コストマネジメントレポート

2024年10-12月号を掲載しました。
「建設量減少も労働需給ギャップの解消につながらず」

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「コストマネジメントレポート」(季報)は、国内外の経済情勢を概観し、設計事務所トップシェアの実績から得られる豊富なコストデータを活かし、中立的な視点での独自の建設市場分析結果をタイムリーにお伝えしていきます。

※本レポートは情報提供を目的として日建設計 設計監理部門コストマネジメントグループが作成しています。記載の内容等は作成時点のものであり、完全性を保証するものではありません。内容等は予告なしに変更する場合があります。本レポートの無断転載を禁じます。

建設量減少も労働需給ギャップの解消につながらず

実質建築投資・着工床面積は減少傾向

実質建築投資は2017年度以降、着工床面積も13年度以降、いずれも減少しており(図1)、物価変動の影響を除いた実質の建設量でみると、建設需要は減少傾向にある。

担い手不足と働き方改革で労働投入量が減少

建設業の労働力も同様に減少傾向にあり、就業者数は12年比4%減、就業時間は働き方改革などの影響もあり12年比8%減っている(2)。就業者数と就業時間を掛け合わせた労働投入量は12年比で12%減少した。

  • 図1 実質建築投資と着工床面積の推移 図1 実質建築投資と着工床面積の推移
    国土交通省「建築着工統計調査」「建設投資見通し」より作成。

  • 図2 労働投入量(=就業者数×就業時間)の推移 図2 労働投入量(=就業者数×就業時間)の推移
    総務省「労働力調査」より作成。

床面積当たり労働投入量の増加が建設単価上昇の一因

労働力の不足感が強まるなか、着工床面積の減少幅は労働投入量の減少幅を上回っており、床面積当たり労働投入量は増加傾向にある(図3)。これは施工難易度の上昇など同じ床面積の施工に必要な人工数の増加を示している。また、賃上げも加味した床面積当たり労働投入コストも12年比35%増加している。こうした床面積当たり労働投入量の増加が、賃上げを上回る労務費増加を引き起こし、建設単価上昇に寄与していると考えられる。

大規模化により労働需給ギャップが拡大

一方で都心部を中心にプロジェクト規模が拡大している(図4)。大規模プロジェクトでは一度に大量の労働力を投入する必要があり、労働力確保の難易度が高い。
今後も労働需給ギャップの解消は見通せず、床面積当たり労働投入量の増加傾向と相まって、労務費増加は続く見込み。
  • 図3 着工床面積当たりの労働投入量・コストの推移 図3 着工床面積当たりの労働投入量・コストの推移
    厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「労働力調査」、国土交通省「建築着工統計調査」より作成。着工床面積は年度計の数値を使用。

  • 図4 東京23区内の1件当たり10万㎡以上の事務所供給量の推移︓後⽅3年の移動平均 図4 東京23区内の1件当たり10万㎡以上の事務所供給量の推移︓後⽅3年の移動平均
    森ビル「東京23区の⼤規模オフィスビル市場動向調査」より作成。

建築はやや緩むも設備の勢いは依然強く総合は上昇継続

日建設計標準建築費指数NSBPI*1

各地区とも上昇の勢いは前期と比較し小幅に下落。建築の押し上げがやや緩むが、設備工事の上昇勢いは依然として強く、物価上昇は継続している(図5・6)。
設備工事は労務費や専門工事費の上昇、機器メーカー価格改定に加え経費率も上昇している。中でも関西圏は万博以降のIR等大型案件を見据えたサブコンの選別受注傾向が強く、他地区を上回る強気の見積が続いている。
建築工事は仮設、躯体、仕上工事全般で上昇したが、鉄筋材、鉄骨材など材料は下落基調にあり、一部工種では横ばいや下落も見られるなど建築全体では上昇の勢いがやや弱まった。
  • 図5 NSBPIの推移 図5 NSBPIの推移

  • 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度 図6 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度

労働環境改善のための賃上げが進む

担い手確保のための労働環境改善の一環として建設業従業者の賃金上昇が続く(図7)。総合工事業(主に元請け)を追いかける形で2018年以降、職別工事業(主に下請け)も賃上げが進んでおり、この傾向は今後も継続する見込み。

鋼材価格に値下げの兆し

東京製鐵は10月の鋼材販売価格を1万円程度引き下げた(図8)。国内外の鋼材需要が弱まっていることが要因。普通鋼鋼材の国内建築受注量は18年以降減少傾向にある。値下げの動きが広まる可能性もあり注視が必要。
  • 図7 建設業の現金給与総額(月額)の推移 図7 建設業の現金給与総額(月額)の推移
    厚⽣労働省「毎⽉勤労統計調査」より作成。

  • 図8 鋼材販売価格(東京製鐵)と鋼材の建築受注量の推移 図8 鋼材販売価格(東京製鐵)と鋼材の建築受注量の推移
    日本鉄鋼連盟「鉄鋼需給統計月報 普通鋼鋼材用途別受注(内需)」
    東京製鐵「販売価格」より作成。

*1:日建設計標準建築費指数 NSBPI:
日建設計が独自に算出している建設物価の値動きを示す指数。標準賃貸オフィスを数量モデルとして、
独自調査により把握した実勢価格を随時反映させた工事価格を算出し指数化したもの。
第1四半期は1~3月、第2四半期は4~6月、第3四半期は7~9月、第4四半期は10~12月を示す。

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