コストマネジメントレポート

2023年7-9月号を掲載しました。
「埋まらない需給ギャップ 建築・設備ともに施工会社の手持ち工事高が高水準」

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「コストマネジメントレポート」(季報)は、国内外の経済情勢を概観し、設計事務所トップシェアの実績から得られる豊富なコストデータを活かし、中立的な視点での独自の建設市場分析結果をタイムリーにお伝えしていきます。

※本レポートは情報提供を目的として日建設計 設計監理部門コストマネジメントグループが作成しています。記載の内容等は作成時点のものであり、完全性を保証するものではありません。内容等は予告なしに変更する場合があります。本レポートの無断転載を禁じます。

埋まらない需給ギャップ
建築・設備ともに施工会社の手持ち工事高が高水準

建築の手持ち工事高は今年度も高水準で推移

2022年度の建築大手施工会社4社*1の受注高合計は前年度比+7%、手持ち工事高は同+3%といずれも堅調(図1)。一方、23年度は受注高・手持ち工事高ともに減少を見込む。データセンターや半導体工場に加え大型再開発案件などが控える中での受注減見込みの要因は、供給制約による受注抑制と考えられる。

超大型案件の競争受注により利益率は低水準

豊富な工事量がある一方、完成工事利益率は21年度以降6%と低水準が続く(図2)。厳しい競争環境下で受注した低採算大型案件の影響で工事損失引当金が増加し利益率の回復が遅れている。低採算案件の影響は24年度頃まで続く見込みで、利益率回復のため引き続き受注時採算性の向上を図ると想定される。
  • 図1 大手施工会社の手持ち工事高・受注高の推移 図1 大手施工会社の手持ち工事高・受注高の推移
    各社決算資料より作成

  • 図2 大手施工会社の完成工事利益率・工事損失引当金の推移 図2 大手施工会社の完成工事利益率・工事損失引当金の推移
    各社決算資料より作成

設備は手持ち工事高調整のため受注量を抑制

大手機械サブコン5社*2、大手電気サブコン5社*3の22年度手持ち工事高合計は前年度より大幅に増加し直近で最大となった(図3)。23年度は機械・電気ともに受注高を抑制する計画で、手持ち工事高の消化が進む見込み。豊富な手持ち工事高を背景に選別受注が続くと考えられる。

時間外労働上限規制対応が広がる

24年4月から適用される時間外労働上限規制への対応も工事費上昇要因となる。建設現場の4週8閉所化による工期延伸に伴い仮設工事費や諸経費などが増加する。国土交通省の共通費算定式*4を用いた試算では工事費が約1%増加する(図4)。またこの算定式は今年3月の改定で、設備の現場管理費の上昇など全体的に上方修正されている。民間工事にこの算定式がそのまま適用される訳ではないが、元請企業の人件費増加などの要因については同じく注意が必要。
  • 図3 設備施工会社の手持ち工事高・受注高の推移 図3 設備施工会社の手持ち工事高・受注高の推移
    各社決算資料より作成
    機械=5社合計、電気=5社合計

  • 図4 時間外労働上限規制対応と共通費算定式改定による工事費の影響 図4 時間外労働上限規制対応と共通費算定式改定による工事費の影響
    日建設計資料より作成。延べ床面積15,000m2程度のオフィスビルを想定。
    共通費=共通仮設費+現場管理費+一般管理費

首都圏の上昇勢い緩まず、他地区との勢いに差

日建設計標準建築費指数NSBPI*5

総合指数(首都圏)は前期比で約6%、前年同期比で約22%上昇。関西圏は前期と同等の上昇率。東海圏は建築にやや緩みがあるが上昇が止まる気配はない(図5)。
建築工事は生コンクリート、ガラスなど各種資材価格の上昇や、仮設、鉄骨、仕上工事などの価格転嫁による上昇が続いている。設備工事は各種機器の定価改定に加え、需給ギャップによる労務費や専門工事価格の上昇が継続しており、工事費全体の上昇を牽引している(図6)。
  • 図5 NSBPIの推移 図5 NSBPIの推移

  • 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度

各資材の価格指数は上昇続く

企業間で売買される物品の価格変動を示す企業物価指数をみると、建具関連の上昇は継続(図7)。特にガラスは22年末頃から大幅に上昇しており、ガラス大手3社*6による昨年10月納入分からの価格改定が市場価格に反映された結果と考えられる。

大阪の生コン価格が大幅値上げ

大阪広域生コンクリート協同組合は23年4月に価格改定を行い、呼び強度18の普通コンクリートの価格を21,800円/㎥から25,500円/㎥に引き上げたが、その結果が早くも市場価格に反映され、大阪の生コン価格指数が大きく上昇(図8)。他地区の生コン組合も春以降の値上げを表明しており、今後、指数に反映される可能性が高い。
  • 図7 建築資材の企業物価指数の推移 図7 建築資材の企業物価指数の推移
    日本銀行「企業物価指数」より作成

  • 図8 生コン価格の推移 図8 生コン価格の推移
    経済調査会「積算資料」より作成

*1:大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設の4社。
*2:朝日工業社、三機工業、大気社、ダイダン、高砂熱学工業の5社。
*3:関電工、九電工、きんでん、トーエネック、ユアテックの5社。
*4:公共工事の予定価格算出時における共通仮設工事費、現場管理費、一般管理費を算出するための計算式。
*5:日建設計標準建築費指数 NSBPI:
日建設計が独自に算出している建設物価の値動きを示す指数。標準賃貸オフィスを数量モデルとして、
独自調査により把握した実勢価格を随時反映させた工事価格を算出し指数化したもの。
第1四半期は1~3月、第2四半期は4~6月、第3四半期は7~9月、第4四半期は10~12月を示す。
*6:日本板硝子、AGC、セントラル硝子の3社。

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