コストマネジメントレポート

2023年10-12月号を掲載しました。
「資材価格は高止まり、労働供給制約は依然厳しい状況 堅調な需要の下支えにより建設物価は上昇傾向が続く」

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「コストマネジメントレポート」(季報)は、国内外の経済情勢を概観し、設計事務所トップシェアの実績から得られる豊富なコストデータを活かし、中立的な視点での独自の建設市場分析結果をタイムリーにお伝えしていきます。

※本レポートは情報提供を目的として日建設計 設計監理部門コストマネジメントグループが作成しています。記載の内容等は作成時点のものであり、完全性を保証するものではありません。内容等は予告なしに変更する場合があります。本レポートの無断転載を禁じます。

資材価格は高止まり、労働供給制約は依然厳しい状況
堅調な需要の下支えにより建設物価は上昇傾向が続く

建設物価の上昇要因は資材価格上昇、労働供給制約、堅調な需要見通し

建設物価(NSBPI*1)は前年同期比で24%上昇。各工事別にみると建築に比べ設備の上昇率が大きい(図1)。各工事の上昇要因は主に、建築=鋼材、電気=労務費、空調・衛生=専門工事と労務費(図2)。資材価格上昇に加え、人手不足や2024年問題*2などの労働供給制約による労務費や専門工事の上昇を、堅調な需要見通しを背景に工事価格に転嫁する姿がうかがえる。

資材価格は上昇の勢いに一服感

資材価格は原材料価格高騰などを主要因に上昇が続いてきたが、足元では複層ガラスを除き上昇に一服感が出ている(図3)。一部の動向と建設物価への反映にはタイムラグがある点に注意が必要だが、資材価格上昇による建設物価高には収束の兆しがみられる。
  • 図1 工事別NSBPIの前年同期比 図1 工事別NSBPIの前年同期比
    日建設計資料より作成

  • 図2 図1の上昇要因内訳 図2 図1の上昇要因内訳
    日建設計資料より作成
    材料にはダクト工費を含む

  • 図3 建築資材の物価指数の推移 図3 建築資材の物価指数の推移
    日本銀行「企業物価指数」より作成

人手不足、24年問題などによる労働供給制約が続く

職人の就業者数減少・高齢化が止まらない中、労働環境改善の一環として賃上げが進む。製造業と比べ、総合工事業(主に元請)・職別工事業(主に下請)の賃金上昇幅は大きい(図4)。これに加え、需給ギャップや24年問題対応による職人確保の競争が発生しており、労働供給制約による建設物価の上昇は継続する見込み。

堅調な建設需要見込みが物価の押上げ圧力を強める

24年度の実質建設投資(民間住宅+民間非住宅)は22年度比で1.3%上昇 見込み(図5)。資材価格や労働供給制約による建設物価の押上げ圧力を堅調な建設需要見込みが引き続き下支えする。今後、金融政策の転換などを機に建設需要が減少に転じても、下方硬直性の強い労務費や資材費などに含まれる賃金コストは据え置きとなる可能性がある。
  • 図4 建設業の一日あたりの賃金の推移 図4 建設業の一日あたりの賃金の推移
    厚生労働省「毎月賃金統計調査(事業所規模5人以上)」より作成。
    所定内給与÷所定内労働時間×8時間+特別に支払われた給与÷出勤日数より算出

  • 図5 実質建設投資(民間建築)の推移 図5 実質建設投資(民間建築)の推移
    国⼟交通省「建設投資⾒通し」、建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の⾒通し」より作成

総合指数の上昇が継続

日建設計標準建築費指数NSBPI*1

総合指数(首都圏)は上昇の勢いが変わらず、前期比で約5%、前年同期比で約24%上昇。関西圏は建築設備ともに勢いが強まり前期比で約6%、東海圏も約4%上昇(図6)。
建築工事は仮設、鉄骨、生コン、仕上工事などが上昇。設備工事は、労働供給制約による労務費や専門工事価格の上昇が影響した。諸経費率も上昇しており、上昇の勢いは依然として強い(図7)。
  • 図6 NSBPIの推移 図6 NSBPIの推移

  • 図7 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度 図7 NSBPIの増減率と建築・設備の寄与度

24年問題により4週8閉所への対策が加速

日本建設業連合会が「適正工期確保宣言」を公表するなど24年問題対策としての4週8閉所確保の動きが拡がる。4週8閉所の確保状況は年々増加しているが22年度は31%に留まり、今後動きが加速すると考えられる(図8)。また24年問題は物流にも適用され、輸送コストや工程計画(資材搬入の時間指定が難しくなる)などへの影響が及ぶため注意が必要。

円安によりドル建てでみるとNSBPIは横ばい

建設物価をドル建てでみるとリーマンショック発生の08年以降、円建てより変動幅は小さくほぼ横ばいで推移(図9)。円建ての直近の急上昇分は円安により帳消しとなった形に海外投資家からは見えている。一方で円安は円建て上昇の一因ではあるが、主要因は先述の通りである点には留意。
  • 図8 4週8閉所の比率の推移 図8 4週8閉所の比率の推移
    日本建設業連合会「週休二日実現行動計画2022年度通期 フォローアップ報告書」より作成

  • 図9 NSBPI(ドル建て)の推移 図9 NSBPI(ドル建て)の推移
    日建設計資料、日本銀行「為替相場」より作成
    ドル建ての指数は2008年9月の為替レートを基準に試算

*1:日建設計標準建築費指数 NSBPI:
日建設計が独自に算出している建設物価の値動きを示す指数。標準賃貸オフィスを数量モデルとして、
独自調査により把握した実勢価格を随時反映させた工事価格を算出し指数化したもの。
第1四半期は1~3月、第2四半期は4~6月、第3四半期は7~9月、第4四半期は10~12月を示す。
*2:2024年4月から建設業・物流に時間外労働上限規制が適用される問題

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