未来への知られざる提案——日建設計のプロフェッショナル・サービス
第3回 建築形態と力の合理的な関係を求めて(前篇)

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建築設計に求められる様々な条件に適応する、合理的なかたちや構造のシステムを導き出す——。これは当たり前のようですが、実は簡単なことではありません。デジタル技術を使ってその課題に挑むのが、日建設計のDigital Engineering Lab(DEL)の「構造形態創生」です。豊富な設計経験と高い専門性を活かし、技術提案や建築設計の支援を行う技術者集団DELが行う構造形態創生とは——?

DELでは、現代の建築設計・都市計画に求められる新規領域・領域横断の設計技術について、5つの専門チームが技術提案や設計支援を行っている。🄫日建設計

構造形態創生チームを率いる玉井宏樹(設計技術部門テックデザイングループダイレクター)に、その発想の源やDEL特有の技術を用いて行う建築の合理化、そしてかたちにまつわる美学について、話を聞きました。

構造形態創生は、より効率良く力を伝達するかたちにすることで省資源化できる「フォーム・ファインディング(Form Finding)」、そして材料や構法、コストなど建築に関わるさまざまな価値に対する「最適化」という方法で行われます。そのプロセスを見てみましょう。

力とかたちの適切な関係を見つけるフォーム・ファインディング

蜘蛛の巣、シャボン玉、貝殻など自然界にはさまざまな有機的なかたちがあり、とても合理的な力の釣り合いでその形状が保たれています。そうした自然の叡智をヒントにして、建築は進化しています。

フライ・オットーの「ミュンヘンオリンピックスタジアム(1967)」は、支柱とアンカーの間をケーブルネットが蜘蛛の巣のように張り巡らされ透明で軽やかに客席を覆っている。🄫Tim Munsey/500px(左)、german-images(右)

「東京ドーム(1988)」の大屋根は、シャボン玉のように薄くて軽く、かつ強靭な膜材料を用い室内空気圧で膨らますことで、大空間を実現した。🄫 Ioannis Tsotras(左)、画像提供:東京ドーム(右)

ハインツ・イスラーの設計によるスイスにあるガソリンスタンドのシェル屋根。イスラーはシェル形状を決定するために逆さ吊りモデルなどを使った多くの実験を行った。どの部分でも二方向に曲率を持つことによって座屈を防ぎ強度を上げ軽量化を実現している。 🄫Chris Hackett/Tetra Images(左)、日建設計(右)

このように、自然環境や外部からの条件に適応し、合理的な建築の形態を探索するのが「フォーム・ファインディング(形態探索)」です。

柱・梁を基本要素とした従来の建築物では、「引っ張り」「圧縮」「曲げ」という3つの力の作用を組み合わせて構築されており、構造設計の考え方も一般的にこれに基づいています。その一方、フォーム・ファインディングでは、「引っ張り」と「圧縮」という2つの力で建築のかたちを導き出します。曲線的な建築形状や大空間屋根構造を、梁や柱という直線的な構成から脱してより効率的に力を伝達する自然な形で具現化するのがフォーム・ファインディングなのです。

コンピュータが普及していない時代、驚くほど簡易な方法でフォーム・ファインディングが行われていました。スペインの建築家アントニオ・ガウディが「逆さ吊り模型」で力のつり合いを見出し、有機的な形状の「コローニア・グエル教会堂」を設計したことは有名です。

吊り模型 🄫日建設計

現代でもフォーム・ファインディングの原理は同じです。しかし、DELでは最先端の数値計算技術とデジタル技術を駆使し、より多様な建築の可能性を検討しています。これは玉井が中心となって日建独自で開発しているアプリケーションNSFormを活用することで、よりスピーディに、より多くの形態パターンを検証できるからです。

玉井が中心となって日建独自で開発しているアプリケーションNSForm。右側のダイヤルを回して、力が釣り合っているかたちを求める。🄫日建設計

グリッドシェル(左上)ケーブルネッド・クーリングタワー(右上)、歩道橋(左下)、スポークホイール(右下)、さまざまな構造物のかたちと力の釣り合いをフォーム・ファインディングの手法でスタディする。🄫日建設計

吊り屋根構造のフォームファインディング。大きな曲げが生じていた柱と梁のフレームシステム(左)を引張力のみを伝えるテンションロッドと圧縮力のみを伝えるほぼ水平なアーチに置き換えた(右)。曲げ応力を極力発生させないことで、建材の重量を減らすことができた事例。🄫日建設計

このように、力がより明快に流れる合理的なかたちを見出すフォーム・ファインディングは、建築の基本コンセプトから具体的な形状を決める初期段階で用いると高い効果を発揮します。意匠設計が考えるかたちやコンセプトとフォーム・ファインディングを掛け合わせ、同時に検討すれば、建材の量を抑えられるなど、経済合理性につながるからです。

三角屋根が連なる膜構造の中で行ったフォーム・ファインディング。1の段階はコンセプト段階の形状、2はCADを使って基本的な構成を検討。3が釣り合い形状を導き出すフォーム・ファインディング。4は一般的な構造解析・構造設計という4段階のプロセスを示す。🄫日建設計

そして、この技術を用いれば、自然界にある美しい力の釣り合いを建築のかたちに投影できます。例えば、「一瞬で消えてしまう水滴のかたちを引っ張り系の構造システムで近似して建築化することも夢ではありません。引っ張り系の構造システムで水滴を近似したタワーを設計することができるのです。それがフォーム・ファインディングの魅力のひとつです。

水滴の形状をフォーム・ファインディングによって建築の構造体として具体化。🄫日建設計

  • 玉井 宏樹

    玉井 宏樹

    設計技術部門 テックデザイングループ
    ダイレクター

    形態は力なり。構造物の形態と力の合理的な関係を常に念頭に設計に取り組んでいる。構造物の規模が大きくなると、力の流れに抗うような無理な形態は実現が大変難しくなる一方で、力の自然な流れに応じた合理的な形態であれば構造材料を節約しつつ実現が可能な解決法を見出すこともできる。Form Findingや最適化などの特殊な数値計算手法を駆使して、より経済的で資源保全にもつながる構造形態を提案している。このようにして発見される形態は決して無機質なものではなく、多くの場合、自然美にも似た神秘性と豊かさがある。京都大学修了後、イリノイ工科大学にてPhD取得。合衆国、ドイツ、ネパールを遍歴して、建築、構造設計、プログラム開発に従事。

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