吸収する熱のことを指します。打ち水は、地面に撒いた水が蒸発する際に、周囲の温度を奪う形で温度を下げます。例えるなら、人間が発汗による気化熱で体温上昇を抑える現象に近しいでしょう。

日建設計では、この打ち水効果で発生する「気化熱」に注目し、建築の表面を気化熱で冷却する装置で覆うアイデアにたどり着きました。

NBF大崎(旧ソニーシティ大崎)のバイオスキンの事例から

このように打ち水からの着想で生み出されたのが、世界初の気化冷却外装システムである、NBF大崎(旧ソニーシティ大崎)のバイオスキン・システムです。

管内から水が滲みやすい多孔質の素焼きのパイプを、バルコニーの手すりと兼用ですだれ状に外装に使用しました。そして太陽光で得られた電力で地下に蓄えられた雨水を吸い上げて素焼きのパイプから蒸発させ、発生した気化熱で建物を含めた周囲全体を冷却します。
建築物の一部の緑化も、ヒートアイランド現象には有効です。しかし壁面緑化は水や土の飛散・植物の枯れ・メンテナンスが必要など、課題が多く高層ビルには向いていません。また、屋上緑化では面積が限定されてしまいます。今回開発したバイオスキンは、酸化チタン光触媒の効果でメンテナンスが不要です。しかも、高層ビルの面積の大きいファサード壁面を活かすことができます。

気化熱で冷却を行うシステムとしては、他にもドライミストやガラス面に直接水を流す方法がありますが、これらのシステムは水が飛散するという課題があります。バイオスキンの場合、水は管の内部を通って滲み出るため、水が飛散する心配はありません。しかも、バイオスキンを運用するためのリソースは、雨水と太陽エネルギーです。バイオスキンは、自然の恩恵を受けつつ省エネルギーに配慮できる仕組みなのです。

猛暑日の実験で証明されたバイオスキンの効果とは何か

とある猛暑日に、高さ25階の高層ビルに素焼きのパイプをまとった場合、つまりバイオスキン・システムをまとった場合のシミュレーションを行いました。その結果、表面温度を外気より10℃低下させることが分かりました。まさに外壁面全体で「打ち水」を行なったことになります。

驚異的だったのは、冷気が風で運ばれることで周辺温度を2℃も下げることでした。バイオスキンはヒートアイランド現象を抑制するのと同時に、室内空間の熱負荷低減にもつながることが確認されました。建物自体の温度上昇と都市のヒートアイランド現象の抑制に寄与する試みとしてスタートした、バイオスキン・システム。このように、周囲によい影響を与えるクールスポットとしての役割も担えることが証明されました。

ヒートアイランドの要因からクールスポットへ

シミュレーションによる驚きの発見はまだあります。バイオスキン・システムでは24,000㎡の森と同等の蒸散量を記録し、1,400本のポプラの木と同等のNOx(窒素酸化物)除却効果を持つことが確認されました。これはバイオスキンが、建築に木や森のような能力を付与したとも言えます。

ヒートアイランド現象の加害者は都市を作る人間であるとも言えますが、同様に被害者も都市に住む人間です。ヒートアイランド現象で都市はどんどん暑くなっています。救急搬送者は毎年4,000〜5,000人、死亡者数は1,000人を超える年もあり、深刻な状況と言えます。

今まで建築によるヒートアイランド現象への影響は、緑化で緩和させる形で繕ってきました。しかしバイオスキンの登場は、要因である建築そのものへの解決を示せたことになります。

ヒートアイランド現象の要因のひとつとして挙げられてきた建築物。それに木や森のようなシステムを持たせ、しかも植物を植えるかのように建つと環境がよくなるというパラダイムシフトが、「バイオスキン・システム」の大きな価値なのです。

  • 山梨 知彦

    山梨 知彦

    CDO常務執行役員
    チーフデザインオフィサー

    1986年、東京大学修士課程を経て日建設計に入社。専門は建築意匠。2009年「木材会館」にてMIPIM Asia's Special Jury Award 、2014年「NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)」2019年「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」にて日本建築学会賞(作品)、2011年「ホキ美術館」にてJIA建築大賞、「NBF大崎ビル」でCTBUH Innovation Award などを受賞。日本建築学会賞、グッドデザイン賞、東京建築賞などの審査員も務めている。日本建築家協会、日本建築学会会員。

  • 羽鳥 達也

    羽鳥 達也

    設計部門
    ダイレクター

    1998年、武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院を経て日建設計に入社。専門は建築意匠設計。
    主な作品は、神保町シアタービル(2007年)、ソニーシティ大崎(現NBF大崎)(2011年)、東京藝術大学音楽学部4号館第6ホール改修(2014年)、桐朋学園音楽部門調布キャンパス1号館(2014年)、コープ共済プラザ(2016年)のほか逃げ地図の開発。
    日本建築学会賞(作品)、日本建築家協会新人賞、BCS賞、ARCASIA賞ゴールドメダルなどを受賞。

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